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「これでよし…と」 12月も半ばに差し掛かろうという頃、美浦寮のキッチンで進められていたシンボリレクイエムのクリスマスケーキ作りは聖夜の1週間前に終了した。翌週のクリスマス当日は有馬記念への出走を控えており、直前は出来るだけ練習に当てたいと考えれば、ケーキ作りが前倒しになるのは仕方ないことである。 「タグは…ちょっと早めのクリスマス、でいいかな」 今回作ったのはシンプルなデザインのホールケーキ。抹茶を混ぜ込んだクリームの上から粉砂糖を振りかけ、雪景色の森をイメージしている。真ん中にはマジパンで作った桜色の天使と緑のフードを被った少女。天使は少女から見えない位置に置かれ、少女がそれを探しているようにも見える。撮影した画像をウマスタに上げようとした時、偶然グローリアのアカウントが目に入ったことで気づいてしまう。 「我ながら執着してるな…」 と思わず漏らしてしまった。天使と少女の構図がどう見てもグローリアと自分のそれだ。それなら森はパストラルになるのだろうか。ウマスタではシンボリレクイエムだと名乗っていないとはいえ、こうまで露骨だと気付かれてしまいそうだ。 (これはお蔵入りかな…。グローリア…いつになったら会えるんだ…)人形を除いて撮り直そうと決めたレクイエムは、何となくグローリアのアカウントを見ていた。 みんなで撮った写真や練習風景、トレーナーと二人の外出等が投稿されていたアカウントは 『いよいよ有馬記念、グランプリも全力で頑張ります!』 そんな本文が付けられた練習風景の写真の投稿を最後に、一年間音沙汰がなくなっている。それでもファンからの一番新しいメッセージは10日ほど前のものであるから、彼女の人気が伺い知れるというものだ。 「やはり求められるのは…」 撮り直しをしながら漏れたレクイエムのつぶやきは、誰に聞かれるでもなく虚空に消えていった…。 数日後、レクイエムは有馬記念に向けたミーティング後にウマスタのチェックをしていた。自分を模した人形を外し、天使の人形だけを乗せたケーキの写真にはたくさんのウマいねとコメントが付けられていて、満足しつつもどこが物足りなさを感じるレクイエム。そして何気なくグローリアのアカウントを開いてみると、「また3人で遊んでるところが見たいです」という新しいコメントが付いていた。 「…っ」 思わず口元が引き攣るレクイエム。ほんの少し迷った後に深呼吸してから、意を決した顔でトレーナーに向き合う。 「トレーナー、ちょっと相談があるんだけど」 「ん、どうした?」 大きな体を丸めて書類と向き合っていたトレーナーが顔を上げる。悪役レスラーでもやってそうないかつい風貌だが菓子作り─特に洋菓子に関して腕前は一級品で、和菓子作りはプロ級だが洋菓子の経験は少ないレクイエムにとってはそっちの意味でも教えを請う機会は多かった。 「昨日のクリスマスケーキのことか?味も見栄えも申し分無いと思うが」 「いや、そっちではなくてな…」 コホン、と咳払いをしてから改めて切り出す。 「明日の練習風景を、ウマスタに載せようと思ってる。その撮影に協力してほしいんだ」 流石にこの内容は予想外だったのだろう、トレーナーは驚いた顔をしていた。レクイエムは構わずに続ける。先日グローリアのアカウントにコメントが寄せられていたこと、彼女の復帰を待ちわびるファンも多い一方で、音沙汰のない現状にやきもきしているファンもいること、でもグローリアは今復帰に向けて懸命のリハビリをしていて、ウマスタどころではないはず。それなら自分が、かつてのグローリアのアカウントのように同期たちとの写真を載せるようにすればファンも喜んでくれるはずだ。 だが腕組みしながら一通り聞き終え、少しの間目を閉じていたトレーナーの返事はレクイエムの意に沿わぬものだった。 「そういうことなら、俺は反対だ」 「な、何故だ…!私は少しでもファンの期待に応えよ「そうやって勝手に背負い込んで、半年前までのお前はどうなった?」っ…」 レクイエムの反論はトレーナーの視線に止められる。グローリアが怪我をして行方不明となった後、視野狭窄に陥ったレクイエムはただひたすらにレースを蹂躙していた。宝塚でパストラルに横っ面を叩かれるような負け方をしていなければ今頃どうなっていたのだろうか。ひょっとしたらグローリアの二の舞となり、ターフから姿を消してしまっていたかもしれない。 「お前は多分グローリアみたいな生き方は向いてない。誰かの為にとか、期待に応えるとか、そうやって周りの思いを背負い込んでいけば、また同じことを繰り返すだろう」 もっとも、あの時何も出来なかった俺に止める資格はないかもしれないがな。そう自嘲気味に付け加えたトレーナーの言葉に、レクイエムは何も言い返せなかった。 その日の夜、レクイエムが寮の自室に戻ると何故かパストラルが既に居座っていた。 「やっ、邪魔してるぜ」 「鍵はかけてあったはずだが、どうやって入ったんだ」 「つれねぇなあ、ダチが泊まりに来たんだからそういうのは置いとくもんだろ?」 「待て、泊まりとはどういうことだ?」 さらっと泊まる気満々のパストラルに思わずツッコミを入れるレクイエム、だがパストラルはどこ吹く風だ。 「ほら、オレのルームメイト今香港にいるだろ?昨日までは平気だったんたけど、今日は何か人肌恋しくてな?だからこうして同じく一人のレクイエムのとこに来たってわけさ」 もちろん寮長に許可はもらったよ、と付け加えるパストラルのイケメン仕草を横目に見ながら、レクイエムはベッドに腰掛け、何気なく聞いてみた。 「なあ、パストラルもウマスタやっているよな?」 「ん?まあな、気が向いた時しか更新してないけど」 「その…ウマスタに投稿する時に意識することはあるか?」 「…なんかあったのか?」 真面目なトーンになったパストラルに、レクイエムは今日トレーナーに話したこと、トレーナーから言われたことを話す。 「お前…それは怒られるわ」 「うぐ…」 一通り聞いたパストラルからの呆れたようなツッコミに、レクイエムは何も言い返せなかった。 「ま、お説教はトレーナーからされてるだろうから、せっかくだし質問に答えるとしようか」 改めてレクイエムに向き直り、真っ直ぐに見つめるパストラルと、その圧力に身構えるレクイエム。少しの間を置いてパストラルが口を開く。 「……そんなもんはない」 「へ?」 「だからよ、オレは別に何も気にてしねぇ。オレの気の向くまま自由にしてるぜ」 両手を上げながら肩を竦めるパストラルに呆気にとられるレクイエム。そしてパストラルは続ける。 「SNSなんて、結局の所自己表現の場なのさ。皆の期待に応える為に走ってたグローリアは、同じ様に皆の見たい物を投稿してたし、自分が楽しむことが第一だったオレは、自分が投稿したい物をしたいときにしてる」 「レクイエム、お前はどうしたい?」 パストラルに詰められ、改めてどうしたいか考えるレクイエム。自分のしたいこととはなにか、何を見てもらいたいのか。悩みぬいた末に、自分の投稿についてあることに気が付いた。 「私は…」 翌日、練習の為に坂路コースにやってきたレクイエムとトレーナー。アップを済ませたレクイエムはトレーナーに自分のスマホを手渡す。 「トレーナー、練習の撮影を頼む」 「レクイエムお前…」 突き返そうとするトレーナーを制し、レクイエムは続ける。 「分かってるさ、トレーナーが心配しているのは。でも安心してほしい、これは私がしたいと思った事だから」 スマホを操作してウマスタを開き、自分のアカウント画面を表示させながら続ける。 「これまで私は、自分のやりたいようにしていたと思っていたんだ。作りたい物を作って、気が向いたときはリクエストに応えて…。でも、本当はそうじゃなかった」 「ウマスタの投稿を振り返って、気が付いたんだ。いつの間にか私は『くーちゃん』を演じていたんだ、と」 投稿していた数々のお菓子の写真に付随するキャプション、そのどれもが素のレクイエムからはかけ離れた口調になっていた。 「最初は必要に迫られてやっていたというのもあるんだがな…」 ジュニアからクラシックにかけてのレクイエムの評価は、大言壮語の割に勝ちきれない、生意気な存在というよろしくないもので、身の程知らずとしてちょっとした炎上も経験した。そんな状況で自作のお菓子をウマスタに投稿したりすれば、さらなる火種になるのは明らかだ。 「だからこうして、くーちゃんを名乗って活動していた。私だと分からないように、私らしさを抑えたキャプションを付けたりして…逃げていたんだ、本来の私に向けられる評価から」 トレーナーにスマホの画面を見せながら、レクイエムはだから、と言葉に力を込める。 「それを今日限りで終わりにしたい。くーちゃんではなくシンボリレクイエムとして、自分への評価から逃げるのはやめる。これは、その決意表明だ」 だから、頼む。と頭を下げようとするレクイエムを制し、トレーナーはスマホを受け取る。 「そこまで本気だって言うなら、俺はもう止めはしねぇ。協力も惜しまない」 「…っ!ありがとう!」 もう一度頭を下げて礼を言うレクイエムに、トレーナーは笑顔で応えてみせた。 こうしてウマスタに投稿する動画の撮影が始まった。のだが… 「おい、トレーナー…」 「……すまねぇ」 スマホ画面を見つめるレクイエムから目を逸らすトレーナー。撮影された映像は手ブレが酷く、その上半分以上が足元しか写っておらず、およそ使えるものではなかった。 「すまねぇ、じゃないぞ!これで撮り直しは7回目だ!なんで毎回こうなるんだ!」 「な、なれてないんだから仕方ないだろ!」 「だったらなんであんな大見得切れるんだ!もうちょっと謙虚さを持て!」 「お前が言うかお前がぁ!」 その後もリテイクを重ね、十回を越えた辺りでようやく投稿出来そうな映像になった。 そして、その日のくーちゃんの投稿は、あまり上手ではないものの疾走感を感じられる練習風景の動画と 『今まで隠していたのですが、実はトゥインクルシリーズで走ってます。今日は週末の出走に向けて最後の調整をしてました。有馬記念、応援よろしくお願いします。くーちゃんことシンボリレクイエム。』 という内容の本文が投稿された。 その後、「くーちゃんがシンボリレクイエム!?」という衝撃が界隈を駆け巡ったのは言うまでもない。
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千咲ちゃん、アイドルになる 内容 本文 感想コメント 内容 タプリスがガヴリールとすれ違いながらも、困難を乗り越えてトップアイドル「紗藤すず」となり、一番大切なものを見つけるお話。 本文 ――――――――――――――――――(00/37)―――――――――――――――――― ―夜 街中― タプリス「ふふっ、いい本が買えましたぁ」 タプリス(ずっと本屋にいたせいか、すっかり遅くなってしまいましたね) タプリス(ああ、もう外も暗いです。早く帰らないと……) 『うっ、うぅ……』 タプリス(ん? なんでしょう……誰かの声?) タプリス「って、女の人が座り込んでます!」 タッタッタッ タプリス「だ、大丈夫ですか? 気分が悪いのですか?」 女性「……ぐすっ、ご、ごめんなさい。何でもないですから」 タプリス「そんなっ、何でもない人が、泣くはずありませんよ」 タプリス「何があったんですか? わたしでよければ、聞きますから」 女性「じ、実は……」 ――――――――――――――――――(01/37)―――――――――――――――――― タプリス「そうですか……お仕事にやりがいが持てなくなってしまったと」 女性「はい、今までがむしゃらにただ、突き進んできましたが」 女性「不意に自分のやってきたことは、なんだったんだろうって思って」 女性「不安になってしまって」 タプリス「……それは、確かにお辛いですね」 タプリス「でも、意味のないことなんて、この世の中にはありませんよ」 女性「えっ」 タプリス「あなたにもちゃんと、向かうべき目的地があったんですよね」 タプリス「でしたら、どのようにそこへ向かったとしても」 タプリス「そこまでの繋がりを知ることは、決して無駄にはならないと思います」 タプリス「それどころか、より深く、目的地のことを知ることができるんです」 タプリス「だから、不安になることなんてないんですよ」 女性「……ッ」 タプリス「ごめんなさい、生意気を言ってしまって」 タプリス「これは、わたしの尊敬する人の言葉の、受け売りなんですけどね」 女性「あ、ありがとうございますっ。そうですよね……」 女性「なんだか、自信が湧いてきました」 タプリス「少しでもお力になれたのなら、よかったです」ニコッ 女性「あっ……」トゥンク ――――――――――――――――――(02/37)―――――――――――――――――― 女性「あ、あなた……その、かわいいですね」 タプリス「えっ、そ、そうでしょうか。そんなことは……」 女性「いえ、絶対にかわいいです。今まで、何人も女の子を見てきた」 女性「私が言うんですから!」 タプリス「な、何人もですか?」 女性「私、こういうものです」スッ タプリス「これは名刺ですか? えっと……、アイドル事務所?」 女性「あなた、アイドルになりませんか? いえ、なるべきです!」 タプリス「ア、アイドルって、あの歌って踊ったりするアイドルですか?」 女性「ええ、そうです」 タプリス「む、無理です! 絶対無理です!」 タプリス「わたし、ただでさえ人見知りなのに、人前に出るなんて……」 女性「世の中には、人生に疲れた人がたくさんいるんです」 女性「でもあなたの笑顔は……そんな人たちに生きる希望を与えてくれる」 女性「現に、私はあなたに希望を貰いました」 タプリス「で、ですけど……」 女性「悩み、困っている人たちを、救済してもらえませんか?」 女性「あなたならきっと、大勢の人たちを救えるはずです」 タプリス「……ッ」 ――――――――――――――――――(03/37)―――――――――――――――――― タプリス(たしかに天使としての、理にはかなっている気がします) タプリス(だったらわたしは……) タプリス「あの、わたし……何をやってもダメダメですけど」 タプリス「それでも本当に大丈夫ですか?」 女性「はい、そのあたりは私たちもプロですから」 女性「きっちりサポートさせていただきます」 タプリス「わかりました、期待はずれだったら」 タプリス「いつでもクビにしてくれて、いいですからっ」 タプリス「こちらこそよろしくお願いします!」 女性「はい、よろしくお願いしますね」 ―翌日 事務所― タプリス「お、お邪魔します……」 女性「あ、千咲さん。よく来てくださいました」 女性「ささ、座ってください」 タプリス「あ、ありがとうございます」 タプリス「なんだか綺麗でおしゃれなところですね」 女性「ふふっ、ありがとうございます」 女性「内装には、これでも気を遣っているんです」 タプリス「それに、他の方もみなさん、女性ばかりなんですね」 ――――――――――――――――――(04/37)―――――――――――――――――― 女性「ええ、ここのスタッフは全員、女性ですよ」 タプリス「え、全員ですか。それは少し、安心といいますか……」 女性「ふふっ、よかったです」 女性「それでは早速ですけど、今日は広報用の写真撮影と」 女性「あとは書類作成、芸名の選定、くらいですかね」 タプリス「は、はい! よろしくお願いします!」 女性「そんなに畏まらなくても、大丈夫ですよ」ニコッ 女スタッフ「社長、撮影の準備ができました」 女性(以下女社長)「わかりました、今行きますね」 タプリス「な、ななななっ!?」 女社長「どうしました?」 タプリス「社長さんって、一番えらい、あの社長さんですよね?」 女社長「ええ、不肖ながら務めさせていただいています」 タプリス「す、すごいです……そんなすごい方に」 タプリス「わたしは昨日、あんな偉そうなこと言ってしまって……」 女社長「お気になさらないでください」 女社長「大切なのは、相手に気持ちが届いたかどうか」 女社長「手段や方法など、些細なことです」 タプリス「あ、ありがとうございます」 女社長「では、写真撮影に行きましょうか」 ――――――――――――――――――(05/37)―――――――――――――――――― タプリス「うぅ、疲れました……」 女社長「ふふっ、お疲れ様です、撮影はどうでしたか?」 タプリス「あんなひらひらしたお洋服を着たのは、初めてだったので……」 女社長「とても可愛らしかったですよ。やはり、私の目に狂いはなかったです」 タプリス「あはは、だと良いんですけど……」 女社長「それでは次は、芸名を決めましょうか」 タプリス「芸名、ですか」 女社長「本人が本名を強く望むケース以外は、基本的に芸名を採用しています」 タプリス「芸名といっても、全然思いつきません……」 女社長「そういう時は、本名をモジッて決定することが多いですね」 女社長「例えば……、千咲=タプリス=シュガーベルさん」 女社長「シュガーベル、可愛らしいお名前です」 タプリス「あ、ありがとうございます」 女社長「シュガーベル、シュガー……砂糖。ベルは……」 女社長「そうですね、さとうすず、さん」 タプリス「さとうすず?」 女社長「漢字を使うとこんな感じでしょうか、紗藤すずさん」 タプリス「す、すごい、可愛い名前ですね!」 女社長「気に入っていただけましたか?」 タプリス「はい! これでお願いします!」 女社長「ふふっ、決定ですね。それでは、次はレッスンの予定を――」 ――――――――――――――――――(06/37)―――――――――――――――――― ―数日後 ガヴリールの家― ガヴリール「おいおい、それ本当に大丈夫なのか?」 タプリス「え、何がですか?」 ガヴリール「お前が騙されてないかって、言ってるの」 タプリス「そんなことないですよ! 社長さんをはじめとして」 タプリス「スタッフのみなさんも、とても、わたしに良くしてくれてますし」 ガヴリール「始めは油断させといて、あとから……っていう手口」 ガヴリール「よくあるからな。で、名刺とかはあるの?」 タプリス「ありますよ。はい、どうぞ」 ガヴリール「ふぅん、リリィプロダクション、ね」 ガヴリール「ちょっと調べてみるか」 タプリス「まったく、疑り深いんですから……」 ガヴリール「まぁ別に、お前が本当にやりたいなら、止めはしないけど」 ガヴリール「何か危ないなと思ったら、すぐに言えよ」 タプリス「は、はい。わかりました」 タプリス「その……ありがとうございます、天真先輩」 ガヴリール「それに、お前がアイドルなんて、見世物として面白そうだからな」 タプリス「もうっ、酷いですっ! これでもちゃんとレッスン受けてるんですから!」 ガヴリール「へいへい。まあ、体だけは壊さないようにな」 タプリス「はぁい」 ――――――――――――――――――(07/37)―――――――――――――――――― ―数週間後 スタジオ― 女スタッフ「はい、1、2、3! 1、2、3!」 タプリス「……ッ」 女スタッフ「すずちゃん! ステップ遅れてる! もっと集中しなさい!」 タプリス「は、はい! すみません!」 ―― タプリス「はふ……」 女スタッフ「お疲れ様、すずちゃん」 タプリス「は、はい。ありがとうございましたっ!」 女スタッフ「ふふっ、最近、だいぶ動けるようになったわね」 タプリス「そ、そんな……わたしなんてまだまだ失敗ばかりで」 女スタッフ「いえ、伸び率だけでいったら、私が見ている中でNo1よ」 女スタッフ「まぁ、正直最初は不安だったけどね」 タプリス「あはは……ですよね……」 女スタッフ「でも、すずちゃんはとても真面目だし、礼儀正しいし、かわいいし」 女スタッフ「このまま続けていけば必ず、努力は実るわ」 女スタッフ「一緒に頑張りましょう!」 タプリス「あ、ありがとうございます、がんばります!」 ――――――――――――――――――(08/37)―――――――――――――――――― ―事務所― タプリス「わ、わたしがステージに、ですか?」 女社長「ええ、先輩アイドルのバックダンサーとして、ですけど」 タプリス「そんな……わたしにできるんでしょうか」 女社長「ダンスの技術は、ギリギリで問題ないとスタッフから聞いてますから」 女社長「あとは、すずちゃんの心持ち次第ね」 タプリス「でも、その先輩さんに迷惑をかけそうで……」 女社長「大丈夫よ、そんなの気にする子たちじゃないから」 女社長「リラックスして、ね」 タプリス「は、はい、頑張ります!」 ―数週間後 ステージ― タプリス「今日は、あ、足を引っ張らないように」 タプリス「頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします!」 先輩アイドルA「あなたが、すずちゃんね。よろしく!」 先輩アイドルB「初々しくてかわいい……食べちゃいたいくらい」 タプリス「えっ、えっ?」 先輩アイドルB「ねえ、これが終わったら、お姉さんのお家に来ない?」 先輩アイドルB「手取り足取り、いろいろ教えてあげる……」 先輩アイドルA「ちょっと、あんたねぇ。そうやって何人の新人を……」 先輩アイドルB「ふふっ、冗談に決まってるでしょ。よろしく、すずちゃん」 タプリス「は、はい、よろしくお願いします」 ――――――――――――――――――(09/37)―――――――――――――――――― 『ありがとうございましたっ!』 ―ステージ裏 控室― タプリス「お、お疲れ様でした!」 先輩アイドルA「お疲れー! すずちゃん、よかったよぉ!」 タプリス「うぅ、必死すぎて、あまり覚えてません……」 先輩アイドルB「本当にかわいかったわ。どう? この後……」 先輩アイドルA「こらこら、また!」 先輩アイドルB「もう、うるさいわねぇ……」 タプリス「あははは……それにしてもお客さん、女性の方ばかりでしたね」 タプリス「すごい盛り上がりでしたけど」 先輩アイドルA「あれ? 聞いてないの?」 タプリス「えっ?」 先輩アイドルB「ここのライブのお客さんはね、女性会員限定なのよ」 タプリス「そ、そうだったんですか……」 先輩アイドルA「ふふっ、安心した?」 タプリス「えっと、す、少しですけど……」 先輩アイドルB「こんなかわいいすずちゃんを、男の目の前に晒すとか」 先輩アイドルB「猛獣の前に霜降り肉を置くのと同じだわ」 先輩アイドルA「その例えはどうなのよ……って、いけない、もうこんな時間」 先輩アイドルA「それじゃあね、すずちゃん。また、一緒にステージあがろっ!」 先輩アイドルB「バイバイ」 タプリス「はい、今日は本当にありがとうございましたっ!」 ――――――――――――――――――(10/37)―――――――――――――――――― タプリス(こうして、いつかわたしも、ああなりたいと思いながら) タプリス(より一層レッスンにレッスンを重ねる日々が続いて) タプリス(いつの間にか、数ヶ月が過ぎていました) ―事務所― タプリス「わ、わたしが、ソロライブですか!?」 女社長「ええ、厳密には複数人のローテーションでプログラムを組むんだけど」 女社長「20分間、あなただけの時間が取れそうなの」 タプリス「……ッ」 女社長「客観的に見れば……」 女社長「今まで努力を積み重ねてきた結果は、しっかりと出ている」 女社長「あなたの実力自体に、問題はないわ」 女社長「あとは……あなたのやる気次第ね」 女社長「どう? やってみる?」 タプリス「……はいっ」 タプリス「わたしに、やらせてください! お願いします!」 女社長「ふふっ、いい返事ね。頑張りましょう、すずちゃん」 タプリス「はい!」 タプリス(そして、準備と特訓に明け暮れて) タプリス(ライブまでの時間は刻々と過ぎていき……) タプリス(ついに、ライブ当日を迎えたのです) ――――――――――――――――――(11/37)―――――――――――――――――― ―初ライブ当日 ステージ裏― タプリス(き、緊張します……でも、やれるだけのことはやりました!) タプリス(ならわたしは、全力を尽くすのみです!) 司会「では続いては、期待の新星! 妹系アイドル!」 司会「紗藤すずちゃんです! どうぞ!」 タッタッタッ タプリス「さ、紗藤すずですっ! よろしくお願いしましゅ!」 タプリス(うぅ……か、噛んじゃっいました! って……) シーンッ タプリス(お客さんが全然……いない) タプリス(……そっか、そうだよね。やっぱり、わたしなんか) タプリス「……ッ」 タプリス(ち、違う。よく見たら、三人くらいお客さんが) タプリス(わたしのステージを、見てくれる人が、いるんだっ) タプリス(だったら、わたしは……!) タプリス「今日は、わたしのライブに来てくれて! ありがとうございます!」 タプリス「本当に本当に、涙が出るくらい嬉しいです!」 タプリス「それでは……聞いてくださいっ!」キラッ ――――――――――――――――――(12/37)―――――――――――――――――― 司会「以上、紗藤すずちゃんでしたー!」 タプリス「あ、ありがとうございました!」 パチ パチ パチ ―ステージ裏 控室― タプリス「はぁ……はぁ……」 女社長「お疲れ様、すずちゃん」 タプリス「あ、社長さん。お疲れ様です! ありがとうございました!」 女社長「えっと……ごめんなさいね」 タプリス「えっ、どうして社長さんが謝るんです?」 女社長「もう少しお客さんを呼べる見込みだったんだけど」 女社長「予想以上に人数が集まらなくて……」 タプリス「いえっ! 何人であっても、わたしのことを……」 タプリス「見に来てくれたお客さんがいたことが」 タプリス「本当に嬉しかったですからっ」 女社長「すずちゃん……、そうね、これからも頑張っていきましょう」 タプリス「はい! よろしくお願いします!」 ――――――――――――――――――(13/37)―――――――――――――――――― タプリス(しかし、その後も……) タプリス(何度かライブに出させてもらえる機会には恵まれましたが) タプリス(一向に人気の出ないまま、時間だけが過ぎていきました) ―ガヴリールの家― ガヴリール「どうした、そんなぼーっとして」 タプリス「えっ、そ、そんなことないですよ。元気元気です!」 ガヴリール「……順調なのか? アイドル活動は」 タプリス「はい、順調です! もう何度もライブを開いてもらって」 タプリス「着実に実力を上げてるんですからっ」 ガヴリール「……お前がつらいのなら、やめてもいいんだぞ」 タプリス「……ッ」 ガヴリール「お前がアイドルをやめても、困るやつは誰もいない」 タプリス「……どうして」 ガヴリール「えっ」 タプリス「どうして、そんなこと言うんですかッ!」 ――――――――――――――――――(14/37)―――――――――――――――――― タプリス「わたしにだって……、わたしのことを見てくれる人が、いるんですッ!」 タプリス「だったらわたしは、その人たちに少しでも元気になってもらいたい!」 タプリス「笑顔になってもらいたいから、頑張るって決めたんです!」 ガヴリール「おい、落ち着けって……」 タプリス「それなのに……ぐすっ、ひどい、です……」 ガヴリール「……」 タプリス「……天真先輩なんて、大っ嫌い!!」 バタンッ ガヴリール「……はぁ、余計に焚き付けたか」 ― 一週間後 事務所 ― タプリス「はぁ……」 タプリス(あれから天真先輩とは、一度も連絡を取ってませんけど) タプリス(やっぱり、わたしの言い過ぎ、でしたよね……) タプリス(でもあんな風に、やめろだなんて言わなくても) タプリス「……はぁ」 女社長「どうしたの、ため息なんてついて」 タプリス「あ、社長さん。す、すみません」 女社長「別に良いのよ。それより、すずちゃん、最近悩んでるみたいだから」 タプリス「やっぱり、わかりますかね……?」 女社長「ええ。でも、そんなすずちゃんに朗報よ」 タプリス「えっ?」 ――――――――――――――――――(15/37)―――――――――――――――――― タプリス「ファンレター、ですか?」 女社長「ええ、あなた宛てに。たぶん、初めてよね?」 タプリス「はい、初めてです」 女社長「はいこれ。もし、余裕があるのなら」 女社長「返事を書いてあげると、相手も喜ぶかもね」 タプリス「わ、わかりました!」 ―タプリスの家― 『あなたの眩しい笑顔を見ていると』 『私も頑張ろうっていう気力が湧いてきます』 『これからもお体にだけは気をつけて、頑張ってください』 『陰ながら応援しています』 タプリス「……ッ」 タプリス「うっ……うぅ……」ポロポロ タプリス「……よかった」 タプリス「今まで、続けてきて、本当によかった……」 タプリス「……がんばらないと」 タプリス「もっともっと、頑張らないと!」 タプリス「……お返事、書かないといけませんね」 ――――――――――――――――――(16/37)―――――――――――――――――― タプリス(それからも、精力的にライブ、握手会、イベントの数をこなしていった結果) タプリス(わたしの人気は、徐々にではありますが、上がっていきます) タプリス(ファンレターもそれに比例して増えていきましたが) タプリス(最初にいただいた方とは、その後も、やり取りを続けて) タプリス(何度も何度も、つらい時に励ましてもらいました) ―数ヶ月後 事務所― 女社長「あ、すずちゃん。SNSのコメントへの返信、お願いね」 タプリス「は、はい!」 女社長「あとこれ、ファンレター」ドサッ 女社長「全部に目を通すのは難しいから、目についたものだけでね」 タプリス「わ、わかりました」 タプリス(……あ、この封筒、あの人だ)スッ 女社長「あと、来週の単独ライブの準備は順調?」 タプリス「はい、バッチリだと思います!」 女社長「うん、いい返事! 期待してるわね!」 タプリス「はい!」 ――――――――――――――――――(17/37)―――――――――――――――――― ―単独ライブ当日 ステージ― タプリス「今日はみなさん、来てくれてありがとうございます!」 キャー キャー タプリス「思いっきり、楽しんでいってくださいねー!!」 ワァー ワァー スズチャーン タプリス「それでは一曲目ぇ……スタートですッ!!」 ―数時間後 ステージ裏― タプリス「はぁ……疲れましたぁ……」 先輩アイドルA「お疲れ! すずちゃん!」 タプリス「あっ! お久しぶりです! お疲れ様です!」 先輩アイドルB「すごい盛り上がり方だね」 タプリス「ええ、本当にありがたいです」 先輩アイドルA「さすがすずちゃん。いつの間にか私たちに追いつき、追い越して」 先輩アイドルA「もう今では、うちの稼ぎ頭だし」 タプリス「そ、そんなことは……」 先輩アイドルB「やっぱり、あの初々しい時に、手を出しておけばよかった」 先輩アイドルA「こらこら……また、そんなこと言って」 タプリス「またみなさんと一緒に、ワイワイしながらライブをしたいですね」 先輩アイドルA「ええ、私も!」 先輩アイドルB「私とワイワイ、夜のお泊りでもいいのよ?」 タプリス「あははは……」 ――――――――――――――――――(18/37)―――――――――――――――――― ―数週間後 タプリスの家の前の夜道― タプリス(うぅ、だいぶ遅くなってしまいました) タプリス(帰ったらシャワーを浴びて、すぐ寝ないと) ガサッ タプリス(ん?) ガサガサガサッ タプリス(ひっ、な、何の音!?) タプリス(と、とりあえず、逃げないと……) タッタッタッ ―タプリスの家― バタンッ タプリス「はぁ……はぁ……、なんだったんでしょう、今の」 タプリス「野良犬か何かですよね、きっと」 タプリス「気にしすぎ、気にしすぎ……」 ――――――――――――――――――(19/37)―――――――――――――――――― ―数週間後 事務所― 女社長「すずちゃん、何かあった?」 タプリス「えっ、どうしてです?」 女社長「何か浮かない顔をしているような気がして」 タプリス「そ、そんなことないですよ」 女社長「そう、それなら良いのだけど。何か相談ごとがあったら」 女社長「いつでも言ってね、どんな些細なことでもいいから」 タプリス「……えっと」 女社長「やっぱり、何かあるのね……話して、お願い」 タプリス「わ、わたしの気のせいかもしれないんですけど……」 ―― 女社長「最近、誰かにつけられている気がする、と」 タプリス「はい……」 女社長「わかったわ。とりあえず、仕事時には送り迎えのスタッフを常時つけるわね」 タプリス「あ、ありがとうございます」 女社長「あとは警察に……」 タプリス「そ、それは、ちょっと。わたしの勘違いかもしれないので」 女社長「でも……」 タプリス(天使である以上、警察と関わりをもつのは) タプリス(あまりよろしくないですよね……) ――――――――――――――――――(20/37)―――――――――――――――――― タプリス「もう少しだけ、様子を見させてもらえませんか?」 女社長「……わかったわ。でも危ないと思ったら、すぐに言うこと」 女社長「良いわね?」 タプリス「は、はい。あ、それでは、歌のレッスンに行ってきます」 女社長「ええ、行ってらっしゃい」 ―― 女スタッフ「社長、すずちゃんのSNSの件で相談が……」 女社長「どうしたの?」 女スタッフ「特定のアカウントからの誹謗中傷が、最近ひどくなってきまして」 女社長「……すずちゃんに見せる前には、削除しているのよね?」 女スタッフ「ええ、もちろんです」 女社長「わかったわ。引き続き、監視をお願い」 女社長「あと、あまりにも過激な内容が送られてきた場合は」 女社長「すずちゃんの保護を優先して、即連絡を」 女スタッフ「わかりました」 女社長「……」 女社長「私の大事な子たちには、指一本触れさせないわ」 ――――――――――――――――――(21/37)―――――――――――――――――― ―数日後 住宅街― タプリス「す、すみません、毎晩ついて来てもらって」 女スタッフ「いえ、良いんですよ。これが私の仕事です」 女スタッフ「それにすずちゃんは、スタッフのみんなから」 女スタッフ「妹のように可愛がられてますし。もちろん、私もそう思ってます」 女スタッフ「だから守ってあげたいという気持ちは、みんな同じです」 タプリス「あ、ありがとうございます。わたしもみなさんのこと」 タプリス「お姉さんのように思ってますから!」 女スタッフ「あははっ、そう言われたら、俄然、張り切っちゃいますよ」 ブロロロロロッ キキーッ 女スタッフ「ん?」 タプリス「えっ?」 ガチャ ドスッ 女スタッフ「かはっ……」 バタンッ タプリス「な、なななっ……」 女スタッフ「……す、すずちゃ、……逃げ、て」 女性ファン「みぃつけた」ニタァ ――――――――――――――――――(22/37)―――――――――――――――――― 女スタッフ「……はやく、逃げ――」 ドスッ 女スタッフ「あがっ……」 女性ファン「うるさい」 タプリス「ひっ! ご、ごめんなさい!」 タッタッタッ 女性ファン「追いかけっこ? いいわよ?」 ―― タッタッタッ タプリス(ど、どうして、どうしてこんなことに……) タプリス(やっぱり社長さんの言うとおり、警察に連絡していれば……) タプリス(わ、わたしのせい、だ……) グキッ バタンッ タプリス「いたっ! あ、足が……」 女性ファン「ふふっ、もう追いかけっこは終わり?」 タプリス「ひっ……」 女性ファン「そんなに怯えなくてもいいのよ、すずちゃん」 女性ファン「だって、私はあなたのことを、愛しているのだから」ニタァ ――――――――――――――――――(23/37)―――――――――――――――――― タプリス「わ、わたしは……あなたのことなんて、知りませんっ!」 女性ファン「そんなはずないじゃない。あれだけ会って、お話もしてるのに」 タプリス「えっ?」 女性ファン「あんなに二人で視線を交わしたじゃない。面白い冗談を言うんだから」 タプリス「し、視線? まさか、わたしのライブに……」 女性ファン「ええ、もちろん。あなたの熱い眼差し、ずっと感じていたわ」 タプリス「……ッ」 女性ファン「だから今日は、一緒になりにきたの、あなたと」 女性ファン「ね、すずちゃん。愛しているわ」ガシッ タプリス「やめてください! わたしはあなたのことっ!」 タプリス「愛してなんかいませんっ!」 女性ファン「え?」 タプリス「わたしの大事な人たちを傷つけるような人なんて……」 タプリス「大嫌いですっ!!」 女性ファン「……ッ」 タプリス「……」 女性ファン「……フフ」 タプリス「……ッ」 女性ファン「あはははははははははははははっ!!!」 ――――――――――――――――――(24/37)―――――――――――――――――― 女性ファン「どうしても、私のものにならないって言うのね?」 タプリス「そ、そうですっ! 誰があなたなんかに……」 女性ファン「そう、じゃあ……」 ガシッ ギュゥ タプリス「かはっ……く、くるしい……」 女性ファン「あなたを殺して、私も死ぬわ」 女性ファン「だって、私のものにならないんだったら」 女性ファン「誰にも渡したくないもの」 女性ファン「あっちの世界で、一緒になりましょう?」ニタァ ギュゥゥゥゥッ タプリス「……ッッ」ジタバタ タプリス(だめっ、い、息ができっ……) タプリス(……わ、わたしが、アイドルになったからっ) タプリス(あの時、諦めていたらっ) タプリス(ごめっ……ごめんな……さい……) 女性ファン「ふふっ、最後が醜い顔になるのは、さすがに可哀想ね……」 女性ファン「このナイフで、ひと思いに殺してあげるわ」 キラッ 女性ファン「死ねぇぇぇ!!」ブンッ タプリス(て、天真先輩っ!) ――――――――――――――――――(25/37)―――――――――――――――――― グサッ ポタッ ポタッ ポタッ ガヴリール「……ッ」 タプリス「……えっ?」 女性ファン「なっ!? あんた……」 ガヴリール「……おらぁっ!」 ドゴォッ 女性ファン「がはっ!!」 ズサァァ ガヴリール「大丈夫か、タプリス」 タプリス「て……天真、先輩?」 ガヴリール「遅くなって、悪かったな」 タプリス「せ、先輩! 腕がっ、先輩の腕が!」 ガヴリール「ああ、これか? こんなの大したことない」 タプリス「でも血が、たくさん血が出てっ!」 ガヴリール「……私が来たからには、もう大丈夫だ」 タプリス「先輩、ぐすっ……天真先輩ぃ……」 ガヴリール「タプリス。ちょっとだけ、ここで待てるか?」 タプリス「は、はい……」 ガヴリール「いい子だ」ナデナデ ――――――――――――――――――(26/37)―――――――――――――――――― 女性ファン「いたたっ、あ、あんた何者よ」 ガヴリール「……」スタスタスタ 女性ファン「答えなさいよ! 何者だって聞いて――」 ガヴリール「お前」 女性ファン「……ッ」 ガヴリール「死にたいんだってな」ギロッ 女性ファン「ひっ!」 ガヴリール「……なぁ、お前たちも聞いたよな?」 女性ファン「えっ?」 ドドドドドドッ 女ファンクラブ会員たち「……」ギロッ 『裏切り者は滅せよ』 『万死に値する』 『裁きの時間だ』 女性ファン「ひぇっ、た、助け……」 ガヴリール「今更、命乞いしても遅い。やるぞ、みんな」 ドカッ バキッ ボコッ ――――――――――――――――――(27/37)―――――――――――――――――― 女性ファン「」チーン ガヴリール「ふぅ、ここまでが限界か」 タプリス「て、天真先輩、この方たちは……」 女クラブ会員「私たちは、すずちゃんファンクラブの会員ですよ」 タプリス「わ、わたしのファンクラブ?」 女クラブ会員「ええ。それにしても間に合って、本当に良かった」 女クラブ会員「というか、会長! 腕の怪我、早く治療しないと」 タプリス「えっ?」 ガヴリール「なっ、しーっ、しーっ」 女クラブ会員「あ、オフレコでしたっけ、すみません」 ガヴリール「い、今のは、この人の冗談だぞ。な、何でもないからな、タプリス」 タプリス「は、はい……」 ガヴリール「とりあえず、警察に病院と、少しだけ忙しくなるぞ」 ガヴリール「話はその後、ゆっくりな」 タプリス「は、はい。でも、これだけは言わせてください」 タプリス「本当に……ぐすっ……本当にありがとうございました、天真先輩」 ガヴリール「ああ、別にいいよ。お前が無事だったのなら」 ――――――――――――――――――(28/37)―――――――――――――――――― タプリス(その後、わたしたちは各所をたらい回しにされ) タプリス(事務所の方たちからは、怒涛の詫び言葉を浴びてしまい) タプリス(ようやく一息つけたのは、三日後のことでした) ―病室― ガヴリール「こんなので入院しないといけないとはな」 ガヴリール「暇で仕方ない……」 タプリス「そう言わないでください、先輩」 タプリス「もし後遺症が出てしまったら、大変です」 ガヴリール「心配しすぎだって、もう片手でもネトゲはできるし」 タプリス「天真先輩……」 ぎゅぅ タプリス「……」 ガヴリール「……どうした? まだ怖いか」 タプリス「先輩、わたし……」 ガヴリール「……ん?」 タプリス「アイドルをやめます」 ガヴリール「……」 タプリス「今回の件でわかりました」 タプリス「たしかにアイドルは、たくさんの人たちに」 タプリス「元気を与えることができる存在です」 ――――――――――――――――――(29/37)―――――――――――――――――― タプリス「でも、それと引き換えに……」 タプリス「大事な人たちが傷つくのはもっと嫌なんです」 ガヴリール「……そうか」 タプリス「先輩、言ってましたよね」 タプリス「わたしがアイドルをやめても、困るやつは誰もいないって」 ガヴリール「ああ」 タプリス「その意味が、ようやくわかりました」 タプリス「……アイドルは、わたしの他にもたくさんいますから」 ガヴリール「そうだな」 タプリス「でも……」 ガヴリール「……」 タプリス「天真先輩を想うわたしは、一人しかいません」 タプリス「だから、わたしは……」 タプリス「アイドルを、やめます」 ガヴリール「……わかった」 ガヴリール「お前が決めたのなら、私は止めない」 タプリス「ありがとうございます、先輩っ」ニコッ ――――――――――――――――――(30/37)―――――――――――――――――― ―事務所― タプリス「今まで本当に、お世話になりました」 女社長「こちらこそ、何度も言うようだけど、本当にごめんなさい」 タプリス「いえ、あれが起きなかったとしても、いずれわたしは」 タプリス「こうしていたと思いますから」 女社長「そう、あなたにとって一番大切なものを……見つけたのね」 タプリス「……はい」 女社長「それなら、私からは何も言うことはないわ」 女スタッフ「すずちゃんが自分で決めたのなら、仕方ありませんね」 タプリス「あっ、怪我の方はもう……?」 女スタッフ「ええ、軽傷でしたし、もともと体は頑丈ですから」 タプリス「よかったぁ……わたしのせいで、本当にごめんなさい」 女スタッフ「すずちゃんのせいじゃありませんよ。むしろ私たちが……って」 女スタッフ「このやり取り、何回しましたかね。も、もうやめましょうか」 タプリス「あはは……ですね」 女スタッフ「戻ってきたいなぁって思ったら、すぐ言ってください」 女スタッフ「私たちはいつでも、あなたの帰りを待ってますから!」 女社長「みんな! 今日は早めに切り上げて、すずちゃんの送別会をやるわよ!」 みんな「おー!」 タプリス「あ、ありがとうございます、みなさん!」 タプリス「本当に本当に……お世話になりましたっ!!」 ――――――――――――――――――(31/37)―――――――――――――――――― タプリス(送別会では、事務所のスタッフさん、そして……) タプリス(先輩アイドルのみなさんから、とても温かいお言葉をいただき) タプリス(いかに自分が恵まれていたのかが、よくわかりました) タプリス(本当に、かけがえのない経験をさせてもらいました) タプリス(そして、数日が経ち、天真先輩は無事に退院して) タプリス(わたしたちの日常が帰ってきました) ―ガヴリールの家― タプリス「はい、あーん」 ガヴリール「別に、反対の手でも食べられるっての」 タプリス「ダメですよ。治るのが遅くなっちゃいます」 タプリス「ほら、お口をあけて、あーん」 ガヴリール「……」パクッ タプリス「まだまだ、たくさんありますからね」 ガヴリール「はぁ……勘弁してくれ」 ―― タプリス「あ、ついでに掃除もしてしまいます」 ガヴリール「別にいいよ、昨日もしてくれただろ……」 タプリス「こういうのは、毎日やらないとダメなんです」 ガヴリール「へいへい」 ――――――――――――――――――(32/37)―――――――――――――――――― パタパタパタ タプリス「お掃除お掃除、ふんふんふーん♪」 タプリス「棚のホコリも、とっちゃいます♪」 ガタンッ ドサッ タプリス「あっ」 ガヴリール「おいおい、物を壊すんじゃないぞ」 タプリス「だ、大丈夫です、壊れてないですから」 ヒラヒラッ タプリス「ん? これは……写真?」 ペラッ タプリス(えっ? 写ってるのは、わたし?) タプリス(というか、これ、ライブの時の……) タプリス(ッ!? この衣装……見覚えがあります) タプリス(……これは、初ライブの時の衣装です) タプリス(天真先輩がどうしてこんなものを……) タプリス(だって、あの時、お客さんは数人しか……) タプリス(ま、まさか……) ガサガサッ タプリス(……この封筒、わたしがあの人に出した手紙だ) ――――――――――――――――――(33/37)―――――――――――――――――― ガヴリール「おい、何見てる……って!!」 タプリス「せ、先輩……これ」 ガヴリール「いや、その写真はだな! ちょっと知り合いにもらったもので!」 タプリス「……この手紙もですか?」 ガヴリール「そ、それは……」 タプリス「先輩が……あのファンレターをくれた方だったんですね」 タプリス「そして、わたしの初ライブにも、来てくれた」 ガヴリール「……」 タプリス「先輩」 ガヴリール「……ああ、悪いかよ」 ガヴリール「心配だったんだよ、お前が!」 ガヴリール「いきなりアイドルやるなんて、わけのわからないこと言い出してさ!」 ガヴリール「内気で人見知りなお前が、だ!」 ガヴリール「それでもお前は、アイドルになるために一生懸命、頑張ってて」 ガヴリール「悩んでも苦しんでも、ずっと前に進み続けて」 ガヴリール「そしたらいつの間にか、トントン拍子で話が進んでさ」 ガヴリール「お前がなんだか、遠くに行っちゃうような気がして」 ガヴリール「正直言って、寂しかったんだよ……」 タプリス「天真先輩……」 ――――――――――――――――――(34/37)―――――――――――――――――― ガヴリール「でも、お前が決めたことだからさ」 ガヴリール「せめて私は、お前のこと応援してやろうと思ったんだ」 ガヴリール「変装してライブに行って、ファンレターも本気で書いて」 ガヴリール「ファンクラブの会長にまでなってさ」 ガヴリール「笑えるだろ? お前にアイドルやめろって言った奴が――」 タプリス「笑ったりなんかしませんッ!!」 ガヴリール「……ッ」 ぎゅぅぅ ガヴリール「……タ、タプリス?」 タプリス「笑うはず……ないです」 タプリス「わたしがどれだけ、ライブのお客さんに元気をもらったと……」 タプリス「わたしが何度、あのファンレターに救われたと、思ってるんですか」 ガヴリール「……」 タプリス「なんなんですか、先輩は……どうして、どうしてそんなッ」 タプリス「わたしがしてほしいことを、してくれるんですかッ」 タプリス「これ以上わたしを、ぐすっ……どうしたいんですか……」 タプリス「わたしは先輩に、何をしたらいいんです……」 ガヴリール「……私のそばにいてくれ」 ぎゅぅ タプリス「……ッ」 ガヴリール「だめか?」 タプリス「……そんなの」 タプリス「決まってるじゃないですか」ニコッ ――――――――――――――――――(35/37)―――――――――――――――――― ―数日後 ガヴリールの家― タプリス「社長さんに無理を言って……」 タプリス「初ライブの時の衣装、借りてきちゃいました、てへ」 タプリス「天真先輩、どうですか?」クルクルー ガヴリール「あ、ああ、その……」 タプリス「その、なんですか? せーんぱいっ?」 ガヴリール「……か、かわいいよ、良く似合ってる」 タプリス「そうですかそうですかぁ」 ぎゅぅぅ タプリス「先輩……」 ガヴリール「お、おい」カァァ タプリス「……初ライブの時、あの場所に先輩がいてくれたから」 タプリス「わたしはアイドルとして、あそこまで成長できたんです」 タプリス「今のわたしがいるのは……先輩のおかげなんです」 ガヴリール「タプリス……」 ――――――――――――――――――(36/37)―――――――――――――――――― タプリス「だから先輩、わたしは……あなただけのアイドルになります」 タプリス「先輩がかわいいって言ってくれた、わたしを……」 タプリス「先輩は……独り占め、しちゃってください」 ガヴリール「ああ、わかったよ。お前は、私だけのアイドルだ」ナデナデ タプリス「えへへ、先輩……」 スッ ガヴリール「タプリス?」 タプリス「……というわけで、ミュージックスタートです!」 ガヴリール「え?」 ~♪ ~♪ ~♪ ガヴリール「ちょっ、タプリス! 近所迷惑だって!」 タプリス「あとで、一緒に謝りに行きましょう!」 タプリス「わたしの、この想い、あなたに届け!」 タプリス「紗藤すず、天真先輩のために歌いますっ!」キラッ おしまい ――――――――――――――――――(37/37)―――――――――――――――――― SS一覧へ このページのトップへ 感想コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
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エオルゼアの明日のために 依頼主 :ミンフィリア(ウルダハ:ナル回廊 X10-Y11) 受注条件:レベル46~ 概要 :ミンフィリアは三国首領会議の動向を心配しているようだ。 ミンフィリア 「バルデシオン委員会に連絡をとったわ。 すでにガレマール帝国から、 エオルゼアの各首領のもとへ最終通告が行われたそうよ。 ここウルダハの「香煙の間」で、 三国首領による会談が行われているようだけれど、 委員会に居る知人の話によれば、状況は良くないわ・・・・・・。 時間がないわ、急いで首領たちのところへ行きましょう。 ・・・・・・話し合いの結論が出る前に、 エオルゼアの牙が折れていないと伝えなきゃ!」 ミンフィリア 「時間がないわ、急いで「香煙の間」へ行きましょう! 「暁の血盟」の灯りは消えてないって、 首領たちに証明しなきゃ!」 ロイヤル・プロムナードのバーソロミューと話す バーソロミュー 「ここから先は、王宮へと続くロイヤル・プロムナード。 現在は緊急会議中である。 すみやかにお引き取り願おう。 ・・・・・・えッ、「暁」から緊急の用件が!? し、失礼しましたッ! それでは「香煙の間」へご案内いたします。」 ラウバーン 「これでは話が平行線だな。」 メルウィブ 「帝国軍第XIV軍団長、ガイウスから、 我々に届けられた書簡・・・・・・。」 カヌ・エ・センナ 「それに対し、私たちが出すべき結論・・・・・・。」 ラウバーン 「アルテマウェポンを持つ帝国軍の前に、 屈するのか・・・・・・あくまで戦うのか・・・・・・。」 カヌ・エ・センナ 「第七霊災から5年・・・・・・。 人々の顔に、やっと笑顔が戻ってまいりました。 その人々を、ふたたび戦場に送ることなど、 たやすく決意できるものではありません。 特に、ガイウス卿が申すとおり、 三蛮神をたやすく討つ力があるのであれば、なおのこと。 戦となれば、戦場は死地となりましょう・・・・・・。 それに「双蛇党」は、国内の不測の事態に 備えておく必要があります。」 メルウィブ 「エオルゼア諸国が抱える蛮神問題。 大きな犠牲を払い、蛮神と永遠に戦い続ける未来は、 まさに暗黒・・・・・・。 このまま消耗戦を続けることは、 我が「黒渦団」に限らず、皆が望まぬはず。 ガイウス率いる第XIV軍団が、 本国の意向を離れ、独自に動いているとの情報もある。 奴らに従わないまでも、 同調の道を探ることもできるのではないか?」 ラウバーン 「「鋼鉄」と呼ばれた女提督殿も、弱気なことだ。 結局は、グリダニアもリムサ・ロミンサも、 国内問題を優先したいのであろう? ウルダハも人のことを言えぬか・・・・・・。 恥ずかしい話だがな。 迫るアマルジャ族に、押し寄せる難民・・・・・・。 そして、一枚岩になりきれぬ砂蠍衆。 これでは「不滅隊」も簡単には動かせん。 大層な演説で国民を沸き立たせたところで、 目の前の問題が、すぐに片付くわけではない。」 ナナモ・ウル・ナモ 「・・・・・・ラウバーン。 それは、どこの国も同じじゃ。 誰もそれを責めることはできぬ。 皆、戦いに疲れておるのじゃ。 消沈した民を導くには、きれい事の言葉も必要・・・・・・。 政(まつりごと)とは、かようなものじゃろう? ガイウスなる者が、それを責めようとも、 わらわはラウバーン、そちを責めん。 力なきは、わらわも同じじゃ。 元より、エオルゼアと帝国は敵じゃ。 ただ、復興に明け暮れる日々の中で、 それを忘れていただけに過ぎぬ。」 カヌ・エ・センナ 「私たちが、復興を目指す陰で、 帝国は刃を研ぎ続けていた・・・・・・。 森を抜ける風の如く、過ぎ去っていったこの5年・・・・・・。 私たちと帝国が成してきたことは、あまりに違います。」 メルウィブ 「今や「暁の血盟」は失われた・・・・・・。 彼らは、蛮神問題の担い手としてだけでなく、 エオルゼアの精神の主柱でもあったのだ。」 アルフィノ 「「暁の血盟」は、失われてなぞいないッ!」 メルウィブ 「ミンフィリア、アルフィノ殿、それに・・・・・・シド!?」 カヌ・エ・センナ 「あなたも・・・・・・みんな無事で・・・・・・。」 ラウバーン 「お前たち・・・・・・生きていたのか!!」 アルフィノ 「どうしたのだ、諸国の首領よ! エオルゼアの民はみな、 気高く、誇り高く、雄々しいのではなかったのか!」 ミンフィリア 「蛮神を倒すために、大きな力に頼るのは間違っています! 大きな力を用いて蛮神を倒したとしても、 結局は、それより大きな力を求めて、 新たな民が新たな蛮神を生み出すだけ・・・・・・。 蛮神とは、混乱と絶望の内に、 民が祈り、願うことで生まれいずるもの。 ならば、その世を正さない限り、 蛮神は生まれ続けるのです!」 アルフィノ 「それに、帝国と同調などありえない。 奴らが力でエオルゼアを支配する未来・・・・・・。 それこそ、暗黒の時代が訪れるぞ!」 ミンフィリア 「目の前の問題は、自分たちで解くことに意味があります。 安易に力という解答に頼るのは怠惰よ。」 アルフィノ 「エオルゼアの平和とは何だ!? 5年前、みなが命がけで戦ったのは何故だ!? 真の平和と自由を勝ち取るためだろう!? エオルゼアは、まだ牙を失っていない。 そうだろう!?」 ミンフィリア 「わたしたち「暁」の明かりは、再び灯ったのです! 今こそ、もう一度心をひとつに! エオルゼアを救うために!」 シド 「真の商人は、未来の利のために財を投じるもの。 そうなんだろ、牛親父。」 ラウバーン 「シド・・・・・・。」 カヌ・エ・センナ 「・・・・・・自分の愚かしさに腹が立ちます。 大地と豊穣の女神ノフィカ様の教えを、 今になって思い出すとは。 豊穣の恵みは、先人の血と汗の中にこそ得られるもの。 それを森の恵みだなどと、享受することに 馴れきっていた私は、なんと情けないことか・・・・・・。 グリダニアは、エオルゼアの気高き民・・・・・・。 私たちグリダニアは、歴史上も侵略者に対して、 一歩も引かずに戦ってきたのです。 今更、何を及び腰になる必要がありましょうか。 「双蛇党」は動きます。 この神々に愛されし美しい大地から帝国を放逐し、 私たちのエオルゼアを取り戻すために!」 ナナモ・ウル・ナモ 「くくくくく・・・・・・。 あは、あはははは! 面白い、面白いぞ、カヌ・エ!」 メルウィブ 「フフフフフ・・・・・・」 ラウバーン 「ハッハッハッハッ!!」 ナナモ・ウル・ナモ 「そうじゃ、その顔じゃ。 お主らに、エオルゼアに足らなかったものじゃ! ラウバーン! ウルダハも負けてはおれぬぞ!」 ラウバーン 「いつのまにか吾輩は恐れていた・・・・・・。 また、祖国を失うことを。 戦わずして、祖国を守れようか? 困難こそ、勝機かつ商機と解っていたはずではないか。 我らウルダハは、エオルゼアの雄々しき民。 涸れた砂地に倒れようとも、 砂金をつかみ立ち上がるまでよ。 吾輩たちは、何度背中を押されたのだろうな・・・・・・。 この熱き心を持つ者たちに。」 メルウィブ 「さすが、グランドカンパニーの盟主たち。 どいつもこいつも、裏をかえせば曲者揃いってわけか。 私だって、気骨一筋の海賊あがりだ! たとえ相手が帝国だろうと、やってやろうじゃないか! 面倒な奴は、味方につけるか海に沈めろ。 海賊の掟に従うまでだ! エオルゼアの誇り高き民。 リムサ・ロミンサという巨艦の底力を見せてやる!」 ナナモ・ウル・ナモ 「このエオルゼアの危機、 わらわたちで守ってみせようぞ!」 盟主たち 「おう!」 (カヌ・エ・センナ 「まずはアルテマウェポンの頭を抑えます。」 メルウィブ 「海上拠点は我らが抑えよう。」 ラウバーン 「お願いする。では不滅隊は前線に出よう。」) ナナモ・ウル・ナモ 「世話を焼かせたな「暁」の者。 もう心配はいらぬぞ。 軍略は我らに任せよ。 砂の家に控え、号令を待つがよいぞ。」 砂の家のミンフィリアと話す イダ 「パパリモはさ、しっかりしろってアタシを叱るくせに、 あっさり帝国に捕まったわけじゃない? 自分が心配かけてどーするの、って思うわけ。 ・・・・・・まあ、無事だったからいいんだけど!」 パパリモ 「イダはさ、助けにきたのに最後で気を抜いただろ? 僕が援護してなかったら、どうなってたことか・・・・・・。 本当にしっかりしてほしいよ。 ・・・・・・まあ、相変わらずで何よりだけど!」 ヤ・シュトラ 「これでやっとひと段落・・・・・・ いえ・・・・・・ここからが本当の決戦ね。 今度こそ、5年前のような惨劇にはさせないわ。 私たちは必ず勝って・・・・・・ サンクレッドを連れ戻したら、お説教が必要ね。」 シド 「帝国に残してきた俺の技術が あの化け物にも使われているというのなら・・・・・・ あれを止めるのは、やはり俺の使命なんだろう。 正面きってのぶつかり合いは、お前たちに任せる。 俺たちは、技師としてのやり方で決着をつけてやるさ!」 アルフィノ 「君の戦いは、必ずや時代の混迷を切り裂く剣となる。 このエオルゼアを護っていこう!」 ビッグス 「ミンフィリアさんたちを救出できて、本当によかったぜ。」 ウェッジ 「タタルさんを救出できて、本当によかったッス!」 タタル 「お亡くなりになった皆さんを、 聖アダマ・ランダマ教会へ、 運んでいただいたのでっすね・・・・・・。 大変なお仕事、ありがとうございまっした。 この戦いが終わったら、皆で勝利の報告にいくでっす!」 ウリエンジェ 「『星海より稀人 異郷より客人来らん 其は汝 昔日視る者 明日拓く者なり』 いにしえの預言書・・・・・・「神歴記」に記された言葉です。 私はこれを、第七霊災を終わりに導く、 「光の戦士」に関する記述と考えています・・・・・・。 過去を視る力を持ち・・・・・・未来を拓く者・・・・・・。 私の推論は、あなたによって、 真実へと変わるかもしれません・・・・・・。」 アレンヴァルド 「あの2人は俺を守って死んだ・・・・・・ 大事なのは、俺がこれから何をするかだと思ってる。 そうだよな・・・・・・アバ、オリ・・・・・・。」 スラフスイス 「私の妹は、ここで帝国と戦って死んだの。 エオルゼアのためにと、国を捨てたあの子が・・・・・・ 少しでも理想をなしえたのなら、本望でしょう。」 ラドルフ 「「暁」は立ち止まれないぞ! こうやって噂をききつけた、冒険者が集まってくる限りな!」 (ローエンガルデ男の警備兵 「衛兵XIV番だ」 ミッドランダー女の警備兵 「警備は交代制です」) ミンフィリア 「バラバラになりかけていたエオルゼアが、 またひとつになってくれたわね。」 シド 「そして、エオルゼアの牙が、 まだ折れていないことが証明された。」 アルフィノ 「フフ・・・・・・。 祖父も、こんな気持ちだったのだろうか。 あれも、君の「超える力」なのかい?」 ミンフィリア 「まさか。 ただ、暁という仄かな灯りが世界を照らした。 ・・・・・・それだけよ。 あら、ちょうど良かった。 わたしたちも今戻ってきたところよ。 今開けるわ。 大丈夫よ。」 アルフィノ 「担当国のグランドカンパニーと連絡を密に取り、 作戦を詰めてくれ。 ウルダハは・・・・・・シド、頼めるか。」 シド 「任せろ。 さて、忙しくなるな。 燃えてきたぜ!」 (ヤ・シュトラ 「忙しくなるわね。」 イダ 「うっしゃ、気合ー!」) ミンフィリア 「わたしたちは以前から、 天使い・・・・・・「アシエン」について調べてきたの。 古の時代より、歴史の陰に潜み、 常に混乱と戦を煽ってきた者たち。 アシエンは、実体を持たぬ不死の存在よ。 黒い水晶・・・・・・「闇のクリスタル」を媒体に、 それを手にしたものに憑依する。 結論から言うわ。 サンクレッドは救えます!」 アルフィノ 「これが、闇のクリスタル・・・・・・。」 ヤ・シュトラ 「それは、エオルゼア各地の偏属性クリスタルを 解析して造られた、研究用のレプリカ。」 ミンフィリア 「たった今、わたしたちの後援者でもある組織、 バルデシオン委員会から取り寄せたものよ。 サンクレッドには、闇のクリスタルと アシエンについて調査をしてもらっていたの。 彼は賢人の中でも腕利きだったわ。 だから油断していた。 まさか、こんなことになるなんて・・・・・・。」 パパリモ 「彼は、ルイゾワのじっちゃんが亡くなったのを契機に、 みんなに少しでも頼られる存在になろうとしていた。」 イダ 「いつのまにか、自分のことを「オレ」なんて、 言い出したりしてたね。」 アルフィノ 「その焦りが、アシエンに憑依される隙になったか・・・・・・。」 ミンフィリア 「サンクレッドの持つ闇のクリスタルを破壊すれば、 きっと憑依は解かれる。 そうすれば、サンクレッドは助かるはずよ。 あなたには、いろいろな協力をお願いしてきたわ。 これが最後のお願い・・・・・・。 どうか、彼を助けてあげて・・・・・・。 そして、エオルゼアの平和のために、あなたの力を貸して! ありがとう・・・・・・。 本当にありがとう。 5年前、混乱の渦中だったエオルゼアは 「光の戦士たち」と呼ばれる英雄に救われた。 エオルゼアを渡り歩き、数々の蛮神を倒してきた、 あなたこそが、あの時の「光の戦士たち」だと 噂する人々も居るわ。 もちろん「超える力」を持つわたしは、 真実をちゃんと覚えている・・・・・・。 でも、そんなことはどうでもいいの。 わたしは、あなたをエオルゼアに生きる、 ひとりの勇敢な冒険者としてお願いしたわ。 過去の英雄は記憶の中に消えた。 でも、あなたが・・・・・・。 あなたこそが、今このエオルゼアを救うために、 母なるクリスタルに導かれた「光の戦士」だと、 そう信じています。 行きましょう! 神々に愛されし地、このエオルゼアを救済するために!」
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律「ま、待って・・・」 澪「待たない」 律「ま・・・待ってよ!!」 紬澪「!?」 律「ひ、ひどいよ・・・澪のばか・・・!」 澪「誰に向かって馬鹿なんて言ってるんだ?」 律「だって、だって・・・うっ・・・ひぐっ・・・」グスッグスッ 紬(うそっ、泣いちゃった・・・) 澪「なんだよ、泣くなよ」 律「だって・・・」グスッ 澪「そんなに続きがしたいのか?」 律「う゛ん・・・もっといじめて欲しいよ・・・」 澪「・・・律は可愛いな」ナデナデ 紬(今の『いじめて欲しい』で、澪ちゃんの入っちゃいけないスイッチが入っちゃったみたいね・・・) 澪「ほら、足開けよ」 紬(いえ、元々スイッチが入っちゃったからこんなことになってるのよね・・・) 律「うん・・・」 澪「何を入れて欲しい?泣かせちゃったから、これだけは聞いてやるよ」 律「・・・みお」 澪「ん?」 律「みお、がいい」 澪「私?」 律「ん・・・」 澪「そっか、それは・・・」グリッ 律「?!」 澪「こういうことでいいんだよな?」グチョグチョ 律「やぁん・・・!はっ・・・あぁ・・・!」 澪「律、随分慣れてるんだな?濡れてるとは言え、すんなり指が3本も入っちゃったよ」 律「あ・・・あぁ・・・!」 澪「自分でしてたんだろ?」 律「ん・・・くぅ・・・!」 澪「お前、やっぱり変態だよ」 紬(それは澪ちゃんには言われたくないと思う。私も人のこと言えないけど) 律「へん、たいでも・・・あぁ・・・いいからぁ・・・!」 澪「うん、むしろ変態な律が好きだよ」 紬(りっちゃん可愛いなー・・・手出したら澪ちゃんに殺されそうだからしないけど) 澪「こういうのはどう?」グリッ 律「!?!?あああぁぁぁぁぁ!!」 澪「律は、ホント、ドMだなぁ」 紬(膣を攻めつつお豆さんへの刺激も忘れないとは・・・澪ちゃんやるわね) 律「ぃやぁ!っちょっと・・・!澪、ストップ・・・それ、やばっ・・・!」 澪「止めるわけないだろ?」 律「で、です・・・んあ!?・・・よねー・・・」 澪「喋ってないでそろそろイったら?」 律「んん・・・!わたし、だって・・・あぁ!・・・イき、たいよぉ・・・!」 澪「そうか?頑張れよ」 律「ん・・・!」 紬(りっちゃんがイけないのは澪ちゃんがじらしてるからじゃない・・・全く) 澪「おいー、そろそろ手が疲れてきたぞ」 紬(ベーシストなんだからもう少し頑張って!) 律「みおぉ・・・」グスッ 紬(また泣いてるの・・・?) 澪「なんだよ、泣くなよ・・・」 律「ふぇ・・・ん、あぁ!・・・みおぉ・・・くるし、よぉ・・・」 澪「・・・わかったよ、イかせてやるから」 律「やっ・・・!あ、はっ・・・!」 澪「ほら、もう意地悪しないからさ」 律「ふぁ・・・あ・・・あ・・・ああああああぁぁぁぁ!!」ガクンガクンッ! 紬(派手にイったわね、素晴らしいわ) 律「・・・」 澪「おい、大丈夫か?」 律「駄目、かも・・・」 澪「しょうがないな。ほら、立てる?」スッ 紬(喧嘩で勝った子が負けた子に手を差し伸べる感じかしら?なんか清々しいわ) 律「手、貸してくれるのか・・・?」 澪「あぁ。ほら」 律「ありがとう・・・」ガシッ 律「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんてな」グイッ 澪「!!!!!?」ドテッ 紬「」 律「あーあ。やっとベッドに横になったな、お前」 澪「律!?」 律「よっと」ノシッ 澪「上に乗るなよ!」 律「うっせ」 紬(これは・・・一体、どういうことなの・・・!?) 澪「このっ」ブォン! 律「ばーか、当たるかよ。体格差があるとは言え、この状況で私に勝てると思うなよ?」 紬(ちっちゃくてもさすがドラマーね・・・私よりは力弱いだろうけど) 澪「うぅ・・・」 律「お前には感謝してるよ、澪」 澪「そう思うならとっととそこからどけろ!」 律「私、ずっと・・・自分がどっちなのかわからなかったんだ」 澪「お前は筋金入りのMだろ!?」 律「自分ではMなのかもと思ってても、それを否定したい自分もいる」 澪「そりゃ、あんだけドMな自分をすんなり受け入れるのは難しいよ」 律「ネットでSMの動画見たことあるんだけどさ」 紬(今さらっとすごいこと言ったわね) 律「興奮はするんだけど・・・なんか釈然としないんだよ」 澪「い、意味がわからないよ・・・律・・・結局お前はどっちなんだよ・・・」 律「だからー・・・両方なんだよ。私」 紬(なるほど・・・SとMは紙一重っていう言葉もあるものね。究極のSは究極のM、りっちゃんはそういうタイプの人なのかも) 澪「律・・・待って・・・!」 律「いいや、待たない」 澪「い、いや・・・!」 律「澪の言う事、わかるよ。Sをいじめる快感っていうの?」 澪「・・・!」 律「だって、今のお前の顔、すげぇそそるもん」 澪「いやぁぁぁぁ!!!!」 律「さっきはよくもやってくれたな?」ニコッ 澪「り、りつ、ごめ・・・」ガタガタ 律「ありがとう」 澪「?」 律「言ったろ?私は両方なんだって」 澪「そ、そうか・・・(あのM具合がそのままSになるとしたら・・・!)」ゾクッ 律「あー、そんなに怯えるなよ。大したことはしないから、さっ」ガシッ 紬澪「!?」 澪「りっ・・・くるしっ・・・!!」 律「あはは。澪が私の首を締めまくった気持ちがわかったよ」ギリギリッ 澪「ちょっ・・・まっ・・・!(息が、できない・・・!)」 律「確かに・・・この表情は反則だな?」 澪「や・・・あぁ・・・!(律、さっきと目が全然違うよ・・・!)」 律「なぁ、澪?私、手加減の仕方とか知らないんだけど・・・殺しっちゃったらごめんな」ニコッ 澪「・・・!」ゾクッ 律「すごいよ・・・手に澪が生きてるって伝わってくる」 澪「もっ・・・むっり・・・!(やりすぎだ!馬鹿律!)」 律「澪の首の血管が脈打ってるのが伝わるよ、すげー」 紬(呑気なこと言ってないで離してあげないと!本当に死んじゃうわよ!?) 律「私さ・・・」 澪「・・・(は、なして・・・いし、きが・・・)」 律「澪が好き」 澪「・・・(あいの、こくは、く・・・してるばあいじゃ、ないだろ・・・)」 律「このまま・・・澪を殺したい」 澪「・・・!?」 紬(これは・・・さすがに止めた方がいいのかも・・・) 律「澪、可愛いよ。すっげ可愛い」 澪「な・・・なら・・・は、なして・・・くれ・・・よ・・・おね・・・が、い・・・」 律「・・・」 紬(りっちゃん・・・!) 澪「り・・・つ・・・」 律「・・・」パッ 澪「っはぁ!」ゲェッホゲェッホ! 律「澪、苦しかったか?」 澪「・・・!?あ、あたり、前だろ・・・んん!?」 律「・・・」チュパ・・・ 澪「りっ・・・わたし、まだ・・・!(まだ、呼吸が整ってないって・・・!)」 律「そんなん知るかよ」チュパ・・・ 澪「や、やめっ・・・」 律「っと」ガシッ 紬(鼻をつまんだ・・・?何をする気?) 澪「~~~!!?(また、くるしっ・・・!)」 律「澪の口の中、熱いな」チュパ 澪「ちょ・・・ふ・・・(鼻、痛い・・・)」 律「・・・」チュパチュパ・・・ 紬(澪ちゃん、目が虚ろになってきたわね・・・) 澪「やぁ・・・はっ・・・んん!?」 律「全部飲もうな?」ニコッ 澪「んん!!」ゴックン 律「どうだー?美味しかったか?」 澪「美味しいわけ、ないだろ・・・」ゲホッ 紬(なるほど、鼻をつまんだのは涎を飲ませるためだったのね・・・) 律「お前って本当に可愛くないよな」 澪「そう、思うなら・・・やめろよ。私は、律と違って・・・Mじゃない、んだよ。こんなことされてm」ゼェハァ・・・ 律「なんかお前、勘違いしてないか?」 澪「は?なんだよ」 律「私は別にお前を感じさせるためにやってるわけじゃないっての。思い上がるなよ」 澪「・・・!」 律「まぁそういうことだから」 澪「ま、待てって・・・おい・・・!!」 律「しつこいな。待たねぇよ、ばか」 律「ほら、服脱げよ」 澪「脱ぐわけ、ないだろ・・・」 律「何?私に引きちぎって欲しいのか?」 澪「そんなわけないだろ!!」 律「じゃあ早くしろよ」ギロッ 紬(ここは言うことを聞くべきよ、澪ちゃん) 澪「・・・」ヌギヌギ・・・ 律「あっはっはっ、あの澪が命令されて服脱いでやがんの!はらいてー!」アハハ 澪「この・・・!」 律「何?やる気?」 澪「・・・」サッ 律「口答えしといて目ぇ逸らしてんじゃねぇよ、ヘタレ」 澪「・・・」 紬(相当ストレスが溜まっているみたいね・・・) 律「ほら、下着も取るんだろ?」 澪「・・・」 律「おいー」 澪「な、なんだよ・・・」 律「返事は?」 澪「だ、誰が・・・!」 ガシッ 紬(髪つかんだ!?) グイッ 律「へ・ん・じ・は・?」 澪「・・・はい(逆らっちゃ駄目だ・・・)」 律「その前に『無視してごめんなさい』だろ、馬鹿じゃね?」 澪「・・・ご、ごめんなさい・・・」ワナワナ・・・ 律「そのうち震え出しちゃうんじゃないの?」ニヤニヤ 澪「うるさいって。・・・しないなら仕舞うぞ」 律「何、その言い方」 澪「べ、別に今のは反抗してないだろ・・・?」 律「あぁ。可愛い言い方だなぁと思っただけ」 澪「は、はぁ?ふざけるのも大概にs」 律「しないなら仕舞うぞ、だろ?するんだったら出しっぱにしときますってか?」アハハ 澪「たまたまそういう言い方になっただけだ・・・!」 律「はいはい、そうでしゅねー」 澪「ムカッつく・・・!」 律「こんなに乳出しながらそんなこと言っても迫力ないぞ?」 澪「・・・」 律「なあ。胸は小さい方が感度がいいって聞いたことあるんだけど、どうなの?」サワッ 澪「知らないよ。私、胸の小さい人のことはわからないから」 律「ふーん。どうでもいいけど・・・目尻に溜まってる涙、拭ったら?」 澪「うるさい・・・!」キッ 律「涙目で睨まれてもなー、可愛いだけだよ」 澪「・・・律、今すぐその手をどけろ」 律「なんだよ、自分で出したくせに」 澪「いいから、早く」 律「これ以上されたら泣いちゃうからだろ?」 澪「!?」 律「当たりか」 澪「別に、どうだって、いいだろ」 律「泣けば?」 澪「嫌だ」ポロッ 律「って、もう泣いてるじゃん」 澪「うる、さい・・・」ポロッ 律「澪ちゅわんってば、さっきからうるさいうるさい言い過ぎ」 澪「うるさいよ・・・」 律「全く・・・とりあえずさっきのお礼しとかないとな」 澪「・・・へ?」 ギリィィ・・・!! 澪「あああああぁぁぁぁぁ!!!」 紬(澪ちゃんの胸、変形してる・・・) 律「ここ引っ張られるの痛いだろ?」 澪「いだ゛ぁいよぉ・・・!」 律「私もさっきすごい痛かったんだ」 澪「ごめん・・・!ごめん・・・!」 律「あ、謝らなくていいぞ。私は途中から気持ちよくなったから」 澪「で、でも・・・」 律「だからさ、澪も我慢してたらその内良くなるよ♪」グググッ・・・! 澪「やああぁぁぁぁ!!!」 律「どう?良くなってきた?」 澪「そんなわけ、ない・・・だろ・・・」ゼェハァ 律「そっかー残念だな」 澪「律、お願い、本当にやめて・・・これ以上されたら・・・」 律「これ以上されたら、何?」 澪「私、おかしくなっちゃうよ・・・」ポロポロ 律「いちいち泣くなよ。めんどくせぇヤツだな」 澪「律・・・いつもの律に、戻ってよ・・・!」 律「ばっかだなー」 澪「へ・・・?」 律「私はおかしくなったんじゃないぞ?」 澪「で、でも・・・!」 律「私は本来の自分の在り方と欲望に気付いたの。ただそれだけ」 澪「そんな・・・」 律「ほら、まだまだ終わらないぜ?」 澪「・・・」 律「澪の胸って、大きくて柔らかいよなー・・・握りつぶしたくなるよ」ガシッ 澪「あ゛あああぁぁぁぁ!!いだぁいぃぃ!!」 律「ははっ、やっべー・・・いいよ、すげぇ興奮する」 紬(私もよ!りっちゃん!) 澪「・・・」 律「おい、澪?」 澪「・・・」 紬(あ、あれ・・・?) 律「なんだ?気絶したのか?」 澪「・・・」 律「おーい」 澪「・・・」 律「うん、心臓は動いてるな。ま、これくらいで死なれちゃたまったもんじゃないけど」 澪「・・・」 律「気絶すれば痛みを感じなくて済む、か」 紬(それは人間の防衛本能よ) 律「まぁ、いいや。澪がこんなんなったらつまんないし」 紬(そうよね・・・これはさすがにちょっと・・・) 律「あっちにキッチンあったよな・・・」トテトテ キィッ・・・ジャー・・・ジャー・・・キィッ 紬(もうお開きよね。そろそろ戻ろった方がいいかも) 律「んしょっと」トテトテ ザバァー!! 律「おーい、澪。お前何寝てんだよ、起きろ」 紬「」 澪「・・・ん・・・?」 紬(まさかの冷水) 6
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ららさんが入室しました かすむさんが入室しました らら (ふわふわとんでる。 らら (ゆめのせかい かすむ (ふわふわ~ らら (待ち時間があるなんて変な話ね らら (せっかくの待ち時間 らら (この世界をもう少し飛んで らら 誰かに、会いに行こうか。 かすむ えーっとなんだっけ。全世界観客席誘致委員会? らら うん。 らら 夢に呼ぶなんて。不思議だもの。 らら みんなしたほうがいいよ かすむ ほんとにね~。夢の中まで会いに来て~なんて。なんかぽえみぃだよね。 かすむ 白っぽくはあるかも? らら そうだね。 らら すてき。 京輝さんが入室しました かすむ けどまー全然誰にも会わないねー。(辺りを見渡して 京輝 (ふわふわな2人の前を歩く 京輝 (黒い生真面目な警察官 かすむ お。噂をすれば。 京輝 (今日は警察制服じゃないけど 京輝 (なんか暇時間をだらーーーっとできないタイプだ かすむ 黒いのが横切ったよらら! らら こんにちわ。(早速近づいて声かけする かすむ どうもどうも~(同じくふわふわ近寄ってく らら (ふわふわ族は結構早めにふわふわれるのだ かすむ (空中自在移動!すいーーーってかんじだよね。 京輝 あぁ。今回同じチームになった「ほわいと」の2人だね。 京輝 突然の大会で、少し緊張しているけど、一緒に頑張ろう! 京輝 (世界中の人達から選ばれたプレッシャーと 京輝 (それに応えたい真面目な気持ち 京輝 (先程のバスのあまりに真面目な作戦会議に 京輝 (地方田舎の警察官と、都会の秘密組織の軍事力の差を感じていた らら まじめー。 かすむ うんうん。よーろしく~(めーちゃ肩の力抜いてラフな返事 らら だいじょうぶ。 らら 私たち、みんな、結構、強いから。 らら 心配しなくても、だいじょうぶ。 かすむ ま~~~強いから選ばれたって事なんだもんね?たぶん。 京輝 あ、、あぁ、そうだね。緊張が少し優ってしまっていたかな、、 京輝 そうだよ。きっと、世界中の誰よりも強い………ぐらいの気持ちで選ばれている。 かすむ ららもえげつないし、キミも人間の身体に穴ブチ開けてたもんね!(笑顔 京輝 う、、、うん。 京輝 (それは凶鬼の方の力だ。 京輝 (バスのミーティングではついに言葉にされなかったけど、 京輝 (みんな本当はそれを期待しているんじゃないかな… らら “京輝”も穴ブチ開け出来るから。 らら 大丈夫だよ。 かすむ あははっ、まー夢の中だしブチ開け得だよねっ 京輝 そ、そうかな。 らら 夢の人狼でもよく死ぬけど らら 起きたらケロっとしてるし。 らら 大丈夫。だいじょうぶ。 かすむ だーいじょうびー。 京輝 う、うん。頑張るとするよ。 らら あと・・・ らら ・・・・・・・・・かすむ、なんだっけ? かすむ え?どしたのらら。記憶喪失? かすむ 全世界観客席誘致委員会の話ね? らら うん。記憶喪失。 らら そうそう。それだったね。 京輝 全世界観客席誘致委員会・・・? 京輝 どういう事なんだい…? かすむ うん。なんかねーリーダーの人が言ってたんだけどー かすむ この大会、外から夢の中に観客を招待できるんだってさ? 京輝 え? らら 出来るんだって。 かすむ 外っていうか…現実? らら 多分誰でも良い。 京輝 夢の中に…招待…? かすむ うん。だから誰か呼んだらいいよー。だって。 京輝 リーダーが選手をドラフトして、次はメンバーが観客をドラフトする…そういうイベントなんだね。 らら ・・・そうだっけ?でも多分そうじゃない? かすむ まじめ~! かすむ まっ、そーゆー解釈でもいいかもね~。 かすむ 京輝は誰か呼びたい人とかいる? 京輝 え。 京輝 (ゆとりさん・・・・・・・・・元気だろうか 京輝 (「ほわいと」の人達もいるし、このチームなら応援するのも不思議じゃないかもしれない。 らら ゆとりを呼びたいの? 京輝 え?! かすむ へー。ゆとり? 京輝 まっ、いや、え。どうして。 らら 元気か心配なの? かすむ 顔に出てたんじゃな~い?(適当 京輝 っぁ、、ぅ… かすむ あー。言われてみたらゆとりずっと元気無いよね? 京輝 (確かに顔に出やすいタイプとはよく言われるけど…名前まで… らら そうだね。かなしい。 らら 京輝が誘ったら元気でるかな。 京輝 え、いや、まだ誘うと決めたわけじゃ・・・ 京輝 (俺の闘いを見せるってことは・・・ かすむ てゆかゆとりと仲良かったんだね。ららもそうだけど、皆知らない間に人の輪広げてるな~ 京輝 (もしかしたら“凶輝”になるかもしれない・・・ 京輝 (そんな闘いを・・・いやっっっ、そもそも“京輝”だって別にっ、 らら うん。 かすむ お~、何か悩んでる悩んでる。 らら ゆとりと京輝、結構会ってたみたい。地上で。 らら 面白そうね。 かすむ へぇ~~~ 京輝 え・・・(いや、別に良いんだけど、なんか、すごいバレてる感じが… 京輝 (空中と地下の人同士なのに地上で会って…いや、俺は普段から地上勤務だし… らら 誘ってみなよ。 らら ゆとり喜ぶかもよ。 らら ね。かすむもその方がいいと思うでしょ? かすむ そだねー。なんか … … …(あれーゆとり失恋したんじゃなかったっけ?新たな出会い?これもしかして盤面フクザツってやつ?などと色々な思考が過ぎるも かすむ そっちのが面白そうだし!(親指立てて 京輝 え、いや、その 京輝 (誘うって言ったって夢の中からどうやって、そもそも地上でもいつでも会えるわけじゃないし、電話番号とか知らないし、そもそも誘われて楽しいのか、俺の戦闘なんか見せてどうする らら 「ドリームマスターサカイ〜!誘いたいから一時退出させて〜!」って叫ぶと らら どこからともなく髭の店員が現れて外に出れるんだって。 らら 簡単だね。 京輝 そ、そんな制度なのか?! かすむ ま?そんなシステムだったんだ。 らら うん。いま、“聞いた”から。 京輝 そ、そうなんだ。 かすむ べんりー!( 京輝 (それならじゃあ・・・久々に・・・うーん・・・ かすむ んでもまあ、外に出た後は自力で頑張るんばなのかな? らら そうみたい。いい場所に出れると良いね。 かすむ がんばれー!(笑顔で 京輝 そ、、、、、そうか・・・ 京輝 うん、、、 京輝 でも 京輝 そうだね 京輝 (久々に、会ってみたいのは、その通りだし 京輝 教えてくれてありがとう。 京輝 君達のお姉さんを、ちょっと、誘ってみるよ。 かすむ お。前向きな返答!いいね~(うんうん 京輝 俺なんかで良いのか、わからないけど。君達「ほわいと」もいるチームだからね。 京輝 (うん。観客席自体は暇させないはずだ。組み合わせも違うし暇な試合は無いはず… らら まじめー。 らら じゃあ。 らら 行ってらっしゃーい。だね。 かすむ 言ってらっしゃーい。 京輝 あ。あぁ。 京輝 行ってきます。 京輝 (後ろの空間を殴ると、夢世界に穴が空き、 京輝 (そこから吸い込まれて何処かへ消える 京輝さんが退室しました らら アドリブが効くドリームマスターだなー。 かすむ ぐっどらっく!(見送り らら うん。順調だね。 かすむ ねえねえ。 らら どうしたの? かすむ これってラブなやつ?(低俗な出歯亀の表情で らら どうだろうね。 らら 私がちゃんと聞いたらわかっちゃうかもしれないけど、 らら 誘い終わるまでは、ふふ。様子見したいなって。 かすむ なるほどかー。たしかにそれはたしかにだね~ らら 「誘わなーい」なんて意地張る人達にはじゃんじゃん聞いちゃうけどね。 らら ゆとりが元気になるといいね。 かすむ くわばわくわばら~。(じゃんじゃん~に対して かすむ うん。そうだよねー。とりあえずそれ。 らら うん。 らら じゃあ。次の人達を探しに行こうか。 らら ふわふわしてれば見つかりそう。 かすむ おっけい!(b かすむ そだねー。初手から順調でなによりだねー。 らら うん。よかった。 らら 誰かを元気に出来るなら らら このちからも、わるくないね。 らら じゃ。行こうか らら (ふわふわ〜〜〜 かすむ んだね! ま、イイ感じに行こうよ~(と軽く返して かすむ (同じくふわふわ~~~ ららさんが退室しました かすむさんが退室しました
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「個性」とは何か? ここまで「国語教育の目的」について簡単に見てきただけですが、「国語を見れば、その国の教育の特徴が見える」と言われるだけのことはあり、この段階で既に考えられるようになったポイントが数多くあります。 その中でも、特に重要になるのが「個性」の捉え方でしょう。 日本では批判されている個性教育 日本では、「個性」は特にゆとり教育の導入に伴って注目されるようになりました。そのため、ゆとり教育の代名詞的なキーワードとなっています。 しかし、その導入時に大量の疑問が噴出しました。 個性を伸ばす教育とは、具体的にはどんな教育なのか? そもそも”個性”とは一体何なのか? このような根本的な疑問に答えることすら疎かにしてしまったので、教育に大きな混乱を招いてしまいました。これは、ゆとり教育を失敗に終わらせた大きな原因の1つとして数えられています。 その結果、「個性」という考え方そのものまで否定されるようになっていきました。 個性教育を目指した、ゆとり教育は失敗に終わった。 ↓ということは、 そもそも個性を伸ばそうとしたこと自体が間違いだったのだ。 このような経緯があるので、日本の教育においては、「個性」は未だに嫌われている概念だと言って良いでしょう。 さすがに「個性なんていらない」とまで言う人は少ないですが、それでも「個性を伸ばすのは教育の役割ではない」と考える人は大勢います。 さらには、現在の脱ゆとり教育には「ゆとり教育という”失敗した個性教育”から脱却」という側面があります。 公的なコメントにおいて批判されることこそありませんが、個性教育の大切さを主張する者はもうほとんどいないでしょう。 「個性」という概念はに未だに曖昧に誤解されたままの状態です。これから見直されるという期待もあまりできません。 個性教育の否定 ≒ 人間性教育の否定 個性についてこれから簡単に確認していきたいと思いますが、まず先に大雑把な結論を言ってしまうと個性とは人間性です。 個性 ≒ 人間性 ゆとり教育を批判する過程で「個性を伸ばすのは教育の役割ではない」といった主張まで当たり前のように普及してしまいましたが、これはそのまま「人間性の育成は教育の役割ではない」という主張に置き換えられます。 表現を少し変えただけなので、一見あまり変わらないように感じるかもしれませんが、「個性」という言葉に惑わされずに落ち着いて考えれば、この主張の問題点にはすぐに気が付くでしょう。 Q:人間性の育成は、教育の目的ではないのか? 国語教育の目的を見てきた中で「世界の教育では、国語は教育の中で最も重要な基礎とされおり、その目的は心を育てることにある」という点を確認してきました。 世界の教育では、明らかに人間性の育成を最も重要な目的にしています。 日本の教育においても、そもそも学校教育が掲げる最も基本的な理念は「全人教育」です。学校教育は、単に「勉強さえできればいい」とは考えておらず、「1人の人間として立派に成長し、幸せになって欲しい」という願いを根本に掲げているはずです。 これを踏まえて考えれば、日本の教育においても明らかに人間性の育成は最も重要な目的であるはずなのです。 Q:人間性の育成は、教育の目的ではないのか? A:人間性の育成は、教育の最も重要な目的です。 しかし、これでは矛盾してしまうでしょう? 片や個性は教育に混乱をもたらした原因とされていながら、片や人間性は教育の最重要項目とされています。 個性と人間性は違うのでしょうか? 例えば、人間性として求められている「優しさ」や「誠実さ」は、個性ではないのでしょうか? そんなはずがないでしょう。むしろ「優しさ」や「誠実さ」こそ、個性と呼ばれるべき代表例です。人間性が育っていく過程で獲得される個々の人間性が個性です。多種多様な人間性の、その1つ1つが個性です。「明るく前向き」という人間性も個性であり、「冷静で判断が的確」という人間性も個性です。個性とは人間性です。様々ある個性を、全部まとめて人間性と呼んでいるだけにすぎません。 だから、人間性を育てていれば個性は自然に身に付いていくものでり、個性を批判するならば人間性をも批判することになります。 個性と人間性は似たような概念であり、個性だけを否定して人間性だけを肯定することなどできません。少なくとも、そんなことをするためには個性と人間性を明確に区別できなければならないでしょう。しかし、現在の日本において、そんな区別はされていません。わざわざ無理に区別するメリットも無いでしょう。素直にまとめて育てる方が簡単です。 もし「個性≒人間性」という認識でありながら、それでも個性教育を批判するのであれば、それは教育において最も重要である人間性の育成をも批判することになります。 個性 ≒ 人間性 個性教育の否定 ≒ 人間性教育の否定 現在の日本の教育は、いじめや不登校などの問題に直面して「心の教育」に悩みを抱えていますが、その一方で「個性教育」への配慮はあまりしていません。これでは大きく矛盾しているのではないでしょうか。 「個性」の誤解 「個性」とは一体何なのか? この認識が既に誤解に満ちています。この誤解から簡単に見直していきましょう。 背景 日本の「個性」観が誤解されやすい原因には、それ以前の問題として、よく「日本人には個性が無い」と言われるような社会的現実が背景にあります。 まず、なぜ「日本人には個性が無い」と言われているのでしょうか。 これは、既に”常識”で挙げた通りです。 日本では周囲に合わせることが重要なので、みんな同じような発言しかしません。 しかし、あくまで「合わせているだけ」なので、自分なりの理由や根拠を持ちません。 どんな質問に対しても「みんながそう言ってるから」という答えで万能にやり過ごせます。 結果、誰1人として責任のある意見を言わないので、社会全体が無色透明に近い印象になります。 改めて確認しておくと、たとえ「みんな同じ」であっても、それ自体は別に個性が無いことにはなりません。 例えば「日本人は勤勉」と言われますが、これは個性です。「日本人らしさ」などのように、しっかりとしたチームカラーを持っていれば、それはその集団に属する人たちが共通して持っている個性ということになります。 「日本人には個性が無い」と言われがちなのは、単に「みんな同じだから」でなく、「みんな同じように自分の意見を言わないから」です。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (i7.png) 単純な誤解 この「周囲に流されて自分の意見を持たない」点が、個性が無いと言われる原因です。 では「個性がある」とは、どんな状態なのでしょうか。 それ考える際に、単純に反転して「個性が無い状態の反対が、個性がある状態だ」という理屈から「個性とは、周囲に流されずに、しっかりと自分の意見を言うこと」と誤解するケースが多数見られます。 誤解されている個性観 個性が無い ⇒ 他人の意見に合わせるだけ。自分の意見を持たない。 個性がある ⇒ 他人の意見に影響されない。自分の意見を押し通す。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (i6.png) しかし、これも落ち着いて考えれば、おかしいことはすぐに分かるでしょう。 他人の意見を聞かないことが個性なのか? 自分の意見を無理矢理押し通すことが個性なのか? そんなはずがないでしょう。それは単なるワガママです。個性ではありません。 確かに「自分の意見を言える」ということは非常に重要です。 しかし、そのために「他人の話を聞かない」という必要は全くありません。既にコミュニケーションの中で挙げたように、「自分の意見を言えること」と「他人の話をしっかり聞くこと」は表裏一体の関係にあります。 つまり、周囲に全く流されず自分の意見を一切顧みないような姿勢では、コミュニケーションが成立しません。それでは「自分の意見」は「独り善がりの意見」にしかならないのです。 参考 この誤解が、そこからさらに他の誤解まで生んでいきます。次の2つは、よく耳にするでしょう。 「個性」とは、目立つこと。つまり、奇抜性。 「個性」とは、他者とは異なること。つまり、独自性。 例えば学園ドラマなどを参考にすると、髪を金髪に染めてみたり奇抜なファッションをしてみたりと、他者と違う要素をアピールして「これが私の個性だ」と目立とうとする例が見られますが、これは明らかに誤解です。それは単に目立っているだけです。 もう1つ例を挙げると、いわゆるキラキラネームも分かりやすい例でしょう。これは漢字を英語読みさせるなどの過剰な工夫を凝らした非常に変わった名前のことですが、その目立つ独自性から「個性的な名前」などと言われています。 しかし、これも誤解です。これも、あくまでも単なる「目立つ名前」や「変わった名前」にすぎません。 独自性があって目立っていても、それを個性とは言いません。それは単に好みの問題であり、つまりただの趣味です。 よく誤解される奇抜性や独自性は、「個性」ではなく「ユニーク性」のステータスです。 奇抜なファッションとは「個性的なファッション」ではなく「一風変わったファッション」という意味であり、キラキラネームも「個性的な名前」ではなく「一風変わった名前」のことです。 本来は目立たない個性 改めて「個性とは何か」を考える上で、その特徴を最も分かりやすく示す例が「縁の下の力持ち」です。 縁の下の力持ち 自分は表舞台には立たずに、陰ながら他人を支えるために努力しているような人のこと。 裏方として補助に徹しているので確かに外部からは目立ちませんが、身近な人たちからはとても信頼されている掛け替えのない存在と言えるでしょう。 学校で考えるなら、運動部のマネージャや給食のおばさんなどが分かりやすい例。映画を例に考えるなら、カメラマンや音響スタッフなど。基本的に外部の人間からは見えなくて当たり前の存在ですが、仲間内では非常に重要な存在です。 ここに個性があります。「縁の下の力持ち」を大切な個性の1つとして捉えることができると、「個性」の特徴が一気に見えてきます。 個性の特徴 個性は目立ちにくい 基本的に、個性は目立ちにくいものです。 目立たなくて見落とされがちな長所を、身近にいる人たちがしっかり汲み取って代弁したものが、個性の発祥です。 奇抜なファッションをするなど、外見的な特徴によって目立つことではありません。甲子園やオリンピックに出場するなど、その功績によって目立つことでもありません。 反対に、例えば「見た目は派手だけど、実は意外に根は真面目だよね」とか「レギュラーになれなかったのは残念だけど、でも、本当に頑張ってたよね」と言われるような、見えにくい内面的な特徴に注目したものが個性です。 個性は長所だけ 原則として、個性は長所だけです。 「時間にルーズ」や「卑怯」といった自分勝手な個性はありません。それは、ただの短所です。 ただし、例えば「臆病」と捉えると短所になるようなものでも、それを「慎重」と捉えると長所になるように、同じ性質でも見方次第で長所にも短所にもなり得ます。 ここに個性という概念の重要なポイントがあります。一見短所に見えるものでも安易に短所と決めつけずに、良い所を探すつもりで見直してみると、意外と簡単に長所に見えるようになることが多々あります。この反省点から、意図的に「短所」という言葉を封印して、多少強引にでも「個性」と言い直すようになりました。これが個性尊重の姿勢です。 これは決して「短所も個性」という考え方ではありません。「短所に見える中にも、長所が隠れているのではないか」という見方です。 個性は自覚しにくい 個性は、他人から指摘されるまで、自覚しにくいものです。 例えば、優しい人は、自分のことを優しいとは思っていません。他人に親切でありながらも「別に、これぐらいは普通でしょ?」と思っている場合がほとんどです。特に意識せずに誰に対しても自然に優しく接することができるような人だからこそ、周囲から「優しい人」と思われるのです。 このように、自覚していない部分にこそ個性はよく表れます。 周囲とのズレ 自覚しにくいだけでなく、自分と周囲との認識には大きなズレが頻繁に生じます。「個性とは、ほとんど誤解の塊みたいなもの」と言っても過言ではないでしょう。 例えば「縁の下の力持ち」として周囲から信頼されている人でも、本音では「別に好きで裏方をやっている訳じゃない。私だって本当は主役になって注目されたい」と思っているようなケースが多々あります。 周囲から個性として高く評価されていても、本人にとってはそれがコンプレックスになっているようなケースは珍しくありません。 自分からはアピールできない 自分の個性を説明することはできません。周囲から誤解されていると感じている場合、実はその誤解の方が自分の個性とされます。 例えば、自分から「私は天才です!」と説明しても、それは単なる「自称 天才(笑)」にすぎないでしょう。そんなものを個性とは言えません。どんなに強くアピールしても、いくら細かく説明しても、それは所詮自称です。「みんな誤解してるけど、私は本当に天才なんだよ!」と力説したところで、それは単なる妄想としてしか受け取られないでしょう。 どんなに強くアピールしても、それは自己アピールでしかありません。結局は「周囲の人からどう思われているか」が自分の個性となります。つまり、自分の個性は、周囲の人たちによって勝手に認められるものでしかないのです。自分で決めることはできません。 ちなみに、これが個性不要論の発信源です。よく見かける「子供たちの個性なんて伸ばす必要は無い」といった論理ではなく、「自分の個性は自分では分からない。それなら自分探しに一体何の意味があるだろうか」といった疑問が発端です。 独自性ではない 個性は自分が持っている人間性であり、簡単に言えば「自分らしさ」です。しかし、それは決してオンリーワンではありません。 個性は他者と簡単に重複します。別に唯一自分だけが持っている特性とは限りません。もし独自のものと仮定すると、例えば「誠実」という個性を持っていいのは自分1人だけということになってしまいます。しかし、誠実な人が大勢いても別に不思議はないのでしょう。個性を独占する必要はありません。既に挙げたように「日本人は勤勉」と言われる場合、それも立派な個性です。個性とはユニーク性ではありません。 そして、同じ個性を持つ人が大勢いても構わないなら、個性があるからといって目立つとは限らないでしょう。そのため「個性的≠目立つ」となります。 「ありのままの自分」ではない 個性は「自分らしさ」なので、よく「ありのままの自分」を肯定することだと思われがちです。しかし、これも誤解です。 単純に自分を全面肯定してしまうと、「私は弱い人間だから、弱いままでいい」ということになり、向上心を失って努力もしなくなります。それでは人として成長しなくなるので、人間性も成長しません。つまり、個性も成長しません。個性を求めたつもりが個性の成長を妨害することになるので、これは間違いなのです。 単に「ありのままの自分」を肯定することは、実は単なる怠惰にすぎません。成長にはむしろ、ある程度の自己否定が不可欠です。現状に満足せずに目標を追って努力する姿勢の中にこそ、個性は顕著に表れます。 個性の真意は「他人を認めること」 少々、周り道をした形になりましたが、「個性」には重要ポイントや誤解されている点が多々あることが見えてきたと思います。 これらを踏まえた上で、「個性とは何か」という問いに改めて簡単にひと言で答えるなら、それは「他人を認めること」だと言えるでしょう。 Q:個性とは何か? A:それは「他人を認めること」です。 「個性」と言われると、ほとんどの人が「私の個性とは何だろう?」と、すぐに自分のことを考えてしまいます。 しかし、それは間違いです。 「個性」という概念の最も重要なポイントは他人です。家族や友人など身近いる他人の意思を尊重すること、それが原点です。注目すべきは「自分の個性」ではなく「他人の個性」です。 そして、多種多様な他人の個性を認めていくと、それが自分の考え方や価値観にも影響して多様性や柔軟性をもたらします。結果として、自身の可能性を拡げて成長を促進することにも繋がります。 これが「個性」の重要なポイントなのです。 他動詞の構文:主語+目的語+述語 現在、一般的に普及している「個性」観とはかなり違うので、話が飛躍しているように感じられるかもしれません。簡単に論点を整理してみましょう。 少しテクニカルな話になってしまいますが、あえて「個性教育」から考えて、文法的に考えてしまった方が分かりやすいでしょう。 個性教育とは「個性を伸ばすことを目的とした教育」のことです。何のひねりも無くそのまんまなので、この点は問題無いと思います。 ただ、ここで注意が必要なのは「この文章の主語は誰か?」という点です。日本語は主語や目的語などを簡単に省略してしまうので、時折このような問題が発生します。主語をよくよく確認してみると文章の意味が反転してしまう場合もあることは、多くの人が経験上知っているでしょう。 これは意外なほど見落とされやすく、多くの誤解を生む原因になっています。しかし、問題としてはとても簡単なので、落ち着いて考えさえすればすぐに分かります。 Q:個性教育とは、誰が誰の個性を伸ばす教育なのか? A:それは「教師」が「生徒」の個性を伸ばす教育です。 拍子抜けするほど簡単な、当たり前の答えでしょう。 個性教育とは、教師が生徒の個性を伸ばす教育です。教師が教師自身の個性を自慢する訳ではなく、子供たちが自力で自分の個性を伸ばす訳でもありません。大人たちがサポートすることで、子供たちの個性を伸ばすのです。 つまり、自分自身の個性を伸ばすのではなく、他人の個性を伸ばすのです。それが、個性教育の基本構造です。 教師が気にかけているのは「子供たちの個性」です。自分の個性になど興味もありません。たとえ教師として自分に個性が無かったとしても、全く気になりません。 この点に気付いてしまえば、後は簡単、と言うよりそのままです。 「個性」とは「私は相手の個性を認める」という形が基本形であり、普通は「主語+目的語+述語」という他動詞を伴った文型になります。主語対象と目的語対象の2者が文法上必要になるのです。 「個性」は「コミュニケーション」と同様に、相手の存在が不可欠となる概念です。「私の個性は○○なところです」といった自分独りで納得している形の文章は、目的語対象となる相手の存在が欠けているため、文法上間違いなのです。 「他人の個性に配慮できること」が個性の大切なポイントであり、自分に個性が無くても何の問題もありません。 個性教育とは、「この子は真面目にコツコツ努力するタイプ」「こっちの子は失敗を恐れずにどんどん挑戦するタイプ」と子供たち1人1人の個性を把握して、それぞれの長所を伸ばしていこうと考えたものです。ここで重要なのは、あくまでも教師が「子供たちの個性」を認めることです。 そして、さらにその延長として、子供たちにも「友達の個性」を認められるようになって欲しいと願っています。 決して、「自分の個性」をアピールすることなど求めていません。 既に述べたように、もし子供たちが自分から「私は天才です」とアピールしてきても、それをそのまま個性として認める訳にはいきません。本当に天才の場合もあれば、単なる自信過剰の場合もあるでしょう。その違いも見極めずに、子供たちの自己申告をそのまま鵜呑みにしていては個性教育などできません。 自分の個性を求める場合 教師でさえ「自分の個性を出しなさい」と指導する人が大勢いますが、それは間違いです。 「自分の個性を出しなさい」という言葉は、要約していくと「他の人とは違う、自分だけの意見を出しなさい」と言い換えられ、差異性と独自性を求めるメッセージになります。 つまり、これは個性とユニーク性を勘違いしています。そして、ユニーク性が目標とするのは「自分らしさ」ではなく「風変わりであること」です。 他人と同じ意見を述べてはならない。 自分らしさを出さなければならない。 このように独自性を求められると、素直に他人の意見を聞けなくなってしまいます。他人の意見を真剣に聞けば聞くほど、必ずその意見から影響を受けてしまうからです。 他人に影響されたら、そこにはもう「自分だけの独自性」などあるはずがないでしょう。そのため、例えば6人の友人から意見を聞いてしまったら、その6通りの意見は選択肢から削除しなくてはなりません。「私はこの意見に賛成です」では、ユニークな回答とは言えないからです。他人の意見を参考にするほど、”自分独自の回答”の選択肢は削られていきます。 それでも尚、どうしても独自性にこだわるならば、始めから何も聞かない方が得策でしょう。そのため「他者性を排除すること」が個性のカギになります。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (i11.png) これは言い換えると、ここでの「自分」とは「現時点での自分」が理論的な最大値になるということです。 何事も1度考え始めたら、それから新たに情報収集をしてはなりません。現時点で知らない情報の中に「自分らしさ」などあるはずがないからです。他人の意見を聞いてはならないのと同様に、書物などから得た情報によって自分の考え方が変わった場合も、それは「純粋な自分独自の意見」ではなく「情報に左右された意見」としてしか評価されなくなります。そこに独自性は認められません。 これは、情報を集めるほど「他人の意見の寄せ集め」と評価されてしまうことを意味するため「しっかり勉強した秀才ほど普通の考え方をするようになり、無個性になる」といった見方をされるようになります。 結果として、「自分の個性を出しなさい」と言われると、自分を外界から隔離して情報を遮断し、自分の内側に潜む"個性"を探すことになります。できる限り他人の話を聞かないこと、勉強をしないこと、情報にアクセスしないことが必要になり、「現時点で既に持っている個性」が重要になります。 しかし、それでは未熟な人ほど不利になってしまうでしょう。 特に子供たちは、まだ圧倒的に経験も知識も不足しており自分の意見を確立していない場合が多いので、はっきりと個性と呼べるものを持つことができません。そんな状況で「早く自分の個性を見つけなさい」と言われても、そのためには情報を遮断しなければならなくなるので、かえって成長を阻害されることになります。つまり、「個性」が教育の天敵になってしまうのです。 そして、大勢の人々がユニークな価値観を持った”個性溢れる社会”を作ろうとするならば、そこでは誰もが他人とのコミュニケーションを断たなくてはなりません。奇抜性や独自性を維持するためには、自己完結した価値観を持たなければならないからです。 そのため、その社会全体がコミュニケーション不全に陥ります。社会性は構築されません。1人1人がしっかりと自分独自のユニークな価値観を持っていますが、ユニークであるが故にそれは他者と共有できないため各自が孤立している社会になっていきます。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (i8.png) このように、個性を奇抜性や独自性と勘違いしたまま「自分の個性」を追い求めていくと、誰もが他人とコミュニケーションをとれなくなってしまい、社会全体も衰退していきます。 他人の個性を認める場合 自分の個性を伸ばすための最大のポイントは、他人の意見をしっかり聞くことにあります。 まず、単純に考えて、人はどんな時に他人の意見を聞こうとするでしょうか? Q:他人の意見を参考にしたい時とは、どんな場合か? A:それは「自分で考えようとしている時」です。 自分なりに何か疑問を感じた時や、自分の考えをまとめようとした時などに、人は友人などに「最近、こんな風に考えているんだけど、どう思う?」と尋ねて参考意見を集めようとします。他者の視点を通して、意見を補強したり、新たな問題点を発見したりして、自分の意見をまとめ直していくのです。 このように、自分で真剣に考えようとしている時にこそ、他人の意見はありがたいものになり、しっかり聞くようになります。 そうやって他人の話を真剣に聞いた上で改めて考え直した意見は、当初の「自分独りで思い付いた意見」とは比べものにならないほど飛躍的に質の高いものになるでしょう。 この場合、もちろん、その意見はもう「自分独自の意見」とは言えません。友人の意見を数多く取り入れているので奇抜性もありません。 しかし、それはよりハッキリと明確に「自分の意見」だと言えるものになります。どこまでが元々の自分の意見で、どこからが友人から影響された意見なのか、その出所の境界は曖昧で分からなくなるかもしれません。しかし、そんな「誰が言い出した意見か」なんて重要ではありません。重要なのは、友人と意見を交わした末に辿り着いた結論です。「現時点で、私はこのように考えている」という到達点です。それが格段に明確な形になります。意見の根拠や理由をしっかり整理し、反対意見に対しての理解も深くなり、どんな欠点を残しているかも把握した上で、他者にも分かりやすく説明できるようになります。決して独り善がりにならずに、むしろ周囲の人のためにも役立てられるような価値のある「自分の意見」になります。 つまり、単なる思い付きにすぎなかった「主観的な意見」を、他人の意見を参考にすることによって「客観的な意見」にまでレベルアップさせることができるのです。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (i10.png) このように、他人の意見をしっかり聞いて他人の個性をしっかり認めていくと、それが結果的に「自分の意見」を作ることに繋がってがいきます。「どんな意見に自分は賛成なのか」「どんな意見に自分は反対なのか」それを確認するだけでも、意見の精度は飛躍的に向上します。 少しややこしい表現になりますが、「自分らしい考え方」は他人の意見を聞くことによって形作られていくのです。 そして、ややこしい表現ではあっても、これこそ教育の最も基本的な構造です。 簡単にプロセスを整理すると、次のようになるでしょう。 先生からはこんな風に教えられた。 でも、友達は違う考え方を言っていた。 本などで調べてみたら、他にも色んな意見があると分かった。 それらを踏まえた上で、私自身はどの意見を正しいと考えているのだろうか? 教育とは「先生の話を聞いて終わり」ではありません。聞いてから、自分なりに咀嚼して考え直してみることが重要です。これは、そのまま「他人(先生)の話をしっかり聞いて、自分なりの意見をまとめていく」というプロセスでしょう。表現としてややこしくても「他人の意見を聞くことによって、自分の意見が形作られる」というのは、教育として極めて重要で基本的な根幹なのです。 さらに、このように自分の意見をしっかり持っていると、自分とは対立する意見に対してさえ配慮できるようになっていきます。「私の考え方とは違うけど、この点に関しては確かに共感できる」とか「世の中には色々な考え方があるんだなあ」といった感覚です。 改めて「自分の個性」を求める場合を考えると、「自分の意見」と「それ以外」の二極分化の構図になっていることが分かるでしょう。「それ以外」を全て振るい落とすことで、逆説的に「最後まで残ったものが自分の意見なのだ」と捉えようとしているのです。そのため、何か少しでも気に喰わないものがあれば、それだけで全面的に否定する傾向にあります。 例えば「ゆとり教育」を批判する場合、多くの人が「ゆとり教育は悪い」といったように全部丸ごと徹頭徹尾批判してしまいます。しかし、全体として批判するにしても、1つ1つの要素をきちんと確認していけば、賛同できる部分だって少しは見つかるはずなのです。そして、それが分かると安易に全体批判するような真似は恥ずかしくてできなくなるでしょう。 これは”常識”の中で万引きを例に挙げたケースと同じです。たとえ明らかな犯罪であっても、個別に見ていくと同情や弁解の余地があるケースは少なくありません。個々の事情を知っていくと、安易に全体批判することはできなくなるでしょう。 それと同じように、相手の意見をしっかり聞いている場合、たとえ意見が真っ向から対立しても、無闇に相手を批判しなくなります。むしろ、「そんな考え方もあるのか」と、対立したままでも敬意を払うことができるようになります。 友人と意見交換して、たとえその結果対立してしまったとしても、それ自体は友人との仲を引き裂くようなものではありません。むしろ、今まで以上にその友人を理解出来るようになるでしょう。自分と友人はどんな点で違うのか。その「違い」にしっかり注目することは、決して対立ではなく、相手をより深く理解するための前進です。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (i9.png) このように、お互いの個性を認め合おうとすれば、そこには自然に社会が生まれます。コミュニケーションが非常に重要になり、相互協力の基で積極的に社会が構築されていきます。 この場合の”個性溢れる社会”が目指すのは、自立と協力の両立です。決して独り善がりにならない、相互理解に基づく自立と協力。それはつまり、簡単に言うと「チームワーク」のことです。他人の個性を認めていくことが自分を高めることに繋がり、それによって今度は自分なりに他人のために貢献できるようになります。この連鎖によって、社会も自分自身も成長していきます。 ユニーク性を求めれば「他人とは違う自分だけの特徴」を探すために他者を排除していきますが、反対に「誰かのために役に立つ」という目標を掲げて他者と積極的に関わっていけば、具体的な自分の役割を見つける形で成長することができます。 抽象的な表現になりますが、「誰にも影響されない自分だけの自分」ではなく「みんなと共に生きて影響し合っている自分」を獲得していきます。それが個性なのです。 ユニーク性 ⇒ 自分の個性を求める ⇒ 他者性を排除 個性 ⇒ 他人の個性を認める ⇒ 自分の役割の発見に繋がる このような「他人の個性」を認め合える社会では、必ずしも奇抜性や独自性を必要としません。 良いアイデアはすぐに他人に伝播するので、画期的な発想でも早い段階で一般に普及します。 反対に、奇抜なだけで役に立たないアイデアは誰からも評価されません。すぐに淘汰されます。 どちらにしても、奇抜性や独自性は持続しないのです。 1人1人が自分の個性を持った”個性溢れる社会”とは「各自が自分の力を最大限に活かして、みんなで貢献し合う社会」ということになります。 注意:チームワーク 日本の”チームワーク”観にも誤解がよく見られます。分かりやすいのが、次の2点でしょう。 1人ではできないことでも、みんなでやればできる チームのためには誰かが犠牲になるしかない こういった考え方が根強くありますが、どちらも間違いです。 まずは1点目の「1人ではできないことでも、みんなでやればできる」ですが、これはチームワーク以前に、「集団」として当たり前のことです。 「10人集まれば10人分の仕事ができる」というのは当たり前です。まして「30人集って15人分の仕事をする」となれば、それはとても簡単でしょう。 「人数を増やせば、その分だけ可能範囲を広げられる」というのは当然なのです。 チームワークとは「同じ人数でもより高いパフォーマンスを発揮できるように、より質の高い協力関係を築くこと」です。簡単に言えば、10人で11人分以上の仕事ができるような協力関係を指します。 反対に、10人も集めて9人分以下の仕事しかこなせないならば、それは集団になることがマイナスに働いていることになります。つまり「足の引っ張り合い」が発生していると捉えられます。 集団(基準) 10人集まれば、10人分の力 チームワーク 10人で協力し、11人分以上の力を発揮 足の引っ張り合い 10人集まっても、9人分以下の力しか出せない 日本の”チームワーク”観では、この両者の区別ができていないことが多く、足の引っ張り合いを”チームワーク”と呼んでいるケースが多々あります。それが、2点目の「チームのためには誰かが犠牲になるしかない」といった言葉に表れています。 学校で考えた場合でも、よく「みんなで話し合って決めたことだから、我慢して協力しなさい」といった多数決の押し付けが見られます。現実問題として、全体の統率をしなければならないので、多数決は合理的であり、他に方法が無いのでしょう。しかし、それでも、それとチームワークは別物です。「チームワークが大切だから、多数決を押し付けて良い」という理屈はおかしいのです。 我慢や犠牲を容認するほどチーム全体のパフォーマンスは低下するため、どんどん足の引っ張り合いになっていきます。「チームのため」のはずが、意に反してチームをダメにしてしまうのです。そのため「無理矢理押し付けなければ全体を統制できないような状況は、仕方が無いとは言え問題が山積みだ」と捉えるべきでしょう。 チームワークには「各自の長所を引き出して活かすこと」が不可欠です。 他人を犠牲を前提として考えるようなチームワークなど成立しません。 注意:「認めること」と「肯定すること」 確認のため再度注意しておきますが、「他人を認めること」とは、必ずしも「他人を肯定すること」ではありません。しっかり否定することも「認めること」の範疇です。 既に”常識”の中で述べていますが、子供の発想には「先生が言ってたから」という判断基準があります。これは「先生が言っていることは内容に構わず全て肯定する」という考え方です。 しかし、それでは本当の意味で先生を認めていることにはならないでしょう。単に考えるのが面倒だから肯定してしまっているだけで、実は先生の意見について全く吟味していません。つまり、話を聞かずに肯定しているだけなのです。それでは、とても「認めている」とは言えません。 これと同じ構造を持つのが「イエスマン」です。相手の話を聞かずに、内容に関係無く、返事は全て「イエス」。これは、確かに全てを肯定していますが、決して相手を認めてはいません。むしろ、相手を無視しているのと変わらないでしょう。 このように、相手を肯定しても、それは必ずしも相手を認めていることにはなりません。 言い換えれば、相手に反対していても、それでも認めることはできます。 相手の話をしっかり聞き、その上で「この点において、私はあなたの意見には反対です」と答えるならば、それは相手をしっかり認めているのです。意見への賛否は、あくまでも意見に対する賛否です。たとえ相手の意見を否定しても、それは意見を否定しているだけで、相手の存在や尊厳を否定していることにはなりません。 ここで重要なのは、結論としての賛否ではありません。たとえ意見が対立したとしても、それは相手の意見を真剣に聞いている結果であり、相手と真正面から向き合っている証なのです。それこそ「人として相手を認めること」に他なりません。 これはスポーツを例に考えると分かりやすいですが、本気で相手を倒そうとしている時というのは、本気で相手を認めている時なのです。敵として敬意を表することは、人として敬意を表することと大差ありません。 単に全面的に肯定するのではなく、「この部分は賛成だけど、こっちは反対」といったように相手の意見をしっかり評価することこそ、本当の意味で相手を認めることになります。 未知の道 こうして見直してみると、実は個性には一貫性が無いことに気付くでしょう。 個性とは「自分らしさ」であるため「個性とは、いつどんな時でも変わる事のない一貫した自分らしさだ」と、よく誤解されています。しかし、それは間違いです。 既に挙げたように「弱い人間」が「弱い人間のままであること」に個性など見出せないでしょう。反対に、強くなろうと努力する姿勢に、その人の個性を見出すことは容易です。 人は成長しながら、どんどん違う価値観を取り入れていきます。絶えず変化しながら成長していくのです。つまり、成長とは変化です。「個性を伸ばす」とは、成長のプロセスを指します。そのため、変わっていくことが個性なのです。 これはよく「道」に喩えられます。 ずっと歩き続けてきた後で、ふと振り返ればそこには自分が歩いてきた道筋ができているでしょう。その自分が歩いてきた道、道中で体験してきた事柄、その旅で得た思い出、それらが自分の個性として吸収されます。 個性とは、単純に「今の自分」ではなく、「今までの自分」という過去から現在へと続いている成長のプロセス全体を指します。 さらに「今までの自分」のみならず「これから自分」が重要になります。 個性を「自分が歩いてきた道筋」だとするならば、「個性を伸ばす」とは、その道筋をさらに伸ばしていくことを意味します。 当然ながら、ここで過去の道筋をいくら見直しても、それが伸びることはありません。道を伸ばすためには、さらに前へと進み続けることが必要です。 過去を振り返れば「今までの自分」の個性を確認できるかもしれませんが、それは思い出のようなものです。大切なものではありますが、思い出に浸ってばかりで努力を疎かにしていては成長できません。思い出は浸るためのものではなく、これからの努力目標を決めるための参考として活用する方が有意義でしょう。 時々後ろを振り返ることも大切なのは、「今までの自分」を確認して、それを次の進路を決める際に活かすためです。つまり、まず「今これから何をしたいか」という目標や目的があってこそ、過去の自分が活かされてくるのです。 このことから、個性は「これからの自分」という未来の可能性をも含めた概念になります。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (i12.png) もし「いつまでも全く変わらない一貫性」を求めるなら、それは「その場でじっと立ったまま、全く1歩も進まないこと」になります。前へ進まないからこそ何も経験せず、何も経験しないからこそ考え方も変わりません。「変わらないこと」とは「成長しないこと」です。 一貫性を保つためには、成長しないことが不可欠になってしまうので、それは間違いなのです。 このように変化し続けているからこそ「自分の個性」を把握することは容易ではありません。しかし、それで構わないのです。「昨日までの自分」がどんな考え方をしていたか、そこにこだわる必要はありません。今日改めてチャレンジしてみれば、きっと昨日までとは違う結果になります。無理に同じ結果にしなければならない理由など微塵もありません。考え方など変わってもいいから、これから「新たな自分」を発見していけばいいのです。 様々なことにチャレンジしていると「自分がどんな人間なのか、自分でもよく分からなってきた」と感じる機会があるでしょう。それぐらいに成長し続けている人こそ、本当の意味で個性的なのです。 その意味では、基本的に子供たちはとても個性的です。
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おはなばたけでばかになる【登録タグ VOCALOID YM お 初音ミク 曲 蝶々P】 作詞:蝶々P 作曲:蝶々P 編曲:蝶々P 唄:初音ミク 曲紹介 イェーーーーーーーーーーーイwwwwwww (アヘ顔ダブルピース) 19ヶ月ぶりとなる初音ミク曲。 イラストは YM氏 が手掛ける。左側ギターを ナオ氏 が演奏。背景協力は陽悦氏。 歌詞 (Youtube版作者コメより) 誰もが人生を謳歌して 生きていけるとしたら苦労はねぇ! お花畑でパーティータイム 夢見心地になっていこう 目に飛び込んでくる光景は マジでくだらない事ばっか 腐った世の中なんて もうどうにでもなってしまえ 刺激全開な脳内はイッちゃって 腰振って踊って さぁ馬鹿になれ 面倒くせぇ愛だの恋だの放っといて ケツでも叩いてアヘ顔ダブルピース モザイクばっかの情報じゃ まるでSuperなWienerも勃ちやしねぇ! 求めるだけ野暮だって 本当は気付いてんだろう? う〇こみたいな日常は マジでつまらない事ばっか 人類なんて地球ごと 滅んで消えてしまえ 恥ずかしがって"NO!"なんて言っちゃって 良い子ぶっていないで さぁ馬鹿になれ 世間体なんて何処かに置いといて 理性を殺してアヘ顔ダブルピース 目に飛び込んでくる光景は マジでくだらない事ばっか 腐った世の中なんて もうどうにでもなってしまえ それじゃあ軽快な妄想に酔っちゃって 全てを晒して さぁ馬鹿になれ ブチ撒けたい衝動は最高潮 我慢はしないぜ あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!! 最早限界な脳内はイッちゃって 腰振って踊って さぁ馬鹿になれ 面倒くせぇ愛だの恋だの放っといて ケツでも叩いてアヘ顔ダブルピース コメント ピアノ格好よすぎです!……歌詞も良い!! -- 蝶々Pファン! (2017-04-01 22 41 36) 曲名が蝶々Pだと思えなかった。追加乙! -- 名無しさん (2017-04-02 01 30 13) ちょうさんの作る曲ほんとすこ! -- 信州サーモン丼 (2017-04-07 01 24 37) 海パンPかな? -- 名無しさん (2017-04-07 07 47 41) 曲は凄く良いんだけど、イラストがww -- 名無しさん (2017-04-09 15 53 01) これほんとすき(笑) -- りゆうはない。 (2017-08-07 18 51 17) 曲もピアノも格好よくてめっちゃ蝶々Pなのに、歌詞はギリギリだし動画は完全アウトで大草原www -- 名無しさん (2017-10-27 22 02 17) こwれwはw -- 名無しさん (2018-04-14 19 06 39) ギリギリのところまで攻めてますねwでもそれがいい -- 名無しさん (2018-04-14 21 47 46) 最近になって知ったけどそれからもうずっと聴いてる -- 名無しさん (2018-04-28 18 26 14) 色んな意味でずるすぎる曲 -- 名無しさん (2018-06-29 14 54 06) 動画アウトで草 -- 名無しさん (2021-08-16 11 35 50) 名前 コメント
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薔薇乙女《ローゼンメイデン》第一ドール。 かつて、水銀燈は自分のことをそう名乗った。 薔薇乙女《ローゼンメイデン》第五ドール。 今日、アーチャーは自分のドールのことをそう言った。 第二、第三、第四ドールのことは分からない……まだ聞いてないが、もしかしたら雛苺がいずれかに当てはまるのかもしれない。 まだ見ぬドールは、少なくとも二人以上、ということか。 とにかく、第五ドールの存在を知ってから、水銀燈の態度は一変してしまった。 その相手に会いに行くか、行かないか。水銀燈は、楽しそうにしながらも、しばらく悩んでいたようだったが、やがてキッパリと決断した。 「決めたわ。決めたわ。 あの子に会いに行きましょう。 真紅に会いに行きましょう」 『銀剣物語 第五話 健康と美容のために、食後に一杯の紅茶』 「さあ、行くわよ士郎。 もうこんな時間だもの、ぐずぐずしていたら、真紅が寝てしまうわ。 せっかくの再会なのに、寝てしまっているなんて許せない」 水銀燈はすっかりその気だ。かつてないほどうきうきしているのが見て取れる。 そして俺には、それについていく以外の選択肢は与えられていないのだった。 「行くのはいいけど……なあ、水銀燈。 その真紅って奴のところまで、どうやって行くつもりなんだ?」 俺がせめてもの抵抗がわりに、ふと思いついたことを口にしてみると、水銀燈は鳥は何故空を飛ぶのか、と尋ねられたみたいに眉をひそめた。 「……何を言ってるの、お馬鹿さぁん? nのフィールドを使えば簡単じゃない」 「いや、確かにnのフィールドなら、簡単だろうけどさ。 わざわざnのフィールドを使わなくても、普通に歩いていける場所にいると思うんだ、そいつ」 アーチャーと契約したドール……真紅。それが居るとすれば恐らく、遠坂邸に違いない。 なにしろ、あの男の性質から考えれば、主である遠坂以上に屋敷のつくりを把握していることは想像に難くない。屋敷のどこか一室に、遠坂に気付かれないように匿うことはそう不可能じゃないだろう。 それに……キャスターとの会話が脳裡をよぎる。 夜。 鏡。 新都のドール。 今から、この姿見の中に足を踏み入れるのは、何かよくないものと出会うような気がする。 「……ふぅん。 そんなに近くに居たなんて、水銀燈知らなかったわぁ。 うぅん、じゃあどうしようかしら……」 少しだけ何かを考えた後、水銀燈は方針を決めた。 それは……。 「――それじゃあ、明日、直接会いに行きましょう。 そっちのほうが真紅をからかってるみたいで面白そうだしぃ」 水銀燈が出した結論に、俺はほっと胸を撫で下ろした。 水銀燈の思惑が挨拶にしろ宣戦布告にしろ、なるべくならば穏便な接触で済ませてほしいというのが俺の偽りない本心である。 昼間、さらに正面からの訪問ならば……最悪でも闇討ち、不意打ちの類の危惧はしなくても済むだろう。 ――そして、夜の姿見を越えた先に、何者かの影を見ることも無い。 「オッケー。明日から休日だし、丁度良かった」 膝を打って了解する。 明日は土曜日、学校も休みなので、部活動にも所属していない俺は一日自由に使えることになる。 朝食を終えたら、早速出かけられるだろう。 「……そうねぇ、せっかくだから、色々準備しておこうかしら……」 見れば、水銀燈も何やら考えているみたいだった。 何か一人で頷いた後、俺に向かってこう尋ねた。 「士郎、人形を用意しなさい」 「人形? 人形って……」 突然の質問に面食らう。 とりあえず人形なら目の前に一体いるんだけど……。 「人形は人形よ。自分で動けない人形でも、私の力を込めれば、思うがままに動かせるようになるの。 それを使って、真紅を驚かせてあげるわぁ」 「ああ、人形って、そういうことか」 そういえば雛苺も、nのフィールドでアレだけの人形を操作していたっけ。 水銀燈も同じような事が出来るってことか……って、待てよ? それって下手すると、俺が氷室の二の舞になるんじゃないのか? 「あの、それって俺から力を吸い取るってことだよな? 間違って俺が消滅するなんてことは……」 「雛苺みたいに、って言いたいわけぇ? くだらなぁい。 後先考えずにたくさんの人形を操るなんて、お馬鹿さんのすることよ。 水銀燈は、あんな使い方はしないわぁ」 「そ、そっか、よかった」 俺だって魔術師の端くれだし、普通の人よりもいくらかは耐えてみせる気ではあるが、流石に氷室が消滅しかけたのを見た後では不安にもなる。 「でもなぁ、人形かぁ……」 俺にはとんと縁のないアイテムである。 もちろん親父にもそんな趣味は無かったので、土蔵をひっくり返してもおそらくその類のものは出てこないだろう。 しかし、人形……人形……フィギュア……ぬいぐるみ……? 「あ」 そうだ、それならば――。 「確か、以前藤ねえがゲームセンターで大量に景品をゲットしてたな」 UFOキャッチャーだかなんだかで、無闇矢鱈に押収してきた奴。 両手に袋で二つも三つも持ち帰ってきたから、すごく印象に残ってる。 教師としてそんな武勇伝を作ってていいのか、とはこの際言うまい。 「あれだけあるんだから、頼めばいくつか分けてもらえるだろ。 よし、善は急げだ。今から行くけど、水銀燈はどうする?」 「ふぅん……いいわ、ついていってあげる。 私もどんな人形なのか、興味があるしぃ」 ――というわけで。 俺と水銀燈は土蔵を出て、藤ねえの元へ。 藤ねえは丁度、居間でテレビを見ている最中だった。 連れだって入ってきた俺たちを見て、齧りかけのせんべいを咥えたまま振り返る。 なんとも行儀が悪い。 「あれ? 士郎と水銀燈ちゃん、どうしたの?」 「あー、実はな藤ねえ。 折り入って頼みがあるんだけど」 むっくり起き上がる藤ねえを、上から見下ろしながら両手を合わせる。 回りくどい言葉を使っても意味が無いので、さっくりと本題を持ち出した。 「頼み? なになに、お姉ちゃんに頼らざるを得ないような相談事?」 「や、そんな大層なもんじゃないんだけどな」 「あなたが人形を持っているって聞いたわ。 それを私に寄越しなさぁい」 俺が切り出すより早く。 水銀燈がどこぞの金ぴかを連想させるような物言いで言い放った。 「え? 人形?」 他人に物を頼むにしてはあんまりなその態度に、藤ねえの頭上にもクエスチョンが飛び交う。 「ほら、藤ねえこの前たくさん取ってきたのがあったじゃないか。 あれを一つ分けてもらえないかな、って」 「あーあー、アレね。 別に構わないけど、どこやったかなー。 確か廊下に出しておいたはず……」 よっこらしょ、と起き上がり、廊下においてある荷物を物色し始める藤ねえ。 俺もとりあえず、その辺にある袋を漁ってみることにする。 「でもなんだか唐突だわね。 なに? 水銀燈ちゃんもお仲間が欲しいの?」 「なっ、そんなわけ無いでしょう、くだらなぁい!」 探しながら投げかけられた藤ねえの言葉に、思わず声を荒げる水銀燈。 俺はと言うと、ああ確かにそういう発想もありだな、と密に納得していたりする。 「照れなくったっていいじゃない。 そりゃあおんなじ人形が雛苺ちゃんだけじゃ、寂しくなるのも分かるわよねー」 「だぁから……!!」 っと、のんびり納得している場合じゃ無い。 これ以上ほっとくと、水銀燈が爆発してしまいそうだ。 丁度そのとき、俺が手にした袋がなにやらもこもこした手触り……これか! 「あああ藤ねえ、探してる袋ってこれじゃないか!?」 水銀燈が爆発する直前、ギリギリで目当ての袋を取り上げる俺。 「あ、そうそうそれそれ。 いやー駄目ね、こうごたごたしてると見つけにくくって」 「その原因の九割九分五厘は藤ねえの所為だけどな。 ……で、開けていいのか?」 「いいわよー、では、ご開帳!」 袋の中に入っていた人形、真っ先に目に付いたそれは―― 大きなビニール袋の中は、所狭しと人形が押し込められていた。 「どう? これ全部、自力でゲットしたのよ? 最後のほうなんか、店員さんのほうが筐体にキックかましてたんだから」 ああ、そりゃあ店員さんも災難と言うか、厄日と言うか。 いや、それはいいとしてだな。 「これって、確か……」 一番最初に目に付いた人形を取り上げて見る。 垂れた耳、短い手足、ぺろんと出した舌、どこか眠そうな目。 蝶ネクタイをつけた犬のぬいぐるみ。 これには見覚えがある。確か……。 「……それは!?」 「おわっ!?」 いきなり後ろから、水銀燈が飛び込んできた!? そのまま俺の腕ごと、ぬいぐるみに飛びつく水銀燈。 「ちょっ、水銀燈!?」 「これは……くんくん!? くんくんじゃない!」 水銀燈の言うとおり、これは大人気テレビ番組の、たんてい犬くんくんのぬいぐるみだった。 特徴を捉えてある、よく出来たものだったが……やたら大きいな、このぬいぐるみ。 「ああ、それ、筐体に入ってたぬいぐるみの中でいっちばん大きかったやつね。 あんまり大きいから出口につっかえるんじゃないかって心配だったけど」 そりゃそうだろう。 なにしろ水銀燈と同じくらいの大きさなのである。 これがUFOキャッチャーの景品として鎮座していたとは思えない。 当の水銀燈は、くんくんをじっと見つめているが……。 「おーい、水銀燈……?」 「………………」 聞いてないし。 なんだかここんとこ、水銀燈の新しい一面が色々出てくるなぁ。 「……そんなに気に入ったのか、ソレ?」 「……ハッ!?」 ようやく我に返る水銀燈。 しがみついていた俺の腕から飛び降りて、体裁を取り繕うが、顔が赤い。 「な、なにを言うのよ……この私がたかが犬の探偵を気に入るわけ無いじゃない……ほんと、つまんなぁい」 あの、そう思うなら、その手に掴んで話さない犬のぬいぐるみをどうにかしたほうがいいと思いますが。 それに、そういう態度を取られると、こちらとしても少し悪戯心が出てきてしまう。 「そうか。じゃあ他の人形のほうがいいかな? これなんかどうだ、装着変身シリーズ……」 「ま、待って!」 くんくんを脇に寄せて、他の人形を取り出そうとする俺を、慌てて遮る水銀燈。 目を逸らしながら言い訳を探すその姿は、実に新鮮でかわいらしかった。 「……け、けど良く見たら、他の人形よりははるかにマシみたいねぇ。 仕方ないから、このくんくんでガマンしてあげるわぁ」 ……それがいいなら素直に言えばいいのに。 「じゃあ、藤ねえ。このぬいぐるみ、貰ってもいいかな?」 「いいわよ。大事にしてあげてね、水銀燈ちゃん」 「……ふん」 あくまでそっぽを向いて、しかしぬいぐるみを手放さない水銀燈。 こうして俺たちは、くんくんの人形を手に入れたのである。 * * * 「でもさ、そのぬいぐるみ、水銀燈の力で操るんだよな?」 土蔵に戻る道すがら、俺は本来の目的を思い出した。 隣では水銀燈が、くんくんのぬいぐるみを抱えながらふらふらと飛んでいる。 代わりに持とうか、と言って見たのだが、頑なに断られた。 「いやぁよ。真紅なんかに見せたら、勿体無いじゃない。 くんくんはここに、大事に置いておくんだから」 ……おーい、それって本末転倒って言わないか? どうやら水銀燈は、本格的にそのぬいぐるみを気に入ってしまったらしい。 「じゃあどうする? もう一度藤ねえに分けてもらいに行くか?」 「必要ないわ。 そもそもあの女が持っていた人形じゃ、意味がないもの」 ……意味が、無い? 「どういうことだ?」 「そもそも、人形とは持ち主の思いが篭もるもの。 それは長い時間をかければかけるほど積み重なっていくものなの。 あそこにあった人形には、共にした時間が欠けていたわぁ」 ああ、なるほど。 神秘は時間をかけてより強い神秘になる。 人形もまた、神秘の一種というわけか。 「そんな人形じゃ、真紅相手には役立たずだもの。 持ってても持ってなくても、変わらないわぁ」 「……わかった。 人形が欲しいなら、別の当てを探さなきゃ駄目ってことか……」 ……それにしても。 薔薇乙女《ローゼンメイデン》第五ドール、真紅。 水銀燈がここまでこだわる相手とは、一体どんな奴なんだろう? 真紅の名前を聞いてからの水銀燈の態度は、俺なんかには測りきれないほどの感情を秘めているようだし。 何がそこまで、彼女を思いつめさせるのか……? 「水銀燈。ちょっと聞いておきたいんだけど……」 「お前、そんなに真紅って子が好きなのか?」 何故そう思ったのか、俺自身にもわからない。 ただ、水銀燈の言葉の端々からにじみ出る、異常とも言えるほどの執着心。 その原因はなんだろうか、と考えれば、普通は憎しみが挙げられるのだろうが……何故だか、俺にはそう思えなかったのだ。 ……だが。 「ふざけたことを言わないで」 「っ!?」 振り向きざまに放たれた水銀燈の言葉は、俺を竦めさせるのに充分なものだった。 「私が……真紅のことを、好いているですってぇ? くだらない……本当に、くだらなぁい」 吐き捨てる。 まるで言葉そのものが、汚らわしいものであるかのように。 その、殺気立った瞳に、思わず気圧される。 しかし、その瞳は俺ではなく、別の誰かに向けて焦点を結んでいた。 その誰かが誰なのか……考えるまでも無いだろう。 「いい? 私は単純に、あの子が嫌いなの。 あの子の顔も、態度も、性格も、本当に気に食わないったらないわぁ。 そうよ、あの子なんかが……アリスに相応しいはずが無い」 一言一言、相手に語りかけるように。 あるいは、自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。 「水銀燈、お前……」 「士郎。明日は忙しくなるわぁ。 用意が出来次第すぐに出掛けるわよぉ。それと――」 俺の言葉を遮り、水銀燈はくるりとこちらに背を向けた。 そして、肩越しにちらりとこちらに目線を送ると、最後に言った。 「今度また、私にくだらないことを訊いたなら。 そのときは士郎、貴方を……本当にジャンクにしてあげるから」 そうして、水銀燈はそのまま、土蔵に向けて飛び去って行ってしまった。 「……なんなんだ、一体」 一人きりになった中庭で、やり場の無い戸惑いが、口から零れ落ちた。 なんだか、水銀燈が怒るところを初めて見たような気がする。 今日は初めて尽くしの日だな……いや。 「俺が、気付いてなかっただけか」 自分の間抜けさに呆れてしまう。 俺は今日、水銀燈の新しい一面を見つけたんじゃない。 今まで、水銀燈のいろんな顔を見てすらいなかったんだ。 「下僕失格、か。……はぁ」 水銀燈ならそう言うだろう、と考えて、溜息をつく。 今日はやけに寒い。溜息すらも、かすかな白い靄になっていく。 「……そういえば、水銀燈の息は白くなってなかったな」 やはり、人形と人間では造りが違うからなのか。 俺は、そんなことにも、初めて気付いた。 もっと水銀燈の事が知りたい。 アリスゲームのためじゃなく、もっと単純な理由で。 そうでもしないと、俺は……。 ――このままだと、水銀燈のことを、夢にでも見てしまいそうで。 「……ええい、やめだやめ」 頭を振って気持ちを切り替える。 俺一人で考えていても埒が明かない。 これ以上理解しようとするのなら、当事者の話を聞かなきゃいけないだろう。 だから、俺は頭の隅のほうにこの疑問を押しやった。 そうして、俺は―― そういえば、雛苺はどうしているのだろうか。 さっき見に行った時は、居間には藤ねえしかいなかったし。 と、いうことは、誰かの部屋に遊びに行っているのか? 「……少し、様子を見に行くか」 ……雛苺を疑っているわけじゃないが、どうにも、氷室という前例があるからなぁ。 契約の指輪を失ったんだから、無茶なことはしていないと思うが。 とりあえず、一番近い部屋から順番に探してみよう。 「まずは、ライダーの部屋からかな」 中庭から直接廊下に上がって、ライダーの部屋に向かう。 一応、部屋の前でこんこん、とノックしてみる。 「ライダー?」 「士郎ですか?」 「え、先輩?」 「シロウ?」 あれ? 思いがけず、三人の声が返ってきたぞ。 ライダーの部屋に、桜とセイバー……桜はともかく、何でセイバーが? 「丁度良かった。 士郎に少し、訊きたい事があるのですが」 「は? いや、別にいいけど。 その前に、雛苺が来てないか? 居間にいなかったから探してるんだが」 「あ、雛苺ちゃんなら、今ここにいますけど……えっと」 む、いきなりビンゴ。 けどなんか、桜の返事が歯切れが悪いな。 「もしかして、呼んじゃまずかったか?」 「いえ、実は訊きたいことというのは、その雛苺に関することでして……。 とりあえず入って来てくれませんか?」 …………? よくわからないが、ライダーが入っていいと言ってるんだから入ってみるか。 「じゃ、お邪魔します……」 そう断って、ドアを引いて中に入る。すると……。 「…………」 「えーと……」 「……むぅ」 部屋の中には、揃って困りはてた顔をしたライダー、桜、セイバーの三人と。 「……うぅー」 ベッドの上で不機嫌そうにむくれている、雛苺の姿があった。 正直、どういう状況なのか、まったくもって分からない。 「なんだ? 一体どうしたんだ?」 「それが……さっきまで、雛苺ちゃんと遊んでいたんですが」 「なんと言いますか、お互いの意思疎通に齟齬がありまして……。 それで、全員困り果ててしまったのです」 意思疎通? 何か分からないことでもあったのだろうか? 「その、雛苺ちゃん、表現が独創的なものですから」 「なんとか伝えようとしてくれているのは、分かるのですが……」 揃って顔を見合わせる桜とセイバー。 むう、雛苺は言葉足らずなところがあるから、それで分かりづらいのだろうか。 「で、なにが分からなかったんだ?」 「それが……雛苺の好物についてなのです」 「好物? 好きな食べ物か?」 「はい。名前は分からないらしいのですが……雛苺の説明だけでは、私たちにはそれがなんなのか皆目見当がつかないのです」 無念そうに言うライダー。 なるほど、それで俺にお呼びがかかったのか。 「それで、士郎に頼みたいのですが……」 「ああ、つまりそれがなんなのか、俺にも考えて欲しいってことだな?」 「はい。士郎も料理が得意ですから、もしかしたら分かるのではないかと」 どうやら、桜の力だけでは解明できなかったらしい。 そういうことなら、及ばずながら俺も力になろう。三人より四人だ。 「よし、わかった。 それじゃあ雛苺、その好きな食べ物ってのはいったい何なんだ?」 俺が目の高さをあわせながら尋ねると、雛苺は一瞬戸惑ったものの、大きな声ではっきりと説明してくれた。 「あのね、透明で、黄色くて、黒くて、すくって食べるの!」 「は?」 あまりに抽象的な表現に、間の抜けた声を上げてしまった。 「それ、食べ物なんだよな?」 「そうよ。 鐘が、雛苺に初めて食べさせてくれたのよ」 氷室が、雛苺にあげた食べ物……? 隣からライダーが声をかけてくる。 「分かりますか、士郎? 私たちには、その、さっぱり……」 「ちょ、ちょっと待ってくれ。 ええっとだな……」 こ、これは思ったよりも難題だぞ……? 透明で、黄色で、黒くてすくって食べるもの? なんなんだ、一体……? 待てよ、もしかすると……。 「雛苺、その食べ物って黒いシロップをかけて食べるのか?」 「うんっ、そうよ! そのシロップが、とってもあまぁーいの!」 やっぱり。 透明は寒天、黄色はミカン、黒は蜜と餡子か。 加えてすくって食べるとなると……。 「先輩、わかったんですか?」 「ああ。ひょっとして……あんみつじゃないか?」 「あ……!」 俺の予想に、桜が思わず拍手を打つ。 「それです、確かにあんみつならぴったりですよ、先輩!」 賛同してくれる桜とは対照的に、セイバーとライダーはいまひとつピンと来ない、という顔をしている。 そっか、セイバーとライダーもあんみつを良く知らないのか。 「……シロウ、そのアンミツという食べ物はどんなものなのですか?」 「ええっと、寒天を使った和菓子だよ。器の中に寒天とか餡子とか、果物とかを盛り付けて、甘い黒蜜をかけて食べるんだ」 「ほほう……」 セイバーが早速興味深そうに聞き入っている。 そうか、セイバーもライダーも食べた事が無かったか。 それじゃあ……。 「うーん……」 一瞬、明日にでも買ってきてやろうかと考えたのだが。 良く考えなくても、明日は水銀燈との先約がある。 そっちがいつまでかかるか分からない以上、安請け合いをするわけには……。 と、そのとき。 「わかりました。では雛苺、明日私がそのあんみつを買ってきましょう」 そう名乗り出てくれたのは、ライダーだった。 その提案に、雛苺の顔がぱっと明るくなる。 「ほんとう!?」 「ええ。明日はアルバイトがありますので。 それが終わったら、あんみつを買って帰ります」 「C est heureux! ライダー、ありがとう!」 そのままライダーに抱きつく雛苺。 流石と言うべきか、その突然の突撃にもよろめかずに受け止めるライダー。 「悪いな、ライダー」 「いえ。先ほども言いましたが、アルバイトのついでです。 それにセイバーほどではないですが、私もそのあんみつに興味がありますから」 そう言って俺の謝辞を断るライダーだったが、雛苺を見るその目はどこか優しげだ。 ううむ、そういえばライダーは、女の子は可愛くあるべし、みたいな思い込みがあったっけ。 その点、雛苺は存在自体が女の子の象徴みたいなもんだからな。 案外、ライダーも雛苺のことを気に入ってるのかもしれない。 「ライダー、あんみつはどうか私の分も買ってきてくれるのでしょうか?」 「心配せずとも、人数分はしっかり買ってきます」 そわそわと催促するセイバーに、冷静に返すライダー。 ふと、時計を見れば、八時半を回ろうかという時間になっている。 あと少しすれば、ドールは眠りにつく時間だ。 俺は腰を上げて、部屋にいる面々を見渡した。 「じゃあ、俺はもう行くよ。 雛苺も、そろそろ寝るんだぞ」 「はーい」 俺も今日は早く寝ることにしよう。 水銀燈も言っていた通り、明日はきっと忙しくなるだろうから。 * * * ――翌日。 玄関を出たところで、俺は雲ひとつない青空を振り仰いだ。 「うん、よく晴れてる。出掛けるには丁度いいな」 本当に、気持ちいいくらいの晴天だ。 これで、出かける用件がもうちょっと陽気なものだったら文句もなかったんだろうけど。 「……ちょっと、士郎」 ……と、清々しい気分に浸っている俺に水を差すような声。 いかにも不満、といいたげな、その声を上げたのは――。 「……なんなのよ、この恰好は?」 底冷え、という単語がぴったり似合いそうな声。 だがその声の出所はというと、実は俺の腕の中だったりする。 片手を水銀燈の膝の裏、片手を水銀燈の腕周りに回して支え持つ。 要するにお姫様抱っこ。 本来ならば、身長の足りない俺がやるとてんで様にならないことベスト3に入る行為。 なのに、先日は氷室、今日は水銀燈、と、ここのところ抱っこ率がやたら高いのはどういうわけなんだろうか。 「一体どういうつもり? いきなりこんなことをして……死にたいの?」 相変わらず水銀燈は冗談を口にしない。つまり今の俺の命は風前の灯か。 ともあれ、水銀燈はどうやらこの体勢がお気に召さないらしい。 「どういうつもりって言われてもなぁ。 他に方法が思いつかなかったし。 水銀燈をトランクに入れたまま運ぶのも失礼だろ?」 「だったら私は自分で飛んでいくわ。 だからこの手を放しなさぁい」 「いや、動いてるところを他人に見られたらまずいって」 まあそれでも、こんなに大きな人形を抱えて歩いているのはだいぶ目立つけどな。 が、水銀燈はそれでもまだ納得していないようで、むー、と唸っている。 「それは貴方たち人間の都合でしょう? 水銀燈は誇り高い薔薇乙女《ローゼンメイデン》の第一ドール。 なにも隠すつもりはないわぁ」 ううん、他人に迷惑……って、水銀燈に言っても通じないか。 それじゃあ……。 「じゃあ、こうしよう。 誇り高い主を歩かせたりなんかしたら、こりゃ従者の名折れだ。 これも従者の務めだと思ってさ。これくらいはやらせてくれよ。 それならいいだろ?」 そうだ、俺は水銀燈の従者として契約した。 なら、従者らしい振る舞いをしなければならないはずだ。 ……だが、水銀燈は俺をじっと見つめた後、つまらなそうに鼻を鳴らした。 「……ふん。随分口が良く回るじゃない。 そんなに下僕らしくしたって、今更だわ。 ホント、くだらなぁい」 勢いよく広がる漆黒の翼。 ぱしん、と俺の手を打ち据えて、水銀燈の身体が宙に浮く。 「第一、あんな恰好を真紅に見られたら、何を言われるかわかったもんじゃないわ。 つまり、余計なお世話。わかったらさっさと行くわよ」 そう言い残すと、住宅街の空を率先して飛んでいく。 ……駄目か。 これを機に、水銀燈のことをもっと知る事が出来れば、と思ったんだけどな。 ――それとも、昨日のうちに謝っておけば、少しは違ったんだろうか。 「なに、ぼうっとしてるの? 遅れたら本当に置いていくわよ」 「あ……ああ」 既に前方に小さく見える水銀燈に、そう言われて我に返った。 そして、同時に気がつく。 『まだ』前方に小さく見える……飛ぼうと思えばどこまでも飛んでいけるだろうに、水銀燈は追いかけることが出来るくらいの速度で飛んでくれているみたいだ。 これは問答無用で置いていかれないだけ、マシと言うべきなんだろうか。 「って、遠坂の家の場所知らないんじゃないか、あいつ……?」 俺は慌てて、水銀燈の背中を追いかけて、走り出した。 さて、俺の家から遠坂の家までは、深山町を北から南へほぼ縦断することになる。 水銀燈が自分で飛んでしまっている以上、他人に見られたら言い逃れは出来ない。 『こちら側』の事情を分かってくれる奴ならともかく、何も知らない一般人に目撃されたらお手上げだ。 さて、そうするとどういうルートを進むべきなんだろうか……? 「士郎、交差点だけど」 「ああ、そこを右に曲がってくれ」 バス停のある交差点を右に折れる。まっすぐ進めば、大橋に到る道だ。 ……遠坂邸に向かうには、商店街を突っ切るのが一番早い。けど、商店街は午前中でも人が多いし、流石に駆け抜けるには分が悪い。 なので、少し回り道になるが、まず大橋側に向かってから、遠坂邸を目指す。 学園側に迂回することも考えたが、休日とはいえ、部活動をしている生徒もいる。なにより、知り合いに遭遇する確率で言えば商店街よりも高い。恐ろしくて近寄れない、というのが本音なのだ。 「…………」 「…………」 俺も水銀燈も、互いに無言。 道を尋ねること以外は、何も口にしないまま、走り続ける。 息が苦しい。 運動のせいじゃない。水銀燈に合わせて走るペースはそれほどキツくはない。 だから、この息苦しさは、横たわる沈黙のせい。 置いていかれているわけじゃないのに、話をするわけでもない、微妙な距離感。 昨日の夜から……いや、昨日の夜に初めて明確に示された境界線。 「士郎、次の道はぁ?」 「左に。その後はしばらくまっすぐだから……」 「そう」 俺の先を飛ぶ水銀燈の背中。 小さく、そして美しいそれを追いかけて走る。 俺が追いかけるのは水銀燈の背中。 水銀燈が向かう先はドールの住処。 目指しているところは同じだが、見ているものは違っている。 ……ふと、水銀燈が言っていた言葉を思い出す。 『アリスになるのは、この私』 水銀燈は、アリスになるのが最たる願いだという。 アリス……人形師ローゼンが求め続けた究極の少女。 だが、そのためには他のドールを倒し、その命とも言えるローザミスティカを奪わなければならない。 「…………なんか、ひっかかるなぁ」 言いたいことはあるんだが、それが上手く言葉にできない。 そうしている間にも、どんどん沈黙という名の重圧は増していく。 この状況を変えるには、何かきっかけが必要なんだろうけど……。 「あれ? あそこにいるのは、バゼット?」 道の向こう、新都のほうから歩いてくるスーツ姿の女性は、間違いなくバゼット・フラガ・マクレミッツ。 元、魔術協会の封印指定執行者という、凄い肩書きを持っているのだが……実は少し前までは、ウチに居候していた人だったりする。 今は郊外の幽霊屋敷を私物化……もとい、住居として生活してるようだ。 新しい働き口を探すのが大変らしく、ここしばらく姿を見てなかったのだが。 「士郎くん?」 っと、向こうも俺に気がついたみたいだ。 こちらを見て、なにやら怪訝そうな顔をしている。 ううむ、まあ当然か。空を飛ぶ小人と、それを追いかけて必死に走っている男を見れば、魔術師だって眉くらいはひそめるだろう。 走る足を一旦緩めて……って、まずい、水銀燈の奴、先に行っちまうじゃないか。 「水銀燈、悪い、ちょっと待っててくれないか?」 「はぁ?」 呼び止めると、水銀燈は「何を言い出すのこのグズは」とでも言いたそうな視線を俺に向けてきた。 「何を言い出すの……」 「いやあのほら、あそこにいる人、俺の知り合いなんだ」 なんか想像していた台詞を本当で言われそうだったので、慌ててバゼットのほうを指し示す。 ううむ、俺もだんだん水銀燈の言いたい事が理解できるようになってきたってことかなぁ。あんまり嬉しくないけど。 「あそこ?」 そこでようやく、水銀燈はその道の先にバゼットの姿があることを認識したらしい。 どうも水銀燈は、自分に関係ない、興味がないことに関しては知覚すらしないようなところがあるなぁ。 「へぇ……」 って、うわっ!? なんだ、水銀燈の瞳がより一層細められた、様な気がした、けど? 「まぁた、女……貴方ってほんとに女にばっかり顔が広いのねぇ……つまんなぁい」 いや、そんな軽蔑したみたいな顔でそっぽ向かれても。 第一、女ばっかりに顔が広いというのは間違いだ。 「そんなわけあるか、俺はそんなに交友関係が偏ってるわけじゃないぞ。 男友達だって……一成だろ、慎二だろ……………………いや、友達っていうのは数で計るようなもんじゃないだろ、うん」 「……説得力が無いわよぉ、士郎」 うるさいな。 一瞬英霊の男性陣が脳裡をよぎったけど、流石にあの赤いのとか金ぴかとかをカウントするのは俺の沽券に関わりそうなので自粛したんだよ。 「あの、士郎くん?」 「え?」 いかん。水銀燈と話し込んでいたら、いつの間にかバゼットがすぐそこに。 「あ、バゼット、久しぶり。こんなところで会うなんて奇遇だな」 「いえ、奇遇というわけでもないですよ。 これから、士郎くんの家にお邪魔するつもりでしたから」 「俺の家にって……また泊まりに来るのか?」 新しい住居が決まった後も、バゼットはちょくちょくウチにやってきている。 それは、遠坂への報告義務を果たすためだったり、セイバーとの手合わせするためだったり、単なる茶飲み話するためだったりと様々だ。 その都度、一緒に飯を食べたり、時には泊まっていったりするのだが。 だが、バゼットの告げた言葉は、そのいずれでもなかった。 「いえ。就職先が決まったことを、ご報告しに行こうかと」 「え」 バゼットの、就職先だって? 言っちゃ悪いが、バゼットの労働は長続きした試しが無い。 なにしろ、喫茶店で働けば、水道管を破壊してクビになるような人なのだ。 だから、魔術協会を辞めてからというもの、バゼットはずっとフリーランス……悪く言えば無職、という状況に甘んじてきたわけだけど。 ……そう考えると、俄然と不安になってきた。 バゼット、今度は一体どんなところに就職したっていうんだ? だが、俺がそれを尋ねる前に、バゼットが機先を制してきた。 「ところで、士郎くんは……なにやら急いでいるように見受けましたが、どこかへお出かけですか?」 「あ、ああ……ちょっとひとっ走り、遠坂の家までな」 「ほう、冬木のセカンドオーナーの家に? それはひょっとして……」 バゼットが先ほどからずっと、不審そうな目でじっくりと見つめている、その先には……当然と言うか何と言うか、水銀燈の姿があるわけで。 ……やっぱりそこは突っ込まれるよなぁ。うう、封印指定執行者に睨まれるのって、こういう気分になるんだなぁ。 「そちらにいる人形と、何か関係が?」 「ええっとだな……」 さて、どうしたものか。 俺は、バゼットに―― 決して話をはぐらかそうとしたわけじゃない、のだが。 俺はどうしても尋ねてみたくて仕方なかった。 そう、バゼットの就職先というものを!! 「確かに、今日の用事は水銀燈に関係あるんだけどさ。 そんなことより、俺はバゼットの仕事のほうが気になるぞ」 「え? 私の仕事場、ですか?」 バゼットがきょとん、としている。 こういう切り返しは想定していなかったのか、虚を突かれたらしい。 「ああ。何しろ今までが今までだからな。 今度こそ真っ当に働いてくれよ? いつぞやみたいに半日持たないなんて事はないようにな」 「なっ、士郎くんまでそんなことを言うのですか!? 確かに今までは、私の過失があったことは認めますが、私だって好きこのんで長続きしなかったわけじゃありません!」 猛然と反論してくるバゼット。 そりゃそうだ、好きこのんで職場荒らしをしていたらそれは立派な営業妨害だ。 と、今まで会話に入ってこられなかった水銀燈が、俺に耳打ちしてきた。 「士郎。いつまでこの女の相手をしているつもりぃ?」 「ああ、悪い。 もうちょっと、もうちょっとだけ待っててくれ……痛っ!?」 ぎゅむ。 こっ、こめかみ付近の髪の毛を思いっきり引っ張られた! 「今は真紅のところに行かなきゃならないのよ? こんなところで遊んでいる暇は、な・い・の。 本当にわかってるのぉ?」 ぎりぎりと俺の髪を引き絞りながら、恫喝するように囁いてくる。 そ、そういや忘れてたけど、今の水銀燈は実はかなり不機嫌なんだった! 「わ、わかってる、わかってます! だからあとちょっとだけ、もうすぐに話も終わるから……っ!」 「ふん……あと2分だけ待ってあげるわ。それ以上もたもたしているようなら……」 それ以上のことは言わずに、じっと俺を見つめて確認する水銀燈。 もちろん俺は首を縦に振って了解の意思を示すしかない。 それでようやく満足したのか、水銀燈は近くに立っていたカーブミラーの上に飛んでいった。やれやれ……。 そんな俺たちのやり取りを、バゼットは興味深そうに……そして若干、疑わしそうに見ていた。 カーブミラーに片手を添えて、もう片方を口元に当てて何かを考えるポーズを取る。 「……やはり、士郎くんはアイツとどこか似ている。 言動だけではなく、そんなおかしな共通点まで……」 「ん? なんか言ったか、バゼット」 「あ、いえ……士郎くんに言われたようなことを、別の人物からも言われていまして」 「なんだ、他の奴にもなんか言われてたのか?」 俺以外にもバゼットにそんなことを言う人間がいたとは。 ひょっとしてあの毒シスターだろうか、あいつなら確かに言いそうだけど。 「ええ、人が失業するたびに、やれ求職テロリストだの、フロアクラッシャーだの……。 今回も『せいぜい頑張れよバゼット、俺も頑張って人間凶器より上の称号を考えておくからさ、ヒヒヒヒ』などと……!!」 あれ? バゼットの話を聞く限り、相手はどうやら毒シスターじゃないらしい。 あいつならもっと懇切丁寧な言い回しで人を逆撫でするし。 じゃあ一体誰だろう……って、おい。 「ちょ、バゼットストップ! 手、手に力込めすぎ!!」 「きゃああっ!?」 ミチミチミチ、という音を立てて曲がっていくカーブミラー。その上にいた水銀燈ごと、角度を水平に近づけていく。 ヤバイ。 何がヤバイって、バゼットをからかった奴がそのカーブミラーと同じ末路を辿ったかもしれないという事実が。 「あ、す、すみません」 慌ててカーブミラーを立て直す。 が、一度曲がった鉄の棒は曲げなおしたところで元に戻るはずもない。 「あ……また、やってしまいました」 「また、って……日常的にやってるわけぇ? とんでもない女ねぇ」 俺の肩にとまった水銀燈の呆れ声も、今回は確かに的を得ていた。 「そうだな……新しい職場で生かせればいいんだけどな、その力」 「そ、それならば大丈夫ですっ。 意外と腕力の要る仕事のようですし、私にぴったりだと、先方も言っていましたから」 勇気あるなぁ採用担当者。 この腕力をどうやって利用する気なのか。 「……で、結局なんなのさ、バゼットの新しい仕事って」 「はい、アルコール販売業です。時間帯によってはバーも開いているらしいですが」 ほうほう、酒屋さん兼居酒屋さんということか……いやちょっと待て。 なんだかひどくどこかで聞いたような業種じゃないか? 「あのさ。そのお店の名前って……」 恐る恐る聞いてみると、バゼットはあっさりと口を割った。 「ええ、コペンハーゲン、と」 「あ、やっぱり」 なんだかもはや驚きもしねえよ、もう。 てことは、勇気ある採用担当者は間違いなく親父さんなんだろうな。 「あれ、士郎くん知ってるんですか?」 「知ってるも何も、俺のバイト先だよ、そこ」 「なんと。凄い偶然ですね」 どうだろ、凄い偶然で片付けちゃっていいのかな、それ。 「しかし、急な話だな。 新しい店員を雇うなんて、初めて聞いたぞ、俺」 「今回も、新規採用者を私を含めて二人も雇い入れたわけですし」 「え、まだ他にもいるの、新しい店員さん……?」 なんか、色々新しい情報が入ってきて混乱してきたなぁ……。 とりあえず、コペンハーゲンの新しい店員というのが気になった。 何しろ自分のバイト先だ、これから関わることも多いだろう。 「バゼット、新しい店員って、知り合いか?」 知り合いと書いて危険牌と読む。 バゼットが店員になっただけでもメンタンピンドラドラの満貫状態なのだ。 コレに更に知り合いが加わったりしたら、裏ドラが乗って跳満になりかねない。 「いえ、初めて見る方でしたが」 だが、意外にもその危険牌はあっさり通った。 「え、違うのか? じゃあ、普通の人?」 「そうですね……私も挨拶程度しかしていませんから、よくわかりませんが」 そう前置きしてから、バゼットは自分の所感を述べた。 「眼鏡をかけた、線の細い若い男性でした。 性格的には、割と軽い方で、オーナーたちともすぐに打ち解けていました。 あまり力仕事に向いているようには見えませんでしたね。 むしろ、バーのカウンターで接客をしているほうが似合いそうな雰囲気でした」 つまり……少し悪い言い方をすれば、優男、ということか。 女なのに力仕事が得意なバゼットとは正反対だ……げふんげふん。 「ふうん。普通の人みたいだな。 大丈夫なのかバゼット? 一般人の前でカウンターとか破壊しちゃったら絶対引かれるぞ?」 主に給料とかな。 「だっ、だから隙でしているわけではないと言ったじゃないですか! ……本当に、こういうところだけ似ているんですから……」 ああ、そうだそうだ、そっちの人のことも聞こうと思ってたんだ。 続けてバゼットをからかった人について尋ねようとした、が……。 「……士郎、そろそろいい加減に……」 ふと隣を見れば、腕組みしている水銀燈のジト目が。 マズイ、もう時間切れか。 「わかった、悪い、水銀燈。 ……バゼット。俺はもう行かなきゃならないから。 バゼットは……これから俺の家に?」 「あ、はい。そのつもりでしたが」 「じゃあ、悪いけど、家で待っててくれ。 用事が済み次第、俺もすぐに戻るから」 「わかりました。では、お邪魔させていただきます」 頷くバゼット。 それに軽く手を振って、背を向けて走り出……そうとして、いきなり踏み止まった。 「っと、そうだ、肝心なことを聞き忘れてた。 そのコペンハーゲンの新しい店員さん、名前はなんていうんだ?」 いかんいかん。 よりによって一番大切なところを忘れるところだった。 振り返った俺に、バゼットは相手の名前を告げた。 「白崎、と名乗っていましたが」 「白崎か……わかった、ありがとう」 白崎。 次にバイトに行く時は、その名前を覚えておこう。 そう心に決めてから、俺は再度、水銀燈を伴って走り出した。 ********** 走ることしばし。 俺と水銀燈は、眼前に遠坂邸を仰ぐ場所に立っていた。 「……ふう。着いたか」 「ここが真紅のハウスね……」 走り詰めで少し息を切らせる俺と、どこかで聞いたようなフレーズを呟く水銀燈。 そんな俺たちに――。 遠坂邸の門の前に立つ。 ここから一歩踏み込めば、遠坂の敷地……魔術師のテリトリーだ。 とは言っても、今回は遠坂と喧嘩をするためにやってきたわけではないので、そんなにピリピリする必要はないのだが。 「ふ、ふふふふふふ……」 隣で必要以上にピリピリしている水銀燈さんには言っても聞かないんだろうなぁ。 「あのさ水銀燈、最初っから喧嘩腰じゃあ、まとまる話もまとまらなくなるぞ?」 「あらぁ、私はただ、真紅をからかいに来ただけよぉ? 仲良くするなんて真っ平だし、あの子の話なんか知ったことじゃないわ。 そんなことより、早く呼び出しなさいよぉ」 「……わかったよ」 本当に、それでいいのか、水銀燈? そう心の中で呟きながら、俺は門の脇に備え付けられた呼び鈴を指で押した。 リーン、という音が館に響く。 ……ここで安っぽい電子音じゃなくて、本物の鈴っぽい音が鳴るあたり、流石魔術師と言うべきか、流石金持ちと言うべきか。 「とうとう会えるのね……真紅ぅ」 「……結局、今まで聞きそびれてたんだけどさ。 その真紅ってドールは、一体どんな奴なんだ?」 かなり今更な気がするが、気になっていたことを尋ねてみる。 水銀燈は不愉快そうに、ふん、と鼻を鳴らした。 「……えらそうな態度の、生意気で不細工な人形よ。 他人を見下して、自分だけは特別だと思ってるお馬鹿さん。 レディを装ってるけど、所詮見せかけだけ。虫唾が走るわぁ」 なんとも酷い言いようだな。 どうも水銀燈の人物評を聞いていると、会ってもいない相手のイメージがどんどん悪くなっていく。 「……聞いた限りだと、随分仲が悪そうだけど。 なにかあったのか?」 再び疑問を投げかけると、水銀燈はふと、俯いて。 「………………貴方には、関係ないわぁ」 そう言い捨てるまで、随分と間が合ったのが気になった。 「一つだけ言える事があるわ。 真紅を壊すのはこの私。 今まで、幾つもの時間で戦って、いずれも決着は付かなかったけど。 今度こそ、この水銀燈の手で……。だから、士郎」 俯いていた顔を、ゆっくりと持ち上げる。 「今回はからかいに来ただけだけど……雛苺のときみたいな『気まぐれ』は無いわぁ。 また『正義の味方』とか言って、真紅に肩入れなんてしたら……赦さないんだから」 相変わらず、真紅って奴に関しては水銀燈は本気だ。 口ではなく、冷たい瞳がそう語っていた。 なので、俺は小さく頷いて見せる。 「わかってる。 もしその真紅って奴が、お前の言うような奴なら、俺も倒すことに反対しない。 それに、俺のほうも、ちょっと馴れ合いたくない事情がある」 なんせ、ミーディアムがアイツだしな。 「それにしても……」 呼び鈴を鳴らしてから数十秒経ったが、いまだに沈黙したままの館を見上げた。 「おかしいな? 誰も出てくる様子が無いぞ?」 念のため、もう一度呼び鈴を鳴らしてみるが、反応は無い。 誰も居ないのか? でも、まだ午前中なのに……。 「鍵は……あれ、開いてるのか」 門を押してみたところ、あっさりとそれは開いた。 少なくとも、だれも居ない、というわけでは無さそうだが。 「……よし、遠坂には悪いけど、中に入らせてもらおう。 いいか、水銀燈?」 「ええ、もちろんよ」 門をくぐり、敷地に入る。 一瞬、来た道を引き返すということも考えたのだが、鍵が開いているのに誰も出ないという状況はちょっと不審だし、なにより水銀燈が納得しないだろう。 「……なんだか、へんな感じぃ。 入った途端に、空気が濃くなったみたい」 遠坂邸の空気を敏感に感じ取ったのか、水銀燈が訝しげに眉をひそめている。 「まあ、一流の魔術師の陣地だからな。 俺の家なんかとは違って、土地の魔力も強いみたいだし」 遠坂なんかは、この敷地の土で傷を癒すこともあるらしいしな。 「ふぅん……でも、それだけじゃないような気がするけど……。 まぁいいわ。早く行きましょう」 「……? ああ」 門から玄関までは、さほど距離は遠くない。 玄関の扉のノブをひねると、やはり鍵がかかっていなかった。 「行くぞ……」 扉を開けて、中の様子を窺う。 外観と同じく、洋風な造りの廊下はしん、と静まっている。 ここには何度も来た事があるが、こんなに静かなのは一人で掃除しに来たとき以来だ。 「おーい、誰も居ないのかー?」 呼びかけてみても、やっぱり反応無し。 やはり誰も居ないのか? でも、だとしたらなんで鍵がかかってなかったんだ? 不信感を募らせながら、さらに奥へ。 この先には、居間と台所がある。 誰かがいるなら、一目でわかるはずだけど……。 「あ……」 居間に足を踏み入れたとき、そこで俺が目にしたものは――。 それは、目を疑うような、美しい惨状だった。 絨毯は輝きに引き裂かれて。 長机は煌きに砕かれて。 椅子は照り返しを受けて見るも無残。 床から、壁から、天井から……屹立した紫の水晶が、居間を蹂躙していた。 「あ、え……? なんだ、これ……」 あまりの光景に、頭が上手く回転しない。 当たり前だ、だれがこんな光景を想像できるって言うんだ。 ……いや。 「ふぅん……やっぱりそうだったのねぇ」 水銀燈は特に驚くこともなく、散々な有様の居間を見回している。 もしかして、この状況を予測していたのか……? 「水銀燈、これは一体……?」 「士郎、気をつけなさい。 ……ここは、既にnのフィールドの中よ」 「な――――」 驚く暇もあればこそ。 足元から伝わってくる微細な振動、そして異音。 ――嫌な予感が背筋を走る。 「――に、ぃ!?」 床が抜けた。 いや、床どころじゃない、根本的な異常事態。 まるで今の今まで俺が見ていた空間が、ガラス細工だったかのように、壁が、床が微細な欠片に砕け散っていく。 これは……お、落ちる!? 咄嗟に目を瞑り、歯を食いしばる。 「く、うぅ……って、あれ?」 てっきり落ちるだろうと覚悟してたのだが、その予想は外れた。 どういうことか、床が砕け散った後の空間に、そのまま身体が浮いていたのだ。 「……そう、そういうこと。 この館の領地に入った時点で、既にnのフィールドに入ってたってわけねぇ」 「……なんてこった……」 nのフィールド。 以前入った時は、雛苺に無理矢理付いていった結果だったけど。 今回は、その逆。 知らないうちに、無理矢理連れ込まれていたってことか。 「それにしても、これは真紅の力ではないわねぇ。 だとすると、誰か他のドールが……」 「そ、それより水銀燈。 ここは、前に来たところと随分雰囲気が違うぞ?」 ぬいぐるみの山だった前回の場所とは違って、ここには何も存在しない。 落ちる事は無いみたいだが、足場が無いという状況は、なんだかとても落ち着かない。 だが、水銀燈から帰ってきたのは、呆れを主成分とした視線だった。 「……はぁ、お馬鹿さぁん。 nのフィールドはどこでも在るしどこでも無いのよぉ。 全てと繋がって、全てと断絶した狭間なの。 繋げる鍵は、渡り手の無意識。 貴方が行きたい場所への扉を見つけない限り、どこにも辿り着くことはできないわぁ」 「え? えっと……」 いきなり真面目で難しい話をされて戸惑ったが、なんとか仕組みは理解した。 「つまり、ここから行きたい場所を探し出せ、ってことか?」 「そうよ。 ここには他人の無意識も流れ込んでくるの。 それを捕まえて、手繰り寄せる事が出来れば、扉に辿り着けるのよぉ。 わかったらそんな無様をしてないで、さっさと見つけなさぁい」 「……わかった。けど、いきなりなんだから、上手くいかなくても恨むなよ」 他人の意識、か……ええい、習うより慣れろだ。 目を軽く閉じて、意識を集中させてみる。 魔術回路を起動させるような感覚。 撃鉄をなぞるように、何も無い空間に意識を這わせていく。 すると……。 「…………あ。これ、かな?」 ここから近いところから、ナニカ映像のようなものが流れ込んできている。 それをゆっくりと、手繰り寄せていく。 俺が掴んだ映像、それは――。 赤い薔薇と、紫の水晶。 吹き荒れ、ぶつかり、砕け散る二つの意思は、それ自体が映像であるかのように、強烈に流れてくる。 故に、その出所を探るのは、俺ごときにでも出来ることで……。 「――あそこだ! 水銀燈、あそこに扉が!」 その場所――と言っても何もない虚空なのだが――を指すと、水銀燈がその方向へ手を翳した。 何かをなぞるように指を滑らせると、なるほど、とでも言うように頷いた。 「確かに……アソコね」 そう言って、翳していた手をさっと翻す。 すると、何もなかった空間から、まるでガラスにヒビが入るかのように、ギシィッ、と裂け目が現れた。 「あれが扉なのか……?」 「ええ。さあ、行くわよ」 先行して扉へと降りていく水銀燈。 その動作が余りに自然だったから……ここが虚空の中だということに気がついたのは、水銀燈の後を追いかけて扉まで降下した後だった。 どうやら、この空間では、本人の進みたいという意思に従って身体を移動させられるらしい。 ……なるほど、これが『渡り手の無意識』、ってことか。 「……居たわ」 と、早くも扉に到着していた水銀燈は、その中を覗きこんで呟いていた。 遅れて俺も、扉の中を覗き見る。 「あれは……」 ガラスの裂け目の向こう側は、薔薇の花が咲く庭園だった。 一面に咲く赤い薔薇の花たち。 その上で舞い踊る、ひときわ赤い大輪の薔薇。 いや、薔薇のように鮮やかな、赤色のドール。 「……全く。 いきなり押しかけてきて、無礼なお客ね。 あまつさえ、居間をめちゃくちゃにするだなんて。 せっかくのお茶の時間が台無しだわ」 赤いドレスに、赤い帽子。 その長髪は金細工、瞳は空の色だろうか。 真剣に前方を見据えるその表情は、凛々しさと上品さを兼ね備えた、貴人と呼ぶに相応しい風格を持っていた。 「一体何の用事なのかしら。 私は、あなたのようなお客を招待した覚えはないのだけれど?」 その言葉は、水銀燈に向けられたものではない。 おそらく、相手はまだ水銀燈に気付いてすらいないだろう。 だが、それでも。 「……真紅……」 応じるように囁いたその声は、憎悪か歓喜か。 水銀燈のその呼びかけに、あのドールこそが真紅……薔薇乙女《ローゼンメイデン》第五ドールなのだと、確信した。 「あれが真紅か……想像してたよりも、なんか……」 薔薇乙女、第五ドール……真紅。 彼女に対して、俺の抱いた初印象は……。 いやまて、アーチャーはどこ行った? あいつも真紅のミーディアムなら、近くにいるんじゃないのか? そう思って見回してみたが、薔薇の庭のどこにもアーチャーの姿は無かった。 「居ない……?」 アーチャーが居ない……ということの意味は、実際のところかなり大きい。 水銀燈が、あの真紅というドールと戦うつもりでいる以上、そのミーディアムであるアーチャーとも戦わなくてはならない。 だが、はっきり言って、まともにやりあったらアーチャーに勝てるわけが無い。 認めたくはないが、なにしろ相手は英霊、世界に認められた超人だ。 俺とアーチャーがやりあえば、アーチャーが勝つ。 そして、ミーディアムを失ったドールは力を使う事が出来ないのだ。 「ふぅん……真紅ったら、なんだかとぉっても隙だらけ。 こっちに背中を見せてるし、今なら呆気なく壊せちゃいそう」 水銀燈の言葉は、ある意味正しい。 アーチャーが傍に居たならば、ここから奇襲を仕掛けたとしても確実に阻止されてしまうだろう。 それほど、人間と英霊の能力差は圧倒的なのだ。 だが、そのアーチャーが、今は居ない。 そう、つまり今のような状況は、まさに千載一遇の機会。 奇襲を仕掛けるのなら、今しかない、と言ってもいい。 強いて不安要素を挙げるとするならば……。 「あのドール、か……」 俺の目は、真紅と同時に、もう一人の姿も捉えていた。 紫のドレスを纏った、未だに一言も発しない謎のドール。 なによりも特徴的なのが、その左目を覆う眼帯。 薔薇をあしらったそれは、謎のドールの持つ異様な雰囲気を、より一層際立たせていた。 この場にアーチャーがいない、ということは、真紅だけがあの眼帯のドールに誘き出されたのか? とすると、今、アーチャーは……? 「さて、それじゃあ……」 ゆらり、と身体を浮かび上がらせる水銀燈。 二人のドールは、恐らく俺と水銀燈には気付いていない。 奇襲するには絶好の機会、そして水銀燈は……。 「……まぁ、しばらくはお手並み拝見ね」 そう呟くと、裂け目を越えて庭園の中へ。 意外なことに、水銀燈は二人に介入しようとはしなかった。 すい、と高い柵の上に停まると、そのまま、ゆったりと脚を組んで腰掛ける。 眼下の二人の対峙を、まるで面白い見世物であるかのようだ。 続いて俺も、柵の影に隠れるように身を寄せる。 「……いいのか? 真紅ってのは、お前の敵なんだろ?」 てっきり、攻撃を仕掛けるだろうと思っていたのだが。 しかし、水銀燈は二人から目を逸らさないまま、俺の言葉を鼻で笑った。 「お馬鹿さぁん。バカ正直に真紅の相手をしてたら、こっちが疲れちゃうじゃない。 せっかく勝手に潰しあってくれてるんだしぃ、水銀燈はここで高みの見物よぉ」 「漁夫の利を待つ、ってことか。 ……なんか、意外だな」 「なにが意外なのよぉ?」 「いや、まさかそういうしっかりした作戦を考えてるとは思わなかっt「死にたいの?」俺、水銀燈の聡明さって好きだよ」 言い終わる前に前言撤回。 なぁんだ意外とよく切れるんですねその不思議羽根ったら。 薄皮一枚切られた首筋を押さえながら、水銀燈と共に二人のドールを見守る。 まあ、冷静に考えれば、水銀燈の言葉は戦略的には正しいと思う。 わざわざ割り込まなくとも、二人が戦い合って消耗したところを見計らって仕掛ければ、こちらの勝率はぐっと増える。 なにより俺にしてみれば、あの二人の力は全くの未知数だ。 最初は見ることに徹したほうが賢いだろう。 「でも、あの相手のドールが真紅を倒したときは?」 因縁の相手を、別のドールに倒されてしまってもいいのか? そう尋ねると、水銀燈は一瞬、眉を動かしたが、すぐになんでもないように表情を戻した。 「……ふん。 そうなったら水銀燈があのドールを倒しておしまいよ。 所詮、真紅なんか私が相手をするまでもなかった……それだけの話よ」 そっけなく言い切るが、果たしてその言葉は額面どおりに受け取っていいものなのだろうか。 少なくとも、謎のドールのほうを倒すことに関しては、躊躇いがなさそうだけど。 「ふうん……って、そういえば、真紅のほうはともかく、相手のドールは一体何者なんだ?」 どうも昨日から、真紅のほうばかり気にしていて、もう片方のドールのことは眼中になかったみたいだけど、水銀燈なら謎のドールのことも知っているはず……と、思ったのだが。 「……さぁ?」 「へ?」 予想外の答えが返ってきたので、思わず間の抜けた声を上げてしまった。 それを気にした様子もなく、水銀燈は小首をかしげて言葉を続ける。 「知らないわ。あんなドール、今まで見たこともないもの」 「な……」 なんでさ、と俺が尋ねようとした瞬間。 「アリスゲームに参加している薔薇乙女《ローゼンメイデン》は7体。 その内、今までの時間の中で見たのは6体まで。 最後のドールは、目覚めたという話すら聞いたことがなかったわ」 下から聞こえてきた真紅の声に、思わずぎくりとしてしまう。 まるで水銀燈の言葉を継いだようなタイミングだ。 「そ、そうなのか?」 「……ええ」 つまらなそうに頷く水銀燈。 どうも、真紅の言葉を肯定するのは癪であるらしい。 「じゃあ、あのドールが……最後の薔薇乙女《ローゼンメイデン》なのか?」 謎のドールを注視する。 紫のドレスを身に纏ったそのドールは、真紅の言葉が聞こえていないかのように、微動だにしない。 「もう一度聞くわ。 貴女は、誰?」 「……あなたは、だれ?」 真紅の誰何の言葉に、ようやく、謎のドールは口を開いた。 オウム返しに呟いたその声は、ひどく平坦で、抑揚がない。 言葉を返された真紅は、すぐに自分から名乗りをあげた。 「私は――薔薇乙女《ローゼンメイデン》第5ドール、真紅」 「真紅……」 平坦で、しかし含みを持った声が、真紅の名前を確認するように繰り返す。 そして、その名乗りを真似るように、自らもまた名乗り返した。 「私は、薔薇乙女《ローゼンメイデン》の第7ドール……薔薇水晶」 「薔薇水晶……」 それが、あのドールの名前か。 薔薇水晶、と名乗ったドールは、そのまま片手を――。 「あなたの望みを叶えましょう、真紅」 手は、掌を上にして、真紅へ向けて差し出された。 なんだ? あの薔薇水晶っていうドール、真紅と戦いに来たんじゃないのか? 「……私の、望み?」 当の真紅も薔薇水晶の言葉は予想外だったのか、眉をひそめて差し出された手を見つめる。 当然、安易にその手をとるような真似はしない。 「おかしなことを言うのだわ。 私たちの望むことなど、あるとしたらそれは――」 「アリスに、なること」 薔薇水晶が真紅の言葉にかぶせるように、後を継ぐ。 真紅も、さしたる驚きも見せずにその言葉を肯定してみせる。 「そうよ。 それが薔薇乙女《ローゼンメイデン》の宿命。 あなたも薔薇乙女《ローゼンメイデン》ならば、この意味がわかるでしょう?」 アリスになれるのは、一人だけ。 全てのローザミスティカを集めた薔薇乙女《ローゼンメイデン》だけが、アリスを待っているローゼンに会う事が出来る……か。 だが、薔薇水晶は、真紅の言葉を理解しているのかいないのか、それでもなお差し伸べた手を下げようとはしなかった。 「かわいそう……真紅、貴女はかわいそう。 貴女の望みは目的じゃなくて、その方法……アリスゲームを変えることでしょう?」 「!?」 初めて。 初めて真紅が驚きに目を見開いた。 俺がこの場からやりとりを見始めてから、一度も崩れることのなかった表情が、薔薇水晶の一言で大きく揺らいだ。 「な、なにを、一体……」 「貴女はアリスゲームに疑いを抱いている」 「っ!」 持ち直そうとしらを切る真紅に、追い討ちをかけるように言葉を放つ薔薇水晶。 アリスゲームに疑いを、だと……どういうことだ? 「戦うのは構わない。 けれど、果たしてそれは命を奪うことと同義なの? 命を奪うことが、優れた薔薇乙女《ローゼンメイデン》の証になり得るの? ナゼ、お父様はこのような宿命を私たちに?」 次々と薔薇水晶が投げかける疑問。 それらは皆、おそらくは真紅が抱いていた疑問なのだろう。 その証拠に、真紅は顔を俯かせ、かすかに拳を震わせている。 「かわいそうな真紅。 殺さずに済むなら、その方がいいと思っているのね。 ……それが叶わぬ望みだと、本当は諦めているのに」 「……っ! 貴女に、そんなことを言われるような……!!」 「でも、私は貴女の望みを叶えましょう」 ついに真紅の感情の糸が切れた……が、それすらも予測していたかのように、薔薇水晶が言葉を遮る。 相変わらず抑揚のない声だったが、今の真紅には大声よりもよく響いたに違いない。 「……なんですって?」 「もう誰も、貴女が究極の少女に至る過程で、傷つかない為に。 真紅……私が、貴女を導いていく」 そう言うと、今までずっと差し出していた手を、改めて前へ出す。 「さあ、この手を……」 真紅は、薔薇水晶に向けていた視線を、次第に下に落としていく。 その心中は、俺には察することは出来ない。 そして、次の瞬間、俺の耳に聞こえてきたのは――。 「耳を貸す必要はあるまい、真紅」 聞こえてきたのは、俺にとって非常に聞き覚えのある――が、決して聞きたかったわけじゃない声。 なんだよアイツ居たのかよ。 「――――!?」 突如響いたその声に、薔薇水晶が弾かれたように視線を空へ向ける。 同時に聞こえてくる空を裂く風切り音。 左右から交差する軌道で、二本の剣が薔薇水晶に迫る! 「くっ!!」 慌てて地面を蹴る薔薇水晶。 一瞬前まで立っていた場所を黒い刃が、続いて白い刃が薙ぎ払う。 ……夫婦剣・干将莫耶。 俺も良く知っている、二本一対のその剣は、そのまま交差すると大きく旋回し、再び吸い寄せられるように一箇所に帰っていく。 そして、その帰っていく先に立っているのは……。 「ほう、避けたか……まあ、声をかけてから投げたのだから、当然か」 二本の剣をなんなく受け止めながら、アーチャーは何の気負いもなく庭園に現れた。 ……そこら一面薔薇の花だというのに、場違いにならないってのは、男として、そして俺の将来としてどうなんだそこんとこ。 「あなた……」 「アーチャー!」 同時に声を上げる薔薇水晶と真紅。 アーチャーはチラリと薔薇水晶に視線を向けるも、すぐに興味を失くしたかのように、真紅のほうに向き直る。 そして、いかにもやれやれ、という仕草で頭を振って見せる。 「真紅。 あんな言葉の誘惑に動揺するなんて君らしくないな。 『人間などよりずっと高貴な存在』の自称が泣くぞ? まあ、君のすまし顔以外の表情が見られたのは僥倖だったが」 「あ、貴方、見ていたの?」 真紅の顔が驚きと羞恥に染まる。 対してアーチャーは涼しい顔で、そうそうその顔だ、と満足そうに頷いた。 「なに、姉妹水入らずの語り合いに水を差すのも悪いと思ったのだがな。 マスターがあんな甘言に容易く心動かされそうになっていたので、思わず身体が動いてしまった。 いや、我ながら行き過ぎた忠義心だ」 「む……」 白々しいことこの上ないが、真紅は睨みつけるだけで、何も言い返せない。 「士郎……あれが真紅のミーディアムね?」 その光景を見て、今まで静観していた水銀燈が、チラリと俺に視線を向ける。 「ああ。疑ってたわけじゃないが、あいつの話は本当だったってことだ」 「ふぅん」 水銀燈は、初めて目にしたアーチャーに対して―― 「……なんかあの男、士郎に似てなぁい?」 「は?」 水銀燈の言葉は、俺にとっては意外で、予想外で、そして心外だった。 「……なんでさ。 俺はあんなにキザじゃないし、捻くれてもいない。 高いところが好きでもないし釣りで大人気なくなったりもしないぞ。 一体どこが似ているって言うんだ?」 まったくもって不本意だ。 アイツはあくまで俺が将来的になりえる可能性の一つであって、確定した俺の未来予想図2ではない。 しかし、水銀燈は俺の抗議を受け入れてはくれなかった。 「だって、士郎もあの男も、同じ武器を使ってるじゃない」 「ぐっ……」 分かりやすい類似点を挙げられて、思わず言葉に詰まる俺。 そ、そりゃまあ、アーチャーの使う干将莫耶は俺にとっても使いやすいのは道理なわけで、俺が愛用するようになるのも必然なんだけど。 「ぶ、武器ぐらいは似ていてもだっ。 それ以外のところじゃ、俺とあいつとは絶対に相容れないぞ!」 「なに、ムキになっちゃって……逆に怪しいわぁ」 「怪しくなんかないっ! そんなこと言ったら、水銀燈だってあの真紅って奴にそっくりじゃ……」 「ふざけたことを言うのはこのお口かしらぁ?」 「ほ、ほほをふえうはっ!!(頬をつねるなっ!!) りふいんらぞ!?(理不尽だぞ!?)」 速攻で水銀燈に顔面引っ張られる俺。 ……あれ、でも、このリアクションから察するに、似ているってところは案外図星だったのか? って、今はそれどころじゃなかった! 「ほ、ほんなころおり、いははあっちおようふを……!(そ、そんなことより、今はあっちの様子を……!)」 「む……そうだったわね」 なんとか俺の頬がオープンゲットする前に、引き伸ばす手を離してもらえた。 そして再びいそいそとアーチャーたちの観察に戻る。 でも水銀燈、よく俺の言いたい事がわかったなぁ……以心伝心って奴か? 「それで、真紅。 まさか、まだ心が揺らいでいるなどというのではあるまいな?」 向こうの三人の立ち位置は、先ほどと変わらず。 しかしアーチャーに尋ねられた真紅の表情は、最初と同じ平然としたものに戻っていた。 「アーチャー、貴方に言われるまでもないのだわ。 私が進む道ならば、私の手で拓かなければ意味がない。 ましてや薔薇水晶の手によって、進む道になどは……」 「叶う望みなどあるはずがない、か。 私のマスターはやはり賢明だな。 出来れば私が手を出す前に、その結論を出して欲しかったが」 いちいち茶々を入れるアーチャーに、わずかにムッとする真紅。 「……そういう訳だから、薔薇水晶。 私は自分の意思と力に拠って、壊し合う以外の方法でアリスゲームを制してみせる。 貴女が何を考えていようと、それは変わらないのだわ」 毅然とした拒絶。 それに対して、薔薇水晶は……。 「無駄なこと……貴女はいつか必ず、私の手を取ることになる」 そう、予言めいた言葉を言い放つと、薔薇水晶は大きく飛び退り、庭園の入り口……大きな石造りのアーチをくぐった。 すると、唐突にアーチは鏡のように輝きだし、薔薇水晶の身体を光の中へと飲み込んでしまった。 アーチの輝きが完全に消えるのを見届けてから、アーチャーは軽く息を吐いた。 「……逃げたか。 あの様子では、今回もあちらのミーディアムの顔は拝めそうにないな」 追っても無駄だ、と悟っているのだろう、アーチャーが一瞬で干将莫耶を消滅させる。 その隣では、薔薇水晶が去ったことで、若干肩の力が抜けた真紅がアーチャーを見上げている。 「朝のお茶の時間が、とんだ騒ぎになってしまったのだわ。 ……それにしても、アーチャー。 一体いつから見ていたの? 私がnのフィールドに入ったとき、貴方は確かに居なかったわよね?」 「ん? なに、実世界とは異なる世界へ埋没する手段があったのでね。 館の異変を察知してからすぐにそれを行い、そこから君とのパスラインを頼りにこちらへ侵入してきただけのことだ」 こともなげに、あっさりと言ってのけるアーチャー。 だが、その言葉を聞いた真紅は引っ掛かりを覚えたらしく、怪訝そうに眉をひそめた。 「世界に埋没する手段……? アーチャー、それは一体……」 「ふむ、話すのは別に構わんが。 だが、その話はまた別の機会にしたらどうだ?」 言いながら、アーチャーは首を巡らせてこちらを――俺たちのほうへ視線を寄越した。 「一人目の客は帰ったが……次の来客の応対をしなければならんからな」 げ……。 アーチャーめ、俺たちがここで見ていることにとっくに気がついて居やがったのか。 まあ、アーチャーの鷹の目を持ってすれば、誰かが隠れていることなんてお見通しなんだろうが。 そのアーチャーの視線に導かれるようにして、真紅もこちらを振り向き……俺と水銀燈の姿を認めて、目を大きく見開かせた。 「……貴女は!」 ついに見つかってしまった。 どうするんだ、水銀燈……と尋ねるよりも早く、水銀燈は愉しげに笑いながら、柵の上からふわりと飛び降りた。 一体なにを? まさか、いきなり戦うつもりか? 「……うふふ。 見つかっちゃった、見つかっちゃったぁ」 音もなく、土の上に降り立つ。 そして、何一つ悪びれることもなく、まっすぐに真紅を見据えた。 「お久しぶりね、真紅。 こうして会うのは、何万時間ぶりかしら」 「水銀燈っ!? 貴女、いつから其処に!?」 「ずぅっと見てたわよぉ? 貴女があのドール……薔薇水晶だっけ? あの子と話してる間、ずぅっと。 ……なのに全然気がつかないなんて、ホントに真紅ったらお馬鹿さぁん」 くすくすと、心から相手を侮蔑するための笑い声。 「遠くからでも、貴女の不細工な顔はよぉく見えたわ。 本当は、いつでもその顔を吹き飛ばしてあげられたんだけど……面白そうだったから、見物させてもらったわぁ」 ……口ではああいっているが、水銀燈からは本気の殺意は感じられなかった。 おそらく、アレは本当に真紅をからかっているだけなのだろう。 ……そう、この時までは。 「でも、てっきり二人で戦い合うんだと思って見てたのに、なぁにアレ? アリスゲームを変える? 殺さないならその方がいい? くだらないわぁ、とうとう頭の中身まで錆付いちゃったのかしら、真紅ぅ?」 そのとき、じっと水銀燈の言葉を聞いていた真紅が、ようやく口を開いた。 「……私はいたって正常よ、水銀燈。 誰だって傷つきたくはないし、相手を傷つけることも望まない。 だから……くだらないと思うなら、それは貴女が――」 「それは貴女が一人ぼっちだから」 「一人ぼっち……?」 予期せぬ指摘に、眉をひそめる水銀燈。 そして、あれほど罵倒されたと言うのに、真紅の瞳には水銀燈に対する怒りは感じられない。 「他人と触れ合う事がなければ、傷つけあうこともないのだわ。 痛みを理解しようとしない貴女は、だからずっと一人ぼっちなのよ」 「ふん、何を言い出すのかと思えば……くだらなぁい。 私は貴女なんかとは違って、他の誰かの助けなんか借りなくても戦えるもの。 他人と触れ合うなんて、必要ないじゃなぁい」 「誰の力も借りず、自分一人の力で生きる。 ……それが本当に、お父様の望みだと?」 「当然よぉ。 私たちは、そのお父様の願いを叶えるために、今までの時間を過ごしてきたのだから」 鼻で笑い飛ばす水銀燈。 すい、と人差し指を真紅に突きつけ、見下した目で更に言い募る。 「そもそも、究極の少女、アリスに至る事が出来るドールはたった一人。 なら、薔薇乙女《ローゼンメイデン》たるもの、一人で戦い、勝ち残るべきなのよぉ。 それが出来ない貴女は、やっぱり三流ってことよねぇ……みっともなぁい」 「そう? ならば……あなたの後ろに立っている人間は一体なんなのかしら?」 「え……?」 弾かれたように、後ろに立っている人間……つまり俺に目を向ける水銀燈。 「確かに貴女の言う通り、究極の少女アリスはたった一人しか選ばれない特別な存在なのだわ。 でも、私たちが孤独である事がお父様のご意思であるならば、なぜ私たちは、ミーディアムを必要とするの? 「……私は貴女とは違う。 ミーディアム無しでも、貴方達、他のドールよりも優れているわ」 再び真紅に向き直り、呻くように言葉を搾り出す水銀燈。 だが、そこにはさっきまでの高圧的な勢いは無い。 そんな水銀燈を、さらに問い詰めていく真紅。 「では、なぜ契約したの? アリスゲームにミーディアムが必要ないなら、契約したのはアリスゲームとは関係ない、別の理由があったということよね?」 「り……理由なんか、無いわ。 士郎と契約したのは、ほんの気まぐれよぉ。 残念ねぇ真紅、貴女の言ってること、てんで見当違い。ほんと、くだらなぁい」 「人工精霊がミーディアムに相応しい人間を選定する理由を、考えた事がないの? 契約したことは気まぐれだったとしても、出会ったことには意味があるのよ。 ……私がこの時代で、アーチャーと出会ったように」 一瞬、真紅の目がアーチャーに向けられる。 だがアーチャーは、まるでその視線に気付いていないかのように――気付いていないはずが無いのだが――何も答えず、動じない。 「他人と触れ合い、痛みを知るというのはそういうこと。 それが分からないようでは……究極の少女とは言えないのだわ」 「っ……いちいち屁理屈を……!!」 真紅の言い聞かせるような言葉に、反発して苛立つ水銀燈。 俺は――。 真紅の言うとおり、ドールが孤独だというのは間違いだと思う。 そう考えた俺は、今にも攻撃を仕掛けそうな水銀燈を思いとどまらせることにした。 「もうやめよう、水銀燈。 今日は戦いに来たんじゃなかっただろ? これ以上は、言い争いだけじゃすまなくなる」 「なによ、黙ってなさい士郎! 真紅なんかに見下されたまま、黙っていられるほど、私はお人好しじゃあないのよ!」 水銀燈は、興奮で周りが見えていない。 俺は、なるべく刺激しないように、水銀燈に語りかける。 「そういう問題じゃないだろ。 先に喧嘩を売った側が、まず謝るのが筋ってもんだ。 なら、先に言い出した水銀燈が、手を引くべきだろう?」 ちらりと、真紅のほうを見る。 真紅は俺が水銀燈を止めるのを、感心したような目で見ていた。 「ふうん、人間にしては利口な方のようね。 ……貴方、名前は?」 「ああ、名乗ってなかったっけ。 俺の名前は衛宮士郎。 水銀燈の……その、一応ミーディアムをやってる」 尋ねられた名を、馬鹿正直に答える。 それが、俺と真紅が最初に交わした会話だった。 「そう。 私の名は真紅、誇り高き薔薇乙女《ローゼンメイデン》の第5ドール。 水銀燈とは敵同士だけど……貴方とは仲良く出来そうね、士郎」 「あ……そ、そうか?」 名乗り返す真紅は、ほんの少しだけ微笑んで見せた。 俺はそれを見て……不覚にも、ドキリとしてしまった。 「なに馴れ合ってるの、士郎! 貴方も真紅の肩を持つつもり!?」 しかしそれも束の間。 水銀燈が間に割って入り、俺の顔を睨みつけてくる。 「な、馴れ合ってるわけじゃないぞ! それに、どっちの肩を持つとか、何でそんな話になるんだよ!? 俺は水銀燈のミーディアムだぞ?」 「ふん、どうかしら? 戦うのが嫌いな臆病者同士、意外と気が合うんじゃないのぉ?」 「そりゃあ……戦わないなら、それに越したことは無いと思うけどさ」 確かにその点に関しては、真紅の言うことには賛成だった。 俺がそう答えると、水銀燈は軽蔑するように頭を振った。 「ほら見なさい。 雛苺のマスターの時もそうだったけど、ホント、女には節操がないのねぇ。 しかも揃いも揃って不細工ばっかり。みっともなぁい」 その言い草に、正直ムッとした。 俺のことはともかく、氷室のことを悪く言われるのは、不愉快だ。 「今話してるのは、これ以上お前が無意味な戦いをしようとするのをやめてくれってことだろう。 関係の無い氷室のことは、持ち出さないでくれ」 「無意味な戦いですってぇ? アリスゲームは私たちの生きる目的、生きる理由なのよ。 それを貴方は、侮辱するつもりなの?」 「違う、そうじゃない。 俺はただ、真紅の言い分にも一理あると思って……!」 「じゃあ士郎は、水銀燈が間違ってるって言いたいわけ!? ふざけるのもいい加減にしなさい!!」 話が噛み合わない。 人の話を聞かない水銀燈に、俺もだんだんとイライラしてくる。 「ああもう、だから、そうじゃないって! なんでそうなるんだ!? 考えが極端すぎるぞ、水銀燈は!」 「じゃあ、何なのよ!? 言いたい事があるなら、はっきり言ってごらんなさい!」 「ああ、じゃあ言わせて貰うけどな! 『アリス』を目指すのに、なんで姉妹で戦い合うなんて馬鹿な真似をしたがるんだ、水銀燈は!!」 「なんですってぇ……!?」 それは、今さっき思いついたことではなく、もっと前から……水銀燈に、アリスゲームについて教えてもらったときから、ずっと頭の片隅に引っかかっていたこと。 それを、感情が高ぶるままに、水銀燈にぶちまけた。 「お前が一人で戦えるって言うなら、俺は手出ししない。 ああ、『アリス』になるって言うなら、それもいいだろうさ。 でもな! 自分の姉妹を切り捨てて、一人だけ高みを目指して、それで究極の少女になれると思ったら大間違いだぞ!! 目的のために手段を選ばないような奴は、いずれ自分の目的にすら裏切られるんだ!!」 それは、例えば。 憧れた夢を追い続けて、最後には、夢にすら裏切られた男のように。 ふと、背後から視線を感じた。 気になって振り返ると、そこには、我関せずと沈黙を守っているアーチャーが居た。 ――フン、まるで自分が経験してきたかのように語るじゃないか、衛宮士郎。 だが、それ以上は止めておけ。 お前にも、そして私にも、それ以上のことを言う資格はないのだからな。 アーチャーは無言のまま、俺にそう語りかけているようだった。 その視線を感じた俺は、頭に上った血が徐々に収まっていくのを感じた。 ……そうだな、アーチャー。 今回ばかりは、お前の意見を尊重してやるよ。 俺は、一回大きく深呼吸をして、再度水銀燈に語りかける。 「……なぁ、水銀燈。 さっきお前は、一人で戦って、一人で勝ち残るって言ってたけどさ。 もっと、他の方法はないのかな? そんなんじゃ、いつか、壊れちまうぞ?」 ……あとになってから考えれば。 あるいはその一言が、決定的なトドメだったのか。 「………………………………さい……」 ぽつり。 水銀燈の口から、低く、暗いナニカが微かにこぼれた。 こぼれたナニカは、徐々に徐々に増えていき、そして……臨界を越えた。 「……さい……るさい……うるさい、うるさいうるさい五月蝿い!! 私は壊れない、壊れてなんか無いっ!!」 瞬間、最大限まで展開される黒い翼。 呆気に取られていた俺を、漆黒の奔流が襲う! 「がっ……!?」 抗うことも出来ず、俺の身体は黒羽の嵐の中に飲み込まれる! 腕、脚、胴、首、指、頭……その全てが拘束される。 身動き一つ取れなくなった俺をキッ、と睨みつける水銀燈。 その目に宿っているのは、明確な……殺意!? 「私は完璧なドールよ……! お父様は言ってくれた! 私にも『アリス』になる資格があると! だから私は『アリス』にならなきゃいけないの!! そのためには、他の子たちが邪魔なのよ!! 馴れ合いなんて、冗談じゃないわ!!」 自分の肩を抱き、自分に言い聞かせるように、絶叫する水銀燈。 これは……殺意だけじゃない。 ほんのわずか、混じっているのは……怯え、なのか? 「ばっ……バカを言うなっ……! 自分の娘に殺し合いを命じる父親を、どうしてそこまで信じられるんだっ……!」 かろうじて動かせる口で、なんとか言葉を紡ぐ。 自分の身体のことよりも、今は水銀燈の心のほうが心配だった。 だが、水銀燈はかぶりを振って俺を拒絶する。 「うるさいって言ったでしょう……! 下僕のくせに、どこまで私に楯突くつもりぃ!? その首を切り落とされたいの!?」 身体を拘束が、更にきつくなる! 首が絞まって、息が出来ない……! こ、このままじゃ……!? 吹き荒れる黒羽の嵐は、ますますその勢いを増していく。 まるで、水銀燈の怒りを反映しているようだ。 このままじゃ、死ぬ、か……? 「すい、ぎんとう……っ!!」 必死に呼びかけてみても、拘束は一向に緩む気配は無い。 やっぱり、水銀燈は、本気で俺を殺しにかかっている……! 「士郎、貴方のいい子ぶった考え方には、もううんざりなのよ……! 私を侮辱した罪、そしてお父様の意思を侮辱した罪!! 今ここで、死んで償いなさぁい!!」 「は、ぐあ……っ!」 憎悪の篭った瞳で、俺を睨みつける水銀燈。 全身を締め付けられた俺は、もはや声を出すことすら禁じられた。 (く、空気が、足りない……!!) 酸素の不足した脳が悲鳴をあげている。 死ぬ。 冗談でも誇張でもなく、俺はこの場で水銀燈に殺される。 (俺は……死ぬ?) 意外なことに、俺はひたひたと近寄ってくる死を、冷静に受け入れていた。 窒息寸前の頭では、死に対する恐怖が麻痺してしまったのだろうか? その代わりに、俺が考えていたのは、目の前に居る小さな少女のことだった。 (……水銀燈……) 自分を殺そうとしている相手の心配をするなんて、とことん俺は馬鹿だ。 でも、仕方ない。 俺は衛宮士郎だからな、歪なことにかけては筋金入りだ。 何しろ死ぬまで治らなかったんだもんな、アーチャー。 ……あぁ、そういえば、あの時アーチャーに言われた事があったっけ。 (俺が戦うのは、他の誰かじゃない……本当に戦うべきなのは) そうだ、せめて、あの言葉を水銀燈に……。 「う、が……」 ガツン、と、頭の中で激鉄を起こす。 輪転し始める魔力回路。 かき集めた魔力を、全て俺の喉の防護に使う。 魔術とはとても呼べない、ただの魔力の寄せ集め。 こんなんじゃ、ただの一時しのぎにしかならないのはわかってる。 でも、最後に、あれだけは言わないと。 そのために、少しだけでいい、俺に時間を与えてくれ……! 「す、い、ぎ、ん、と、う」 「……っ! まだ、戯言を言うつもり!?」 水銀燈の翼が一際大きく羽ばたくと、それに反応して俺の身体を縛る羽根も力を増す。 喉の魔力が急激に消耗していく。 だが、まだだ。 「ほん、とうに……かた、な、きゃ、いけない、のは……っ」 「くっ、見苦しいわよ……とっとと逝きなさい!」 更に引き絞られる。 喉を守る魔力が、一気に尽きた。 再び黒い羽根が俺の首を締め付ける。 あと一言でいい。 肺の空気を搾りつくして、気管を全てねじ切って、舌がカラカラに枯れても構わない。 言え。 言うんだ。 あと、一言――!! 「じぶん……じしん……なん…………」 それが限界だった。 全身の力が抜けていく。 もう俺は、声を出すことも出来ない。 これで、終わりか。 なんだか、凄く些細なことに、最後の力を使ってしまった気がするが……まあ、満足だ。 ……でも、水銀燈。 俺を殺して、姉妹を殺して、誰も居ない自分だけの世界の果てで。 お前は、自分が一番優れていると、満足して笑えるのか? 今まで歩いてきた道が、間違いなんかじゃなかったって、胸を張って言えるのか? それだけが……俺は……心配だよ…………。 俺の意識は、そこで途絶えた。 ……気がついた時、俺はベッドの上にいた。 「…………?」 なぜ、自分がこうして寝ているのか理解できない。 確かに俺は、水銀燈の怒りを買って、殺されたはず……。 「水銀燈……」 声に出して、その名前を呟いてみる。 今こうして俺が生きているってことは、水銀燈はあの後、俺に止めを刺さなかったということだ。 俺のことを赦してくれた……? いや、あの水銀燈の怒りから考えて、そんなことは有り得ないだろう。 じゃあ、一体何故……? 「目が覚めたか」 「っ!? アーチャー!?」 不意に声をかけられ、思わずそちらに目をやると、そこには開かれたドアの前に立つアーチャーの姿があった。 「アーチャー……そうか、あの場にはお前たちもいたんだったな」 アーチャーがいるということは、ここはもしかして、遠坂の館か? 寝た姿勢のまま、首を周囲に巡らせる。 そこには椅子、机、箪笥……見覚えのある格調高い家具が揃っていた。 どうやらここは確かに、遠坂の館らしい。 俺は、改めてアーチャーに視線を戻す。 「……ってことは、俺を助けてくれたのはお前……な、わけないよな」 「分かっているなら一々聞くな。 私がお前を殺すならともかく、その逆の行為を率先してやったりするものか」 俺が途中まで口にしかけた推理を否定すると、アーチャーは当然とでも言いたげに肩をすくめて見せた。 くっ、やっぱりこいつとは絶対そりが合わない。 「……そりゃどうも。 じゃ、俺がここで寝てるのは、やっぱり真紅の方の意向なんだな?」 「そういうことだ。 それより、目が覚めたのならさっさとベッドから降りろ。 元々そのベッドは、お前を寝かせるためにセットしたわけじゃないからな」 「げ、これベッドメイクしたの、お前かよ……」 途端にイメージが悪くなったぞ。 俺だって、アーチャーのセットしたベッドに、いつまでも寝ていたくは無い。 そう考えて、ベッドの横に降り立とうとした瞬間。 「いぎっ……!?」 身体の節々に、一斉に鈍痛が走った。 思わず、バランスを崩して床に突っ伏しそうになりかける。 「な、なんだこりゃ?」 体中が、ジンジン痺れるような痛みを訴えている。 そんな俺の姿を見て、アーチャーめ、軽く笑いやがった。 「ふん。 ま、あれだけ強力に拘束されていれば、そうなるのも当然だが……無様な姿だな、衛宮士郎」 そこのハウスキーパー、うるさい。 しかしそうか、この痛みは水銀燈の羽根に縛られてたせいか……。 まあ、痛みを覚悟していれば、耐えられないほどじゃないだろう。 気合を入れなおして、今度はしっかりと立ち上がる。 「ふう……。 それでアーチャー、水銀燈は?」 これこそ、俺にとっての本題だ。 しかし、アーチャーは俺の問いには答えなかった。 「……そのことについて、真紅がお前と話がしたいらしい。 下の階の居間でお前を待っている……ついて来い」 そう言うとアーチャーは、俺に一瞥もくれずに部屋から出て行こうとする。 慌てて俺も、節々の痛みを堪えながら、小走りに付いていく。 「おい、待てよアーチャー。 水銀燈は? どこにいるんだ?」 「………………」 アーチャーは無言で先を歩く。 階段にさしかかると、変わらぬ歩調でそれを下りていく。 その態度に、自然と腹が立った。 思わず、階段の上から怒鳴りつけてしまった。 「おい、お前なら知ってるだろ! 水銀燈はどうしたんだって聞いてるんだ!」 「ここには居ない」 簡潔に。 アーチャーはいともあっさりと、俺の問いかけを切って捨てた。 「え……どういう、ことだ?」 「分からんか。 ならばはっきり言おう」 階段を下りきったところで、アーチャーは足を止めた。 一階のフロアから、階段の上に立つ俺を見上げる。 そして、言った。 「あのドールは、お前を見限ったのだ」 「……………………」 じわじわと。 大地が水を吸収するように、その言葉は、俺の真っ白になった頭にゆっくりと浸透して言った。 そして、それはどろりとした焼け付く塊となって、俺の胸の中に重くのしかかった。 水銀燈が、俺を、見限った。 「…………そっ、か」 呻くように呟く。 だが、頭の片隅では、ああ、やっぱりな、と、どこか納得もしていた。 あれだけの仲違いをしてしまったのだ、殺されなかったにせよ、見限られるくらいは当然だ。 俯き、手すりをぎゅっと握り締める。 その時、ドアが開く音が聞こえた。 見れば、居間に通じる扉が開き、その中から一人の少女が姿を現していた。 「真紅」 赤いドレスに身を包んだ薔薇乙女《ローゼンメイデン》……真紅は、俺の姿を認めると、小さく一つ頷いてみせた。 「目が覚めたようね。 丁度、これからお茶の時間にするところなの。 せっかくだから、ご一緒して欲しいのだけど?」 「え? あ、いや、でも、今は……」 「どんな時でも落ち着いた振る舞いをするのが、レディのたしなみよ。 それは紳士でも同じこと。 ……アーチャー」 俺に否を言わせないまま、真紅は近くに立っていたアーチャーにこう言った。 「紅茶を淹れて頂戴」 「了解した。この小僧のために淹れてやるのは遺憾だがね」 アーチャーはそう言うと、即座に霊体化して消えた。 恐らく、そのまま台所に向かったんだろう。 「あ、ちょっと待てよ、俺はまだ飲むとは一言も……!」 「士郎」 俺は思わずアーチャーに文句を言いかけたが、真紅の言葉がそれを遮った。 「あせっても水銀燈は帰ってこないわ。 今の貴方に必要なのは、身体と心を落ち着けることよ。 アーチャーの紅茶の腕前は、私が保証するわ。 彼の事が嫌いなようだけど、だからと言って彼の淹れた紅茶まで嫌うのはお門違いよ。 いいわね?」 「あ……ああ、わかったよ」 本当はまだ少し、納得してはいなかったのだが、真紅に強く念を押されたので、思わず頷いてしまった。 「そう。いい子ね、士郎」 「いっ、いい子?」 いい子って……藤ねえ以外の人にそんな風に言われるとは。 しかも、人形であることを差し引いても、真紅はどう見ても俺より幼い少女だぞ。 「では、居間でアーチャーを待ちましょう。 こっちよ」 そう言って手招きする真紅に、俺は大人しく付いていった。 そのまま、遠坂邸の居間に足を踏み入れる……って、勝手知ったる他人の家なんだけど。 真紅はまっすぐに、部屋に置かれた椅子に向かった。 そして、小さい身体で器用に座席に上り、きちんと席に着いた。 「士郎も座りなさい。 ……紅茶がやってくるまで、少し話し相手になって欲しいのだわ」 「あ、ああ、わかった」 真紅に勧められて、俺も椅子に腰掛ける。 俺と真紅は、丁度、テーブルを挟んで対面に座る格好になった。 しかし、話と言っても、なにから話せばいいものか……。 俺が話しあぐねていると、真紅のほうから話を切り出してきた。 「……まずは、謝らなければならないわね。 私はあの時、士郎が水銀燈に殺されそうになっていたのに、それをすぐに止めようとしなかった。 その結果、貴方をとても危険な状態においこんでしまった……」 真紅はそこで言葉を切ると、俺に向かって深々と頭を下げた。 「……ごめんなさい。 私が、もっと早く、水銀燈を止めるべきだったのだわ」 それは恐らく、心からの謝罪。 しかし、そんなことされても困るのは俺のほうだ。 「や、やめてくれ真紅。 結局助けてくれたことには変わりないんだから、こっちが感謝することはあっても、そっちから感謝される筋合いはないぞ」 「しかし……」 「いいから、頭を上げてくれ。 この件に関しては、真紅が謝ることなんか何も無い」 「……わかったわ。 貴方、意外と頑固な人間ね」 ようやく真紅が折れてくれた。 頭を上げると、再び椅子に座りなおす。 「…………」 「…………」 ……会話が途切れる。 部屋に備え付けられた、柱時計の刻む振り子の音だけが聞こえてくる。 このまま黙っていても仕方ないので、俺は思い切って、今一番気になっていることを聞いてみることにした。 「えっと、それで、水銀燈はあの後、一体どうなったんだ?」 すると真紅は、辛そうに目を伏せた。 まるで自分自身が傷つけられたみたいな表情だ。 そして、ぽつりぽつりと、俺が意識を失った後のことを話し始めた。 「実を言えば、私は、水銀燈が自分から束縛を解くのを期待していたの……。 ギリギリまで士郎を助けなかったのも、それが理由。 でも、あの子は最後まで、士郎を殺すのを止めようとはしなかったのだわ」 そう言って、真紅はぎゅっと拳を握り締めた。 「あの時、士郎の最後の言葉を聞いた後、水銀燈は一瞬力を緩めたわ。 私はその隙を突いて、力を使って、士郎を縛る羽根を払い飛ばしたのだわ」 ……そう言われてみれば……確かに最後の瞬間、身体が軽くなったような気がした。 てっきり、俺が死んだから楽になったんだと思ってたけど……あれは幻覚じゃなかったのか。 「水銀燈はとても怒ったわ。 どこまでも邪魔をするつもりか、って。 私は、士郎を殺したら水銀燈は絶対に後悔する、と言ったのだけど……あの子の心には届かなかったみたい」 真紅は……最後まで、水銀燈のことを心配してくれていたのか。 そう思うと、俺の胸は少し、熱くなった。 「結局、水銀燈は……士郎なんか自分とはもうなんの関係も無い、って……。 そのまま、nのフィールドから出て行ってしまったのだわ」 語り終えた真紅は、沈痛な面持ちをしている。 恐らく、水銀燈が他人を完全に拒絶してしまったことを悲しんでいるのだろう。 ……だが、俺はそうは思わなかった。 もし、水銀燈が本当に他人を拒絶しているのなら。 今の真紅の話の中で、明らかに『ムジュン』している箇所があったからだ。 その『ムジュン』が実際に起こったことならば、まだ希望は残っているかもしれない。 その、『ムジュン』とは……。 真紅は、水銀燈が最後まで俺を殺そうとしていたと言った。 だが、そうするとおかしな事がある。 そう、それは……。 「待った、真紅。 でも、水銀燈は、最後は力を緩めたんだろ? これは俺の自惚れかも知れないけどさ、それってつまり、俺を殺すことを一瞬だけでも躊躇ったってことじゃないか?」 「……あ……そう言われれば、確かに……!」 俺の指摘に、真紅は初めてその事実に気がついたらしい。 そして、その真紅のリアクションで、俺は自分の推理に自信が持てた。 「そっか。 だったら、俺が死ぬ気で伝えた言葉も、あながち骨折り損じゃなかったんだな」 あの時、俺は死を覚悟した。 死ぬことは恐ろしかったが、それ以上に嫌だったのが、水銀燈が誰かを殺してしまうことだった。 だから、俺の言葉で水銀燈が一瞬でも躊躇ってくれたというのなら、それだけで命を懸けた甲斐があった……そんな気がした。 「ん? どうしたんだ、真紅」 ふと気がつくと、真紅が俺のことをじっと見つめている。 なんだか、息子を見つめる母親のような、そんな目だ。 「……水銀燈は……幸せね」 唐突で脈略がない真紅の言葉に、俺は首をかしげた。 「幸せ? なんでさ?」 「だって、こんなに自分を思ってくれる人が居るんですもの。 それは、とても幸せなことなのだわ。 でも……あの子は、それに応える事が出来ない」 真紅の表情が、一転して悼む者のそれになった。 「あの子は強く在ろうとしすぎたのだわ。 独りで居ることに慣れすぎて、それが当たり前になってしまっている。 ……本当は、それがとても寂しいことだと気付かずに」 「………………」 俺は、真紅の言葉を聞きながら、自分の薬指をじっと見つめていた。 そこには、変わらずに咲き誇る、金属の薔薇があった。 水銀燈は、俺の元を去ったが……俺との契約は、まだ続いている。 この指輪が、その証拠だ。 「待たせたな。 ふむ……どうやら二人とも、話に花が咲いていたらしいな」 その場の空気を払拭するかのように、台所からアーチャーがやってきた。 「アーチャー。 まるで私たちの話が一段落するまで、待っていたみたいなタイミングね?」 全くだ。 真紅の言うとおり、この男のことだから、その辺で出るタイミングを窺っていたに違いない。 だが、アーチャーは表情一つ変えずに、いけしゃあしゃあと言ってのけた。 「いや、私は良い紅茶を淹れるために必要な時間をかけていただけだ。 もしタイミングが良かったと言うのなら、それは逆に……相談事というのは、紅茶を淹れるくらいの時間で片付けるのが一番だ、ということではないかね?」 屁理屈だ。 俺は脊髄反射でそう結論付けたが、真紅はなぜか感心したように頷いている。 ……なんでさ。 「……なるほど、一理あるわね。 じゃあアーチャー、その苦心して淹れたという紅茶を、楽しませて頂戴」 「ふ、心得た」 アーチャーは手際よく、トレイの中からティーセットを並べていく。 並べたティーセットは3つ……あのヤロウ、ちゃっかり自分も飲む気でいやがる。 アーチャーは3つのカップに、順番に紅茶を注いでいった。 一番最初のカップは真紅に。 そして……。 「ほら、お前の分だ」 そう言って、俺の前にも紅茶の入ったティーカップが置かれた。 「……サンキュ」 自分でも愛想悪いと思うくらいの態度で礼を言ってやる。 アーチャーはそれを気にするそぶりすら見せずに、自分の分の紅茶を淹れ始めている。 アーチャーが淹れた紅茶に、ミルクポットを傾ける。 ミルクと紅茶が混じりあって、カップの中は白く濁った。 俺は、ティースプーンでそれをかき混ぜながら、居なくなってしまった自分のドールのことを思った。 (……水銀燈) お前はきっと、純粋だから、カップの中が濁る事が赦せないんだろうな。 でも、紅茶はミルクと触れ合うことで、口当たりが良くなるんだ。 俺が言いたかったのは、そんな紅茶もおいしいんだって、たったそれだけの簡単なことなんだよ。 ゆっくりカップに口をつける。 まろやかなはずのその液体は、なぜかひどく苦く感じた。 『銀剣物語 第五話 了』 さーて、来週の銀剣物語はー? ごきげんよう、私は真紅。 水銀燈が士郎と決別してから、一夜が明けたのだわ。 薔薇乙女《ローゼンメイデン》の中でも特に気難しいあの子のことだから、今頃どこでなにをしていることやら……。 でも、私はそんなに心配してはいないわ。 だって、水銀燈のミーディアムである士郎が、きっとなんとかしてくれるから。 ……あら、アーチャー、やきもちを焼いてるの? さて次回は、 「月のワルツ」 「夢であるように」 「どうしようもない僕に天使が降りてきた」 の三本よ。 来週もまた、見て頂戴。 じゃん、けん、ぽんっ!
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分配方法について(2007.10.8) きのう、イベント終了後に話のでていた今後の分配方法についてなんだけど、 みんなと話し合いたいと強く要望がありましたのでここにBBSを用意しました。 時間のかかる話し合いだと思いますし、INしている時間帯もそれぞれ違いますので^^ まあ、急いで決めてもいいことはないと思うしね^^ まずは、みんなの考えを知りたいので、よろしくお願いしますm(_ _)m まず要望のあった内容は、 花さん> ディアで順番待ちしている人と倒しにくる方が同じ花火のテーブルでは不公平だとおもう。 ディア待ち、ゲレロFA取った人、火力、盾など貢献した人が優先されるべき。 大手党などのオークション制度をみならうべき。 VONさん> ディアで順番待ちしている人と倒しにくる方が同じ花火のテーブルでは不公平だとおもう。 ディア待ち、ゲレロFA取った人、火力、盾など貢献した人が優先されるべき。 もらえないひとには、オークで得たVISをあげてはどうか。 アルナードです。こんにちは^^(2007.10.8) わたしから一言w 党の一番大事なところですね・・ いままでOZではみんなで仲良く花火で分配してきました。 これは、GEを一緒に楽しくやる仲間として ”新しく入った方にもいい物を” ”どんな役でも協力して一緒にやるんだから同じくもらえる権利がある” (たとえ火力がなくても死んだ仲間を助けてくれるだけで十分役にたっていると思います^^) などの考えでやってきたわけですが・・ もちろん、これはお互いの思いやりなど気持ちがあってこそ、うまくやってこられたわけですけどね^^いい人達がたくさん来てくれて恵まれているな~と感謝してます(^^) わたしの知っているかぎりでは、花火ルールで極端に誰かだけもらえないということは無かったはずなんだけど、みんなどうですか? 名前 コメント すべてのコメントを見る こんにちは~^^ プラさんとすこし話したんだけど これは、定期的に狩り続けられるよう(皆のテンションとかの話ね^^)にという話ですね。 今後実装されていく新マップなどを楽しんでいく上でもである程度の装備は必要だしねw ゲレロはみんなで走ることも多いし、単純にFAでは問題ですが たしかにディア一人で3時間並んで箱とかだったらテンションさがっちゃうかもですね^^; 皆、都合がわるく一人で並んでくれた・・これは私も、まずお好きな物をどうぞ^^と言うだろうけど^^ ただ、色々な状況(ディアで例えると一人で並んだ、交代で並んだ(2人で、4人でなど)、たまたま誰もいなくタルトが早く入った等)がある事だし、 みんなの気持ちもあるとこなので、難しい問題ですが・・ これ、今後の課題ですね。 基本的に”皆で仲良く花火”で分配をするという考えの中であればいいので 状況にあわせて わたしや、副党首さんの判断でみんなに聞きながらやっていきましょう^^ (わーいw、副党首もまきこんじゃったエヘヘ^^) -- (アルナード) 2007-10-16 20 18 46 とりあえず… ディア待ちの方 と ゲレロのFA取った方 を優遇するのは良いと思います^^ そうしないと、正直誰もディアやらないと思うしw -- (プラ) 2007-10-13 18 42 37 オレ様さんw、こんにちは^^ 入党の時に分配については説明して了解もらったと思ってたんだけど、納得してなかったんだね^^; 難しい問題ですね・・ これね、”貢献した人に優先(多く?)”と”みんなで仲良く花火”考え方の違いで どちらも間違っていないと思うし、正論であり、ある意味公平だとおもう。 ソロのほうが儲かるとは思わないけど、4回連続ゴミじゃね^^; ”みんなで仲良く花火”で、仲良く・・ここの部分(遠慮や譲り合い他色んな気持ちがあるとこだから)でうまくいかないことがあるなら、いい物もらったら次は遠慮するとか皆でなにか決めたらどうかな?^^ ※たしかに、ここの部分は皆で話あってきめたほうがいいかもですね^^ ”今までに花火分配が不満で抜けた方もいるみたいなので” >花火に不満だったわけじゃないんだけどね^^;; みなさんに・・ 私は、皆で苦楽を共にし、同じ思い出を共有しながら楽しくわいわいと 家族のような党を作っていきたいと、思っています。 そして、みんなにつよくなってもらいたい。みんなに楽しんでもらいたい。 だから、お金のないひとでも、IN時間が少ない人でもチャンスのある”皆で楽しく花火”にしていきたいと思っています。 ただでさえ、競い合いばっかりのゲームなんだしww党内ではそんなことは気にせず楽しくやりたいデス^^ その先には、楽しい未来が待っていると思っております。 一緒に楽しくやっていきましょう^^、これからもよろしくお願いいたしますm(_ _)m -- (アルナード) 2007-10-09 17 29 40 オレ様です。こんばんは^^ オレ様からいろいろw オレからみたら当たり前なことかな。他のネットゲーやってたけどそのゲームだと高額なアイテム出たらほしい人が買い取るか売れるまで待って参加した人数で均等に分配してたからね。 せっかく新設するんだからOZの名前や気持ちを引き継ぐにしても他党のいいところなど取り入れて人が集まる党にしないと変わらないと思う。 党首IN率多くていつでも布告できても戦力が伴わなかったら意味ないしね^^; そこで公平な分配方法の変更をお願いしました。今までに花火分配が不満で抜けた方もいるみたいなので・・・。 アルさんのGEを一緒に楽しくやる仲間としてだけど ”新しく入った方にもいい物を” ≫公平な分配で参加した党員全員に分配が、初心者さんlvの低い人には見学するだけで参加賞とかね、戦い方も見れて勉強になるし^^ ”どんな役でも協力して一緒にやるんだから同じくもらえる権利がある” ≫ここは取り違えかな?火力、盾に優先権がほしいとは俺は言ってないけど^^; ≫火力はおのずと強い人がやってるだろうし、盾も出来る人がやればいいと思う。 ≫ただし、ディアなど並ばなくてはいけないとか、ゲレロ、アングラーとか捜さなくてはいけないボスに関しては優先じゃないけど何割か多くとかないと ≫並ぶ人も捜す人もいなくなるだろうし、並んだり捜したのに箱だけとかじゃ次につながらないと思う。ソロしてたほうが儲かるじゃんとか強いフレ呼んだほうがいいじゃんとかね 花火で分配もどきどきして面白いんだけど 後から来たのにおいしいとこ持ってく≫気が引ける・・・。 並んだり捜したりしたのに箱だけ≫やる気END、ソロのが儲かるじゃん・・・。続くとだけどね、俺は4回連続ゴミだったことが・・・。 また、役に立たなかったから分配いらないとか途中から来たからいらないとかそういうのもなくなると思うんよ。 役に立たない?いやいや見るのも勉強参加賞!途中から参加?じゃあ何割か減だけどないよりいいだろ^^ 途中から来たっていう定義が難しいところだけどその辺は臨機応変に。 実際問題コロニーどころかディアすら満足に狩れない状況なんだから参加した党員にVISが回るようなシステムにしたほうが 個々でほしいもの買ったりできて党全体の力を強くできると思います。 で、ほしい人が買取るなんだけど、安く買ってぼろ儲けなんて人がOZにはいないと思いますが・・・。不安が残るようなら売れるまで待つ!とかね、方法はあるはず。 その他不安材料があると思いますが、こうしたほうがいいとかあったら意見の書き込みよろしくです! 花火分配を完全に否定してるわけじゃないのでイベントとして残してもいいかと思います。花火好きだしw その時は参加する全員が並ぶ、捜すをしないといけないけどね。鍵代ワリカンとか。 みんなで楽しくやる!楽しいのって何?レイド、コロニー、一緒に行けるところでSQとかでしょ、その為には装備が必要。 装備買うのにVISがいる、分配で箱?・・・装備買える?買えな~いTT 他の党で出来ていることなのでOZでも出来るはずです!みんなで儲けてみんなで強くなるために今回の分配方法変更をお願いしました。 私事ですが党員みんないい人だし、党 ぽちょさん、書き込みありです^^ ぽちょさんの気持ちはわかりました。 ただ、OZのルールでわたしも含め花さんやVONさんも今の自分があるんですよね^^ いまのルールだと”弱い?自分”はそんなに長く続きませんよ?^^ まあ、並ぶのも一人で並んでいるわけじゃないし、今までのようにお互い思いやりをもって仲良くやっていけば”みんなで花火”は公平なルールだと思うんだけどね。 それから、”リアルな時間をつかっていること”これはみんな同じで弱い、強いは関係ないと思うんですよ^^ 上でも言ったけど、GEを一緒に楽しくやる仲間として、私は”戦力になってない”とか、そんなことは考えたこともないし、仲間なんだから楽しくやればいいと思うよ^^ それが、OZ党のいいところでもあると思います。 あとね・・オークションって危険なところもあると思うんだよね。 安易にそれにしたら、公平ではなくなるよw いろいろ考えてみてください^^ -- (アルナード) 2007-10-08 19 15 34 分配のルールは今までの花火だと戦力として弱い私は非常に参加しにくいものがあるんですよ^^; ディア、ゲレロ待ちで時間費やして倒したのに花火のために貢献した人がしょぼい物が当たったら 。。と思ってしまいます。逆に、他の方からしたら後から来た人や、戦力になってない人にいい物持って行かれるのもなんだとおもうんですよ・・。 みんな公平に分配方式になれば気持ち良く参加できるなと。(私の個人的意見ですが^^; 寝ぼけ頭で書いてるので意味がわからなかったらごめんなさいと書いて・・(逃 -- (ぽちょ) 2007-10-08 16 47 55 test -- (アルナード) 2007-10-08 15 33 36
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< 【back】 【next】 > 「みのるくーん」 放課後、颯爽と家に帰ろうとしていたオレを先輩が引き留めた。 「みのるくん今日ひまかな?」 にっこりと先輩が微笑みかける。 その微笑みは宝石の輝きと例えるより、これから嫁ぎに出る村娘のために作られた白い絹のドレスが、朝焼けの光に照らされ、まばゆく輝いているさまだ、とオレは思った。 「もちろん暇ですとも」 この笑顔の前では、断る理由すら存在を許されない。 「じゃぁ、校門裏に来てくれるかな…」 先輩の頬がかすかに赤い。 寒い冬を乗りきった、まっかに熟れた林檎の皮を煮詰めて作った絵の具を、産毛のようにしなやかな細い筆に少し含ませて、先輩の微かに甘い香りのする柔らかな肌にうっすらと伸ばしたのではないかとも思わせる先輩の照れた顔。 どこからか林檎の爽やかな香りがした気がした。 「やっぱり忙しかった…?」 先輩の顔にみとれてて、つい返事をし損ねてしまっていた。 「いやいや、そんなことないですよ」 その言葉を聞いて安堵した表情を見せると、 「…それじゃぁ、待ってるから…」 そう言って先輩は駆け足で去ってしまった。 しかし、いくら鈍感と呼ばれる自分にもあからさまに分かる態度。 そして、校舎裏という王道的な場所への呼び出し。 …そして、あの表情。 これは、どうみてもオレにも春が来たということじゃないか…! そう思うと、なんだか急に心拍数が上がった気がした。 季節は冬。 オレの体は火照っていた。 そんなことなど考えていると、あと一つ角を曲がるところで校舎裏というところまできた。 まず深呼吸。 あんまり真っ赤な顔で行くのも恥ずかしい。いたって冷静、冷静を保つんだ。 Coolになれ、前原圭一。 そして、オレは角を曲がった。愛しい人の元へと…。 「え?みのりん?…ねぇ、蓬山先輩、こいつ使えるの?」 オレのことを「みのりん」なんて呼ぶ奴は一人しかいない…。 「おい、伊万里」 「へ?…あ、いだだだ」 伊万里の頬を軽くつねる。 「オレのことを「こいつ」なんていってくれたお返しだ」 「いったー!ちょっとみのりん何のつもり!?」 「それはこっちの台詞だ。なんで『おまえら』がここにいるんだよ!」 そこには、姉さん、先輩、みずき、伊万里、委員長、勢ぞろい。 「大丈夫、みのるは男だし、伊万里よりかは戦力になるでしょ」 みずき、ナイスフォローだ。 「そうだね、いざとなれば稔くんだけおいて逃げちゃえばいいしね!」 おいおい、実の姉がなんてこといいやがる。 「いい加減にしてくれよ。第一オレは先輩に…」 「先輩に…?」 そういって急に姉さんが接近してきた。その小動物のような小さなくりくりとした目から繰り出される上目遣いは、 考える力という物を停止させる。 「あっ!わかった!どーせ先輩に告られっふごふぁっ」 急いで伊万里の口をふさぐ。 「みずき、一生のお願いだ、こいつの口をふさぎ続けてくれ」 「了解っ!」 みずき、ナイスブロックだ。 とりあえず、今の状況をいったん整理しなければならない。 「先輩、いったいなんでオレを呼び出したんですか?」 オレに見せた、あの水水しく燃えるような火照った顔は、嘘だというのか。 「いや、ちょっと頼みごとを受けたんだけど、一人じゃどうにもならなかったから…ごめんね」 どうやら嘘ですた。 「まぁまぁ、そう落ち込まずに。ボクが慰めてあげるからさ」 「みずき」 「おーけぃ」 「ちょっとみずき!裏切るの?ちょっ…g」 みずき、ナイスガードだ。 「ったく。てかなんで委員長までここにいるんだ?委員長まで来なくてもいいのに」 「いや、蓬山先輩には前助けていただいたことがあったので、今回どうしてもお手伝いさせていただきたくて…」 なるほど。ということは白水は委員長のオプション、ってとこか。 「しっかし、よくこんなに集めましたね、先輩。こんなに人数がいる頼まれごとって一体なんですか?」 「ふふ…それはね」 「ある重要人物の護衛よ」 「これが駅周辺の地図です」 委員長の広げた地図は、観光などのようなちゃちな地図とは違い、本来なら地図上に乗らない道であっても、人が通れそうなところは全て書き記されており、 どの道にも大体の太さと、同時に並列で走れる人数の目安が書いてあったりと、すごいことになっている。なんだこれは。 「私なりに工夫して作ってみたんですが…」 「百合ぃぃ!完璧すぎますわ!」 「さっすが百合ちゃん、これで大体の逃げ道は把握できるね」 「じゃぁ、使いそうな道だけいくつか選んどいてチェックするね」 そういうと、みずきは赤ペンのふたを取った。 少し力んでとれないふたに、さらに力もうとしたところで急に抜けて、あっけに取られている顔がまたたまらない。 「ここは長くて細い一本みちだから、相手が長距離で攻撃手段を持っていると引き返せなくて非常に危なくなる可能性がありますわ」 「白水さん、意外とこういうのに詳しのね」 「だってりぃちゃんは弓道部ですもの」 「まぁ、百合ったらそんなこと言わなくてもよくてよ」 「ほら、ここなら使えそうじゃない?敵が来たときにここに入れば、一気に駅までショートカットできるし」 「でもここ一般の道として一応地図にものってるし、待ち伏せされたら危ないわね」 「そういえば蓬山先輩って武術ならってましたっけ?」 「ええ、ちっちゃい頃に…」 会話についていけねぇ…。なんなんだこれ。 とりあえず、もくもくと赤ペンで×やら○やら矢印やら書いているみずきの隣へ座る。 「稔、どーしたの」 「いや、話についていけなくてさ…」 「…あたしに言われても困るんだけどなぁ」 そっか、みずきも同じ状況なんだよな。 「お互い苦労してるよな」 「…うん」 「しっかし、こうしてみると平和だよな、目の前で女子が笑いながら話し合ってるんだ。」 「はい、百合、プレゼント」 「これってまさか…シグ・ザウエルのP228?」 「そうよ、わたくしが生まれたと同時に祖父がわたくしの護身用にと下さったのよ。」 「ありがとう、りぃちゃん!ありがたく使わせてもらうね」 「黒川さん、あんまり殺しちゃだめよ?後片付け面倒だし」 「はい、蓬山先輩。」 「ねぇ、稔…」 「すまん、前言撤回だ」 午後5時15分。学校出発。 「ソレデハ、ミナサンサヨウナラ。」 「こういうときはさようならじゃなくて、お願いします、っていうんだよー」 「オナガシマス?」 「ノーノー、オネガイシマス。」 「オー、オネガイシマスネ。」 蓬山さんと姉さんの二人で日本語教育かよ。 「しっかし、なんでわざわざ歩きなんだ?車とかの方が早いし安全じゃないか」 『それは違う』 「一体なんだと思えば白水か。びっくりさせるなよ」 「教えてさしあげますわ。この学校からだと、駅へ来るまで通る道は限られていますの。駅へ通じる道は、最終的には大きな大通りの道が2本だけになりましてよ。 そうすると何が起こると思います?」 そういって白水は首をかしげて見せた。 「いや、わかんないけど…」 その回答を待ってましたといわんばかりに、白水が口を開く。 「その大通り2本だけにしぼって、射撃ポイントをいくつか配置しますの。あとは目的の車が通るのを待って狙うだけですわ」 人差し指を左右に振り、自慢げに話す白水。なるほど、確かにこいつの言っていることは正しいな。 「それを回避するために、狭い道を縫うように歩いていくわけか」 「そうですわ。こうすれば、さすがに相手の待ちだけでの期待値は自然と小さくなる…あちらから行動を仕掛けてくるはずですわ」 「ボクたちにはもともと地の利がある。相手がたとえ地の利があったとしても、おそらく5分5分。みすみす引っかかるよりかはいいんじゃないかな?」 伊万里、お前そんなに頭よかたっけ…。 「おいおい、5分5分っていっても、相手が男で、かつオレらより人数が多かったらどうするよ?」 「出会うとしても細い小道ですから、大人数も少人数もあまり関係ないと思います。それに少人数の方が統制がとれやすいですよ」 さすが委員長。言うことが違う。 「でもさ、あたし達女の子だよ?」 いつのまにかみずきは目に涙をためていた。 「何いってんの、ボクがついてるから大丈夫だよ!」 伊万里がよしよしとみずきの頭をなでた。 「まぁ日本だし、よほどのことが無い限り物騒なことは起こらんさ」 そうフォローを入れてふと前をみた。 「オウ、アナタオカネモチ!スバラシイ!コレアゲルカラゼヒケッコンシテクダサイ!」 「え、ちょっとそれは…」 「いいよ、結婚しちゃいなよw」 なんてフレンドリーなんだ、このジョンとか言う男…。 しかも先輩に指輪なんかはめてやがる…なんだこいつ。 「焼いてるの?」 伊万里、お前という奴は…。 「違うわボケ」 「焼いてるんだぁー…」 「みずき」 「ほぃほぃ」 「ぐあっ、みずきなにをすrg」 みずき、ナイスセーブだ。 「そういえば、先輩のそれってなんですか?」 よく見れば先輩は背中に細長く布で包まれたものを持っている。 まさか先輩が…とは思ったが一応念のために質問したのだ。 「ただの木刀よ。護身用のね。」 「あぁ、そうですか…」 いつのまに世の中ってこんな物騒になったんだろうね。 「はぁ」 ため息をついた瞬間、腰に電撃が走る。 「っ!!」 「もう少し気を引き締めて。敵がだいぶ迫っていましてよ。みずきさんを道の内側にして、守ってあげてなさい」 言葉遣いはいつもと変わらないのに顔がマジだよ。こえーよ。 「…あぁ。みずき、交代だ」 これはさすがに納得せざるを得ない。 「あ…え、うん…」 心なしかみずきの顔が赤い。これは結果オーライか? そのとき、先輩の声がした。 「みんな良く聞いて。敵が付けてきてるみたいだから、予定通り次の角を左に曲がるわ。 曲がり終わったら、全速力で猛ダッシュ。その後一番最初にある右の道に入って。」 場に緊張が走る。 「何人くらいかしら?」 「4人くらい。角はもうすぐだから、白水さん後ろお願いね」 「かしこまりましたわ」 先頭は、姉さん、ジョン、先輩。 次に、伊万里、オレ、みずき。 最後は、委員長と白水。 次々と角を曲がって、黙々とダッシュする。 最初にある右の道まで、10Mほど。オレは全速力で駆け抜けた。 「はぁはぁ…みんな大丈夫か?」 あたりを見回す。みんな無事なようだ。よかった。 「みのりんは心配性なんだからー」 こんな状況じゃ心配するだろ…。 「おい、いたぞ!」 「まずぅ、ボク達見つかっちゃったみたいだよ!」 「後ろはわたくしが担当しますわ。あなたたちはジョンさんを…」 「わかったわ」 やばいやばいやばい、マジで死ぬぞこれ。なんだこれ、ホントになんなんだよ…。 「とりあえずこの道を突っ切るわよ」 先輩の言葉に皆続いていく。 「おいおい、白水一人で大丈夫かよ!」 「大丈夫よ!白水さん意外と強いの」 そういう問題じゃないだろ、4人だろ4人…と思いながらも俺が助けにいってもしょうがないし、とりあえずこの暗い細道を走る走る。 そうして、俺らは少し広い道にでた。 「今度はあの路地よ、急いで!」 幸い人通りが少ないので、スムーズにいけてる。以外に駅まで簡単にいけるかも…。 「おい、見つけたぞ!逃がすな!先回りだ!」 先回りって…ちょっとやばいって、マジで…。 「確かこの道って途中でT字路になってたよね」 「右か左か、どっちかを選べってことね」 「駅は右だから、みんな左よ!」 「了解」 みんな走りながら喋るなんてどんな体力してやがるんだ。オレは呼吸を保つのに精一杯だというのに。 とりあえず、言われたまま左に曲がる。 「…しまった!」 どうやら左側に先回りされてたみたいだ。 「右よ右!」 そう言われて右を向くと、そこにも人。 「もと来た道もダメみたい」 やばい、出口が無くなった。 「どうやら囲まれたみたいね」 「早紀、どうする?」 「どうするも何も、どうみてもこれは死亡フラグだろ、常識的に考えて」 「うるさいな、稔はちょっとおだまり!」 ポカンと姉に殴られた。痛いよねーさん。 「よし、決めた!元から来た道、おねーちゃんがやっちゃうぞー」 「おい、待てって姉さん!もと来た道が一番敵が多いじゃん!」 「いいから、稔君はちょっと見てなさい!」 姉さん死ににいくつもりなのか。辞めてくれよ、ここで実の姉が死ぬところなんてみたくねーんだよ…。 「だめだ、オレがゆるさん」 そうやって姉さんの肩にかけようとした手は簡単に弾かれた。 「いっちゃん、稔君を…よろしく」 伊万里はうなずいた。何も言わない。 「おい、放せよ伊万里…」 「やだよ」 「オレに姉さんが死ぬところを黙って見てろよって言うのかよ…」 「いいから見てなって」 「くっ…ぐぁ」 無理やりほどこうとしたが、今度は先輩に制された。先輩の指が、オレの肩にぐっと食い込む。ダメだ、力がでない。 「ちくしょぉ…ちくしょぉぉ…」 「さぁ、これからひめの楽しい楽しいショータイムの始まりよ」 そういうと姉さんは空に手をかざした。 「召還!いでよ、キューティクルソードっ!!!」 突如、姉さんの手からあふれんばかりの光があふれ出す。 そして、光が収まるころには、姉さんは黒と白で統一された、小悪魔という名前が似合いそうなゴスロリ衣装になっており、かざした手にはいつの間にかチェーンソーが握られていた。 「あ、それあたしのチェーンソー!!」 おまえのかよ! 「ごめん、ちょっぴしひめに貸してね!」 そういうと、姉さんはなにやらぶつぶつと唱え始めた。さっきの様子からして今度は魔法だろうか…。 「聖なる光よ、舞い落ちてこの悪党どもらを蹴散らせ!ファイナルホーリーバーストォォォ!!」 そう叫ぶと、姉さんは単騎で敵に突っ込んでいった。 こうかはばつぐんだ。 「ひぃぃ!!」 「あはは、あははは!」 ダメだ、姉さんは壊れてる…。 「ひめっちの開いた活路を無駄にしちゃだめよ!」 とりあえずもと来た道を戻るが、姉さんと男どもの戦闘でまだ抜けられない。 そして、左右の道がつめて来た。なんだかさっきより状況悪くなってね? 「くっ、皆後ろに」 そういったのは委員長だった。 「委員長!委員長もあんな風になんか変身できるのか!?」 「藤宮君、それは誤解です!」 そう言うと、委員長はゆっくりと銃を向いた。男達の短い悲鳴が聞こえる。 「どきなさい。さもないと、打ちますよ」 しかし、男達はどかない。委員長はトリガーへと手をかける。 「私は…本気です!!」 そういって、引き金を引いた。俺はとっさに耳をふさいだ。 ガキィィン… 「あ、ジャムった」 「いまだ、突っ込めぇぇ!!」 やばい、男達が突進してくる。先輩が背中のブツに手をかけてるが、先輩だけでホントに大丈夫なわけがない。 ここはオレが、男のオレがなんとかしなきゃいけない。そう思って、ふんばって立った時だった。 風のめくれるような音。それが連なって聞こえたと思ったら、前の男達が倒れていた。 「ふふふ、ざまぁみろですわ」 頭上から声がする!見上げてみるとそこには、人影が10人ほど。 「我が部の特に優秀な部員を調達してきましたわ。敵なんて近づく前に全滅でしてよ!」 「りぃちゃん!これ一回も整備してないやつでしょ!なんでこんなの渡すんですかっ!もう少しで死ぬところだったんですよ!!」 委員長がそう叫ぶと、 「そんなの、策があってのことでしてよ。百合がジャムれば、全員の注目は百合に行く。さらに、一瞬場が硬直する。屋上から射撃させてもらうには一番いいシチュエーションだと思わないかしら?」 そういって白水は頭上で高らかに笑った。 「く、いったん引くぞ!」 そういうと、今倒された男達の後ろに控えてた奴らが逃げ出した。 「追えー、逃がしてはいけませんわ!」 そういうと、白水はどっかに去っていった。 「終わったよー」 ふと後ろを振り返ると、男達が全員うちのめされていた。 幸い、殺人までいたらなかったようで、弟として一安心だ。 「みずきちゃん、はいこれ。ありがとっ」 「いえいえー」 なんかこの取引はいただけんな。 「ふぅ。ほらみずき、ボクのおかげでなんとかなったでしょ!」 「どうみてもお前のおかげじゃないだろ!」 「あはは、でもとりあえず助かってよかったぁ」 「でもみのりんずっとビビッてて腰抜けてたじゃない!」 「う、うるせーな!」 とりあえず、危機一髪、九死に一生というところか。なんとか生きながらえれた。 俺達は、助かったんだ…!! 「とりあえず、これどうしよっか。」 この薄暗い道に倒れている、10人程度の大男達。 「ほっとけばいいんじゃない?どっちもどっちみたいなもんだしさぁ」 「そうだね、私のほうで回収しようかと思ったけど、その必要もないかな」 そういうと先輩は出していたケータイをしまった。一体バックにどんな組織がついているんだ…。 そういえば白水はまだ逃走中の男達をいまだ追ってるらしいが大丈夫だろうか。 「こんなところに長くいないで、さっさと退きましょ、応援が来てもいけないし」 「そうだね。早紀、なんかお腹空いたからどっかに食べにいこうよー」 「うーんいいけどその血だらけの制服なんとかしなきゃ」 「あぁ、えへっ」 そういいながら歩き出したときだった。 「おい、全員動くな」 うずくまっていたはずの男が、寝たままの状態から銃を先輩に向けていた。 「そうだ、いい子だ…」 オレはなんだか嫌な予感がした。 「そこの緑の女以外、みんな壁に伏せて手を上げろ」 皆しぶしぶと従っていく。でもオレは気が乗らなかった。 「稔くん、早く伏せて」 「でも、先輩が…」 「私は、大丈夫よ、いいから早く」 そういわれてしぶしぶオレも伏せる。 「おい、お前…誰に頼まれた」 「あら、私だってことがよく分かったわね」 「余計なことは言わずにさっさと吐け…友達の命が惜しくなけりゃな」 「本人に直接頼まれただけよ。他に何かある?」 「あいつはどこに行った…?」 そういえば、ジョンはいつの間にかいない…。 「あれ、ホントに居ないわね…」 「ふざけんな!…あいつの行き先を教えろ」 「知らないわ」 「ふん、役立たずめ…質問はこれで終わりだ」 そのとき、なにか電撃が走った。なにかしなくちゃいけない、そんなような気がする…。 気づいたら、オレは先輩を庇って先輩を押した。 その刹那、建物の壁に銃弾がめりこむ。さっき先輩の頭があった場所と同じそこに、銃弾の後が残っていた。 男の銃は、オレに向けられた。しまった、避けれない― 急に回りがゆっくりになった。 そしてオレは悟った。 あぁ、そうか、オレは死ぬのか。昔どこかで聞いたけど、死ぬ間際に世界がゆっくりと進むって本当だったんだな。 すべてがスローモーション。その世界の中で、男の引き金がゆっくりと引かれるのが嫌というほどわかる。 弾丸は、まるでカタツムリのように、とてつもなくゆっくりとしたスピードで発射された。 カタツムリの通ったあとのように、空気が少し歪んでいるのが確認できる。 弾丸は少しずつ、それでも確実に迫ってくる。 目を閉じない。最後まであけている。この世界を、少しでも長く見ていたくて。 そのときだった。 そのスローモーションの中で、光が動いた。 突如、弾丸が真っ二つに割れて、まるでオレの顔を避けるかのように通っていった。 二つの弾丸が顔の横を通り過ぎ、着弾する音がした。世界が普通の速さに戻る。 「な…」 驚きを隠せないままでいる男に思いっきり近づく影と光。それは、真剣を持った先輩だった。 「くっ…!」 もう一度撃とうとするがもう遅い。先輩の真剣の矛先が、男の握る銃を真っ二つにした。 そして、先輩は男の横に思いっきり真剣を突きつけた。 「参りました、は?」 「参りました…っ」 そういうと、男はしなれたほうれんそうのようにその場に座り込んだ。 風呂っていいよね。外の体で冷め切った体を温めて、疲れさえも包み込んでくれる。 「稔ーどうだった?今日のおねえちゃん」 ドアの向こうから、姉さんの声がした。 「どうもこうも、あれは反則だろ」 「ピンチだったんだからしょうがないでしょー。でも稔が庇ってくれたときはうれしかったよ」 その語尾に含み笑いが確かに入っていた。こいつ、明日学校で言いふらす気だろ…。 「うるさい」 そういって、オレは浴槽の水に口をつけ、泡を作り始めた。 ぷくぷくと気持ちいい音を立てながら、次々と泡ができてくる。 「ねー稔」 「うーん?」 「早紀がね、とっても嬉しそうだったよ」 「ふーん、先輩がねぇ…」 「自分を犠牲にして庇ってくれて、ありがとうだって」 「やめろよ…」 照れくさくて、顔を深くお湯につける。 「今度学食奢ってくれるってさっ。」 なんだろう、この気持ち。頬が熱い。 「姉さん、もう出るから」 「あ、はいはいー」 風呂からでて、自分のベッドに仰向けになる。 のぼせたのか、頬の火照りがまだ取れない。外は真っ暗で、もうだいぶ冷えているというのに。 そのとき、ノック音とともに 「いい?」 と姉さんの声。 ガチャリとドアが開く。 「あのさ、早紀が明日の放課後屋上に来て欲しいって。そんだけ。じゃぁおやすみー」 今度は屋上…。これまた王道的な場所だな…。そういえば、風呂場で先輩が嬉がってたって姉さんが行ってたっけ…。 「これはもしや…」 思いっきり布団にもぐりこんだ。今度こそ、もしかすると、もしかするかもしれない…。 明日への夢いっぱいの思いを胸に、オレは眠りに入った…。 放課後、屋上への階段を上る中、オレは考えていた。 「いいですよ、前からオレ先輩のこと好きでしたし…」 いや、だめだな。 「そんな、言わなくても前から分かってましたよ、先輩の気持ち」 これはキモチワルイ。 先輩の思いを一体どの言葉で受け止めたらいいのだろう。 「やっぱり無難に『オレもです』にしとくか…」 これが一番いいだろう。そう思っているうちに、屋上への扉の前に来た。 この扉を開ければ、恥ずかしそうにもじもじしている先輩が立っているに違いない。 深呼吸。 そして、ドアを開ける。 「え?みのりん?…ねぇ、蓬山先輩、前こいつ使えなかったジャン」 オレのことを「みのりん」なんて呼ぶ奴は一人しかいない…。 「おい、伊万里」 「へ?…あ、いだだだ」 伊万里の頬を軽くつねる。 「オレのことを「こいつ」なんていってくれたお返しだ」 「いったー!ちょっとみのりん何のつもり!?」 「それはこっちの台詞だ。なんで『おまえら』がここにいるんだよ!」 そこには、姉さん、先輩、みずき、伊万里、委員長、勢ぞろい。 「大丈夫、みのるは男だし、伊万里よりかは戦力になるでしょ」 みずき、ナイスフォローだ。てか伊万里、お前は前何もしてなかっただろ。 「そうだね、いざとなれば稔くんだけおいて逃げちゃえばいいしね!」 おいおい、実の姉がなんてこといいやがる。てかこれなんてデジャヴュ? 「いい加減にしてくれよ。第一オレは先輩に…」 「先輩に…?」 そういって急に姉さんが接近してきた。その小動物のような小さなくりくりとした目から繰り出される上目遣いは、 考える力という物を停止させる。 「あっ!わかった!どーせ先輩に告られっふごふぁっ」 急いで伊万里の口をふさぐ。 「みずき、一生のお願いだ、こいつの口をふさぎ続けてくれ」 「了解っ!」 みずき、ナイスブロックだ。 とりあえず、今の状況をいったん整理しなければならない。 「先輩、いったいなんでオレを呼び出したんですか?」 オレに見せた、あの水水しく燃えるような火照った顔は、嘘だというのか。 「いや、ちょっと頼みごとを受けたんだけど、一人じゃどうにもならなかったから…ごめんね」 二度目の期待はむなしく裏切られた。 「まぁまぁ、そう落ち込まずに。ボクが慰めてあげるからさ」 「みずき」 「おーけぃ」 「ちょっとみずき!裏切るの?ちょっ…g」 みずき、ナイスガードだ。 「先輩、こんなに人数がいる頼まれごとって一体なんですか?」 「ふふ…それはね」 「じゃーん、マイケル・スミスさん。今日はこの人の護衛よっ!」 < 【back】 【next】 >